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第三話 無敵の魔法

第三話です。今回は一話だけ主人公の幼少期のお話です。

 晴れた日の公園、子供たちはブランコや砂遊び、鬼ごっこなど、思い思いに楽しげな時間を過ごしていた。

 ほとんどの子供たちが複数人で遊ぶ中、砂場で一人ポツンと遊ぶ女の子の姿があった。

 周りの子供たちからは少し浮いてしまいそうな、鼻筋の通った顔立ちに若干だが薄い瞳と髪の色。子供の目にもそれは自分たちとは異質な者として映っていた。

 女の子の名前は、高岡 翔子。見た目こそ周りと違ってはいたが、テレビでやっている魔法少女アニメが大好きな、どこにでもいる6歳のあどけない女の子であった。



 「あ、また外人の子供が一人で遊んでるぞ!」



 ボール遊びをしていた男の子たちの一人が、翔子に対して因縁をつける。

 翔子はというと、一瞬ちらっとその男の子を見るが、特に何も言わず、砂遊びを続けた。

 意地の悪い子供たちは、クォーターの翔子を外人と言ってからかっていた。それに他の子も翔子と遊べば、自分も標的になるので、翔子には友達がいなかったのだ。



 「何だよ、外人だから日本語も喋れないのかよ!」



 何も答えない翔子を更にからかおうと、男の子はニヤニヤしながら翔子のもとへ寄ってきた。



 「せっかく俺が外人に話しかけてやってるんだから、ちゃんと答えろよ。今何作ってるんだよ?」



 翔子は嫌そうな顔をするが、早くどっかへ行って欲しかったので、仕方なくその質問に答える。



 「・・・アイアンメイちゃんの魔法のおうち・・・。」



 『鋼鉄の魔法使いアイアンメイちゃん』は、小さな女の子に大人気のよくある魔法少女アニメであった。翔子もその例外ではなく、夜7時のテレビ放送の際には、テレビに噛り付くようにして見ていた。

 翔子が砂で作っていた魔法のおうちは、主人公のメイちゃんが悪の魔法使いから友達を守る為に、魔法で造った絶対に壊れない鋼鉄の家のことだ。



 「知ってるぜ。その家って絶対に壊れないんだろ? 俺が試してやるよ。」

 「・・・やめて!」



 男の子が不敵な笑みを浮かべると、翔子はそれがどういう意味かに気づく。慌てて立ち上がり、男の子を静止した。

 しかし次の瞬間、その男の子の足は、翔子が砂で作っていた魔法のおうちを、無残にも一瞬にして踏み潰してしまった。



 「あー、悪い悪い、今度はちゃんと壊れないおうちを作れよな。」

 「・・・。」



 何の悪びれ様子もなく、男の子はニタニタしながら弁明し、その子の遊び仲間たちもドッと笑い出す。

 翔子は俯いてふるふると震えながら、目に涙を浮かべて、



 「・・・なんでこんなことするの!?」



 と言って、その男の子を睨み付けた。

 男の子は翔子の反応に一瞬動揺を見せるが、またすぐに言い返す。



 「へっ! 何本気で怒ってんだよ! 友達のいない外人を構ってやっただけだろ!」

 「私・・外人じゃないもん・・・。」



 翔子は消え入りそうな声を出し、潰されてしまった砂の家を涙が濡らした。

 それを見てあざ笑う男の子たちと、周囲で見て見ぬふりをする他の子供たち。この悲しい現実を前に、幼い少女には只々すすり泣くことしかできなかった。



 「・・・ん、なんだ? なんか変な音がするぞ?」



 翔子をいじめていた男の子は、どこからともなく聴こえてくる楽器の音色に気づき、辺りを見回した。

 ギターのような音色だが、何かおかしい。全然響いてくる音がか細くて小さいのだ。



 「おい、見ろよ! ジャングルジムの上に誰かいるぞ!」



 男の子の仲間の一人がジャングルジムの上を指さした。

 泣いていた翔子が顔を上げた先には、縁日で売っているヒーローもののお面を被った同い年くらいの男の子が、ジャングルジムに腰かけてエレキギターを弾いていた。

 何か弾いているようだが、エレキギターをアンプなしで弾いているので、か細い音しか聴こえてこない。

 いじめっ子は仮面の男の子に対して、



 「誰だよお前! カッコつけてんじゃねーよ!」



 と文句をつける。

 お面の男の子は何も言わずに演奏をやめると、ストラップを掴んでギターを背中に回す。

 


