表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/74

告白

本日2話目

ノクリアの警戒を気に留めていない様子で、男はまた道の先を見る。時折、周囲を見回す。

「・・・お前は、この場所では、喰われるのを待つしかない」

「なぜ私を助けてくれる」

ノクリアは苛立ちを覚えていた。魔族に命を助けられているからだ。しかも、瞳のせいで打ち明けられているのもノクリアには腹立たしかった。自分は正しく人間であるというのに。


問いに、男はフッと自嘲した。

ノクリアを見て、それからジィと見つめて来る。

恐らく、この瞳はこの男にとって見入る価値があるのだろう。

非常に、忌々しい。


「・・・あいつに喰われるなど、腹立たしいからだ」

と男は答えた。

「詳しく教えてもらいたいのだが」

「・・・こちらに送り込まれているものは多いと言う事だ。私は、他が喰うのが腹立たしい」

眉間に深いしわが刻まれる。どうやら本当のことらしかった。


「・・・私を喰うと、どうなるのだ。・・・何か起こるのか?」

勇者に危害が及ぶのだろうか。ならば絶対に食べられてはならない。


「・・・思いの外多くを教えてやっている。だから私の希望をさらに叶えろ。良いか?」

「・・・希望とは? また抱きしめたいというのなら、その程度なら構わない」

我慢も必要だ。なにより情報はこの相手からしか今のところ得られない。

嘘だろうが本当だろうが、まずこの男しか会わないのだ。


「ではこちらに」

手を伸ばされる。やはり身構えながらも動かないように己に言い聞かせた。

魔族だと分かってからは嫌悪感が募ってしまう。


「・・・私は、還りたいたいのだ。ノクリア」

ノクリアを両手で抱きしめて、男は告白してきた。これは本音のように、思える。

「どこへ」

「故郷に決まっている。皆どうしているだろうと、焦がれる」

「・・・魔族も、故郷を惜しむのか?」

「・・・我々が惜しまないはずはない。愚かな人間ですらそうだろうに」

「・・・」


しばらく無言になる。躊躇ったが、ノクリアは静かに確認した。

「私の目をみると、故郷を思い出すのか」

「・・・そうだな」

と男は意外にも素直に肯定した。

抱きしめていたのを少し距離をあけてノクリアの瞳を覗き込む。

何かを言いかけて、男は口を引き結んだ。

きっとノクリアに打ち明けるには、真実すぎるのだろう。

ノクリアは魔族ではなく、ただのエサとなる人間なのだから。


思いついて、尋ねてみる。

「私を食べると、還ることができる? 他のものたちも、そうなのか?」

妙な話だ。ノクリアは口に出したことを後悔した。

戻りたいのに戻れないなど、まるで罰のようだ。


・・・最も、ノクリア自身も同じ境遇かもしれない・・・


男はノクリアの様子を見つめて、また指の背でノクリアの頬を撫でた。

「お前は人間なのだろう。だから話すことははばかられる」

瞳に見入るくせに何を言うのか、とノクリアは不快気に見上げた。


「お前を、食べられそうにない。・・・他のものに喰わせる気もない。・・・困ったものだ」

魔族らしくなく、まるで人のように男は笑んだ。


***


他に食べさせたくないから、ノクリアを守るのだと男は言った。

きちんと異世界にたどり着いていないから、食べ物も、男を介して受け取ることしかできないという。

男は正しく異世界にたどりついているそうだ。網が張られる前から、こちらにいると言っていた。


男の話が本当かどうか。だが、男と一緒にいるしか生き延びる術がないように、思える。

これほど住まいが立ち並んでいるのに、男以外に、出会う者が無いからだ。


問題を先送りにしているだけとも気づいているが、ノクリアは一先ず男と共にいる。


一方、男は本来の力の十分の一も持てていないのだという。

理由は詳しく教えてくれない。ノクリアが人間だから、つまり敵であるからだ。

話さない理由がそれなら仕方がない、とノクリアはかえって納得を覚える。


本来の力を取り戻すためにノクリアを連れて行きたい場所がある、と男はある日打ち明けた。

ノクリアを守るためにも、本来の力は必要だという。

その理由が真実なのかは、疑わしいと思っている。


ところで、あれからネコには会えていない。

ネコの事を尋ねると、男は顔を歪めて不機嫌になる。なぜだか仲が悪そうだ。

ひょっとして、男は、ノクリアが気付く前にネコを追い払っているのかもしれない。


とはいえ、瞳を見て以来、男は妙に物静かで、とても魔族らしくない。

魔族とは、もっと理解できない残虐さをもっているもののはずなのに。


そういえば、とノクリアは気づく。

実際に、これほど魔族に接したことなど、今までなかった、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