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本日2話目

「あぁああ、もう! 術が使えないから、戻せないのに」

ノクリアは嘆いた。

動きやすく体を矯正してあるのを、解かれてしまった。


なお、これは幼い時からの指示だ。ノクリアは平均より胸囲が発達している。

支給される服はサイズが決まっているから、誰でも同じ服が着れるようにという意図もあると言われた。


ノクリアは動揺しているらしい男を睨んだ。

「もぅ! 動きづらいのに!」

「いや、待て・・・」

男はノクリアを何度も瞬きするように眺め、ふと下半身に目を留めた。

まずい。ノクリアは慌てた。

「待て、駄目!」

静止したのに、男は早かった。下腹部に手を出される。またも術が解かれた音がして、ふくよかな下肢に戻ってしまった。


「あぁもう!」

ノクリアの嘆く声とは他所に、男は一瞬動きを止めた後、後ろずさった。

気づいたノクリアはそれに傷つきつつ怒った。

「せっかく隠していたのに馬鹿! 術が使えないのでずっとこのままになる!」


男はゴクリと唾をのんだ。

「なぜ、隠して・・・」

と言いかけ何かに気付き、急に近寄ってきた。急変にノクリアは思わず後ずさりかけた。


真剣な表情だ。一体なんだ。何を言われるのか。

緊張したノクリアに対し、男はあろうことか、ノクリアを近くでじっと見つめ、それから胸元、腹に顔を寄せた。

矯正せざるを得ない自分にコンプレックスがあるノクリアは涙目になりそうだ。


何をしているのかと思えば、どうやら匂いを嗅いでいるようだ。

犬なら許せたかもしれないが人の姿で! と震える思いがしたが、恥ずかしさのあまり口にも出せない。


男は再びノクリアから距離を取るように身を引いた。

それから口元に手を当てる。本人曰く、照れた時にそうなると言っていたが。


「あの・・・」

ノクリアが恐る恐る、様子を伺うように声をだす。

男の顔が赤くなった。

「声も、違うぞ。・・・いや、何かあるなと気が付いたら、つい。・・・すまない」

「・・・動きづらいのに」

「すまない。・・・でもそんなに困るのか?」

「眠る時以外は常に矯正しているのだ。慣れない」

「それが本来の姿なのだろう? そのままで良いじゃないか」

「・・・動きづらいし、醜いから矯正しろと言われている」

「国から? ノクリアだけにか?」

「国からだ。私の他にも・・・三分の一ほどは、同じように矯正してる。私だけではない」

ノクリアの答えに、男は、ふと訝しそうな顔になった。口元は手で覆ったままだが。


少し無言になり、途方に暮れてノクリアは項垂れた。

明日からどうすれば良いのか。戻せない。

なにより、幼い頃より矯正を受け続けている身だ。己のこの締まりのない姿は嫌いだった。

それを寄りによって好きな者に見られるなど羞恥しかない。


男は目を閉じた。

「まずい。魅力的過ぎる・・・」

男の呟き声に、ノクリアは耳を疑った。

顔を上げて見つめてみれば、嘘をついている様子には見えない。


ひょっとして、魔族だから、価値観や好みが違うのかもしれない。

・・・そうなら、良いのに。


縋るように様子を見ていると、男はため息をついて、ゆっくりと目を開けてノクリアを見た。

「・・・術を解いて、怒っているか?」

「・・・困っている。どうしてくれるんだ」


「ノクリアに合う服を入手しよう。それでも動きづらいなら、移動速度を落とす。それで許してくれないか」

男の言葉に、ノクリアは無言でいた。自分で気づいているが、己は拗ねているのだ。


「駄目? 他には?」

少し困ったように言われて、ノクリアは俯いた。

「・・・分かった。それで良い」

男が少しほっとしたのが分かった。


「良い香りがする」

と男は少し気を許したように呟いた。

「香り?」

そんな事は言われたことが無いが。


「ちょっとまずい。精神を落ち着けて来る。あまり遠くにはいかない」

「え。あぁ」

男がずり、と後ろに移動して離れていく。

この状態での放置に不安になって、ノクリアは、

「あの」

と呼び止めてしまった。

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