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本来の姿

ノクリアの呼びかけに、男は止まった。

「なんだ?」

「いや・・・なんでもない」

呼び止めておいて、その先を持たない。


「本来の姿が魅力的過ぎるから、落ち着こうとしているだけだ。すぐ戻る」

「・・・」

やはり気落ちしているノクリアを置いて、男は宣言通りに向こうに行ってしまった。


なんて馬鹿なのか。ノクリアは膝を抱えた。


幼少時からずっと矯正具の使用を命じられていた。成長に悪いからと就寝時のみ解除するように指示を受けていて、それ以外はずっと使用している。

その上、こちらでは術が使えないから、就寝時もずっと解除しなかった。夜も続く矯正は苦しかったが、慣れたのに。急に解除されて戻せないなど、不安しかない。


服も窮屈だから、男の提案通りにこちらの世界の服に頼るしかない。

国からの支給品以外のものを身につけて、防御性に問題は無いのか。不安ばかりが募っていく。

術が使えないから支給の服の機能もほぼ使用できていないが、それでも厚手で行動に適した素材なのに。


そして、この悪しき体形で活動するのは大変そう。

男が非常に恨めしい。


それから、ノクリアはクン、と鼻を動かした。

匂いなんて何もしないと思う。


ジェニファ、ティテア、カレンリュイ、・・・


ノクリアは、同じ体つきで幼いころから矯正具仲間だったものたちの名を脳裏で呼んだ。

きっと己の不安さを等しく分かってくれるだろう彼女たちからの答えがないのは、充分に分かっているけれど。


***


「ノクリア! 大変だ」

男が血相をかえて戻って来た。

それから足を急に止め、座り込むノクリアの姿をマジマジと見た。


ノクリアは縋るように見上げた。己の身体をギュッと抱く。少しでも体積を小さくしたかったからだ。


男はノクリアの様子に違和感を持ったようだ。深刻そうな、怪訝な顔をした。

「ノクリア。怯えるな。どうした。本当に、すまない」

「・・・もう良い。どうしたんだ?」

目を伏せて答えるノクリアの肩に手をおき、男はノクリアの名を呼び目線を上げさせた。


それでいて、男は少し迷ったようだ。

じっとノクリアを見つめた後、男は詫びた。

「私が本当に軽率だった。本当に、すまない。危害を、与えたかったわけじゃない」

男の言葉に、コクリとノクリアは頷いた。

男は続けた。すこし弁解のようだ。

「何か、引っ掛かりを感じたから。本当に、すまない」

「分かった」

ノクリアが再度頷くと、男もじっとノクリアの様子を見つめて、頷いた。


「・・・私のせいだ。今から言う事を、よく聞いてくれ。時間が無い」

男の言葉にノクリアはしっかりと顔を上げた。男の様子がおかしい。酷く真剣だ。


それでいて、やはり、男は少し迷った。けれど、意を決したようだった。

「・・・ノクリアは、私の事を好きでいてくれる。私は魔族だ。だから、嫌悪しないで、聞いてくれ」

「・・・なんだ?」


「ノクリアは、魔族の性質が、かなり強い。勿論人間なのだろう。だが・・・ひょっとして両親のどちらかが魔族だったのではと思えるほど、性質が強い」

「え?」


理解してから不安に揺れたノクリアの目を、男はじっと見つめて、言い聞かせた。

「頼むから、聞いてくれ。私が、ノクリアの身体を『人間の理想形』にしていた術を外してしまった。私には非常に魅力的だ。それで、先ほど少し離れた。変だと気づいて、分かったのだが、ノクリアは、魔族にとって好ましい匂いを出している。そういう種族が魔族にいる。それとそっくりだ」

「え?」


「問題は、そこではない。良いか。広範囲に広がるのだ。このままでは、ノクリアを他から隠せない。ノクリアは、良い匂いのする、人間だ。極上のエサになる」

男の言葉に、ついに声も上げられなくなった。理解はできているはずなのに、思考がついていかない。


「良く聞いてくれ。今、私の半分は他のところに向かっている。そちらで陽動するつもりだ」

「え」

「もう遅い。この作戦で動いているから、うなずいてくれ」

男が言い聞かせている。ノクリアのためを考えての話なのだろうと、思えてもいるが。


「私の本体の場所まで、もう少しだ。だが食料の問題がある。私のこの半分をノクリアにやる。蜘蛛の網を、破ろう。ノクリアは本来の場所に降り立つんだ。良いか。食料は、店の裏を探せ。まだ食べられるものが捨ててあることがある。それを探して、食いつないでくれ」

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