風がふわりと
本日2話目
「来るのを待っていた」
「本当に」
とネコたちは口々にノクリアに話しかけた。
ノクリアは瞬いた。
随分歩いて長距離を移動した。だから、このネコたちに会う事はもう無いはずだと思っていたのに。
「全然来ないので、途中でやられたかと心配していたよ」
と、ノクリアが一番初めに会う事になった茶色と黒の模様のネコが近寄ってきて、けれど途中で足を止める。
ノクリアは答えた。
「どうしてここに? 私たちはずっと長く移動した。あなたがたの方の足が速かったというのか?」
「むしろどうしてこんなに遅かったのか疑問だよ」
とネコは言った。
「まぁ、とにかく無事を祝おうじゃないか。ノクリアは、タクマのために必要な人間なのだから」
と、また別のネコが言った。
***
ノクリアとネコは情報を交換しあった。
ネコは、人間が使う移動手段をうまく利用してこちらに来たと知った。
使えなかったノクリアには羨ましい話だ。
ネコたちは、ノクリアがタクマの身代わりでこちらに来たことをしっかり把握していた。
タクマを大事に思う白ネコのために、この世を治めるネコたちは、タクマのためにノクリアの保護にと動いたらしい。
この近くの地域で生活しつつ待っていたが、ずっとノクリアが現れないので諦めムードが漂っていたところ、他のネコたちが変な人間に出会ったという情報を得た。それでノクリアの到着を知ったそうだ。
雨が嫌でやむなく数日待機していたが、今日はこのように会えたという。
***
「まぁ。あのままノクリアを守ったのは認めよう」
ネコは、丘の上の草原でゴロゴロとしながら話してくる。
昨日まで寂しい場所だったのに、今日は良い天気も相まって、ネコの天国のようにのどかな丘になっている。
「それが封印されているなどと。プ。ププププ」
「ぷぷぷぷぷー」
ネコたちが妙な笑い方をする。つまり男の事を馬鹿にしているのだ。
ノクリアが返事に困っていたら、突然ネコが「ギャッ」と跳び上がった。
目を丸くしたノクリアとは別に、ゴロゴロしていたネコたちがあちこちで「ギャッ」「ミッ」と声を上げて飛び起きている。
「どうしたのだ?」
「コイツめ!」
ノクリアが不思議に問うのに、ネコたちは前足で丘をポコポコ殴りだした。
虫でもいたのだろうか。
今、ネコと同じ様に丘の上に足を延ばしているノクリアは、草原を撫でてみた。
とても柔らかくて心地が良いと思う。
「チッ。コイツ、ノクリアばかり良い顔をして!」
ネコがイライラとして毒づくので、ノクリアは首を傾げた。
尋ねてみようと思ったが、ネコたちはそれぞれ草原相手に格闘中だ。
こんなにフワフワ優し気な場所相手に何をムキになっているのだろう。
不思議に思いつつ、ノクリアは手慰みに、生えている草をひっぱった。
結構頑丈だ。
クィクィと引っ張ってみる。
クック、と笑われたような、気分がした。
「・・・え?」
ノクリアはマジマジと草を、地面をみた。
それから改めてネコたちの苛立ちと地面への攻撃の様子を見やる。それから巨石の方を見る。
巨石はネコたちに何の関心も示されていなかった。
あれ。
と、ノクリアは違和感を持った。
男の方は、ネコを嫌っていた様子だった。つまり、両者の関係は良好ではなさそうな、雰囲気があった。
なのに巨石は静かにそこにあり、ネコたちは巨石など目もくれず草原と格闘しているのだ。
待って。
ひょっとして。
ノクリアは、草原に向かって両手をついた。何かを探すように四つん這いになる。それから、顔を、耳を地面につけた。
「あなたは、ここにいるのか?」
ふわりと、風がゆれたような、そんな気分が、した。
いた。ここにいた。
ノクリアは唇をかみしめた。
ここにいたのか。
静かに涙目になったノクリアを宥めるかのように、またふわりと草が揺れた気がした。
「ごめんなさい。ごめんなさい。こっちだったのか」
ノクリアが地面に伏せって言葉を零し出したので、ネコたちは少し驚いたようだ。だけど気にする事では無い。
良かった、ちゃんといた。
愚かなことに感情が揺れてしまってポロリと涙が落ちる。
「ノクリア。どうしたの」
ネコが驚いて集まってくる。
ノクリアは笑った。
「やっと、私が、会えたと思って」
私は愚かだな、とノクリアは目を閉じて地面に頬をつけながら笑った。




