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本日2話目

見た事もない食べ物だったが、男に食べ方を教わり、口にした。

真っ白いものを真っ黒い薄いもので包んだ三角形のもの。

口の中でボロボロ崩れるので戸惑いながら食べた。甘いのか酸っぱいのかよく分からない、と思っていたら急に辛い物が口に入って驚いた。そういう食べ物だというので、我慢して食べる。


「そういえば、あなたはもう食べたのか?」

とノクリアが遅まきながら気づいて尋ねてみると、男はノクリアをゴミを見るような目で見遣った。

酷い態度だ、と男について改めて思う。文句を言える立場では無い気がするが。


「想像以上に、愚かなものだ」

男は苦虫を噛みつぶしたようにそう言った。

「・・・己が呪わしい」

ため息までついている。


それでいて、食べ慣れない味に、ノクリアが水を飲みほしたのを目ざとく見ていたようで、無言でまた傍の箱から飲み物を出してくれる。

態度は酷いものだが行動はまめまめしい。


「・・・私に、どのような価値があるのか、教えてもらえないか?」

とノクリアは尋ねた。

男は目を細めて馬鹿にしたようだ。ノクリアは今は食事のために座り、男は立っている。つまり酷く見下されているので余計に偉そうに見える。


「教えたら、どうする?」

と男が尋ねてきたので、驚いた。

「どうして欲しい。交換条件を飲むことを、前向きに検討する」


男は首を捻った。条件を考えているようだ。

「そうだな。今の私は、いうなれば虚弱体質だ。改善に力を貰おう。そうすれば・・・」

男は考えをまとめたらしく、ノクリアの目を見つめながら、ニィと笑う。そうして、座り込んでいるノクリアに迫るように座りかけて、途中で驚いたように目を見開いた。


どうしたのか、と見つめ返す。

男は息を飲み、まじまじと慎重に顔を近づけた。

またキスかと逃げるために身を引きかけたが、男の指が目に伸びた。

「お前。ノクリア。お前は」

「え」

まるで眼球に触れそうに伸ばされそうな指をとっさに掴んで止めてもう片方の手でノクリアは自分の目を押さえた。

鏡が無いので確認できない。


しまった。

ノクリアは目を閉じた。

「・・・すまない。色が変わっていたか?」

「お前は。魔族なのか?」

男の驚く声にノクリアはゆっくりと両眼を開けた。

穏やかにゆっくりと答える。

「いいや。違う」

「だが。では、人と魔族が混じっている。両親が」

「違う。両親も人間だ」

「だが」


人生に置いて、今まで何度も交わされてきた会話だ。

ノクリアは正解を何度でも伝える。

「分からないが、両親も正しく人間だ。私もそうだ。なぜか、こんな目で生まれたが」

「両親が違うというのなら、その親が。いや・・・どこか遠くで魔族に、お前は繋がっている」

「そうなのかもしれないが」

ノクリアは苦笑を見せた。

「すまない。いつもは目薬で変えているのだが。毎日の点眼が必要だ。荷物にも入れて来たし、レシピも持ってきたのだが、まさか取り出せないとは思わなかった」


男は人が変わったように心配そうに尋ねてきた。

「目薬だと。迫害を受けていたのか」

「いや・・・違う」

「正直に話せ。お前は、だからこちらに飛ばされたのか?」

「違う。適任だっただけだ」

「ノクリア」

まるで保護者のように男が眉をしかめて頬に手を当てる。先ほどまでの扱いと酷い違いだ。目が変わっただけだというのにな。


「毎日目薬が必要だったのだろう。隠さなければならなかったのだろう」

「落ち着いてくれ。大丈夫だ。本当に、隠すために必要だったのではない、」

「だが」

「なぜ泣きそうなのだ」

と苦笑を覚えて、違和感に気付く。


ノクリアの本来の瞳は、白い。白い瞳の中に点が8つ入っている。いわゆる複眼の状態だが、ノクリア自身には視界が他の者とどう違うかなど分からない。自分しか分からないからだ。

両親はノクリアの目に驚き、国が保護した。

国はノクリアに開発した目薬をくれた。

目薬が必要だったのは、目を隠すためではない。ノクリアには、世の中の光が強すぎて、ものがよく見えなかったからだ。目薬は、白い瞳を緑に変える。そして、8つの複眼を限りなく小さく収縮させる。すると、ノクリアにも、当たり前の世界が見えるのだ。きっと、元の目が良すぎるのだと、周囲は察したことを教えてくれた。


幸い、今は視界が明るすぎて見えない、という事もないから、良かった、という事も含めて、ノクリアは丁寧に教えてやる。


それなのに、男は唇を噛んで悔しそうに見つめ続ける。


ノクリアは笑った。

「そんな目で見るな。私は哀れではないのに。哀れなのかもしれないと思うではないか」


「・・・こちらの事情を話してやる。代わりに、抱きしめさせろ」

男は悲し気に言って、ノクリアの返事も聞かずに抱きしめてきた。

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