 「さっきから見てたけど、お前ら何クソダセーことしてんだよ。ロックじゃねーな。」

 「何だと!?」



 昭和のヒーローのようにギターを背負って現れたお面の男の子は、颯爽と飛び降りるのではなく、ギターをジャングルジムにぶつけないように、気を使ってゆっくりと地面に降り立った。

 ギターが大きすぎて、ギターを背負っているんだか、ギターに背負われているんだわからないその男の子は、腕組みをしていじめっ子たちの方を見る。



 「ロックがどうとか、意味わかんねーんだよ!」



 翔子をいじめていた男の子がそう文句をつけると、お面の男の子はフッと笑い、答えた。



 「よってたかって、女をいじめてるような奴は、クズ野郎だって言ってるんだよ。」

 「ああ!?」



 お面の子の歯に衣着せぬ発言に、いじめっ子たちは圧倒される。



 「お前、外人の味方するのかよ!?」

 「よくわからないけど、少なくとも、お前らみたいなクズ野郎の味方じゃねーよ。」

 「お前、一体何様だ!?」

 「俺の名前は・・・。」



 お面の男の子は、背中に回したギターのネックを掴み、足を広げてポーズを決める。



 「ロックを愛する正義のヒーロー、ストラト仮面だ!」



 お面の男の子がそう名乗りを上げ、周りの空気は凍り付く。

 普通に考えて、やってしまった感が半端ない状況であったが、本人はクソ真面目だ。 

 呆然としていたいじめっこが、気を取り直して、



 「何だスト・・ラ・・何とか仮面って!? そのお面はショーンライダーのだろ!?」



 と案外的確な突込みであったが、お面の男の子は動じない。『ショーンライダー』は子供に人気の特撮ヒーローだ。



 「ストラトキャスターを持ってるから、ストラト仮面だ。分かりやすいだろ?」

 「意味わかんねーよ!」



 エレキギターの名器、フェンダーのストラトキャスターを知らないロックファンは少ないだろう。しかし6歳やそこらの普通の子供にとってみれば、知ったことではない。



 「馬鹿にしやがって! こいつやっちゃおーぜ!」



 いじめっ子たちは、馬鹿にされてたことを思い出し、一斉にお面の子のもとに走り出す。

 お面の子は落ち着いてギターのネックを掴み、ストラップを首からとって、ギターをハンマーのように両手で構えた。



 「必殺! ロンドンコーリングアタッーク!!」



 そう叫ぶと、お面の子はギターを地面に叩きつけんばかりに勢いよく振り回した。

 小さな子供にとって、力任せに振り回されるその巨大なギターは凶器でしかない。流石のいじめっ子たちも、怯んで後ずさりする。



 「こ、こいつやべー・・・。」

 「狂ってやがる。」

 「こんな奴、危なくて相手にしてられるか! 帰るぞ!」



 クラッシュのポール・シムノン顔負けに、ギターを振り回すお面の子に恐れを感じ、いじめっ子たちは逃げ帰って行った。



 「はあ・・はあ・・・口ほどにもない奴らめ!」



 子供にとってはとても重いギターを振り回し、お面の子は息を切らしながら、いじめっ子たちの後姿を見る。

 翔子はその光景に唖然として立ちつくしていたが、その奇妙なお面の子にお礼を言うことにした。


 

 「あ・・ありがとう。助けてくれて・・・。」

 


 男の子はストラップを首にかけると、ネックを回して再びギターを背負った。



 「お前、友達いないのか?」

 「う・・・うん。」



 ストレートなお面の子の発言に、翔子は意気消沈として返事をする。お面の子は、そんな翔子とは対照的に楽しげな様子だ。



 「俺、最近引っ越してきたばかりなんだ。お前が最初の友達だな。」

 「でも・・・。」

 「どうしたんだ?」

 「私と仲良くしたら、外人の仲間だって、皆に仲間外れにされるよ・・・。」



 それを聞いて、お面の子がクスッと笑ったのがわかった。



 「それがどうしたんだよ、俺が好きなバンドはみーんな外人ばっかだぜ!」

 「え・・・?」

 「俺は俺が仲良くしたい奴と仲良くする! 友達になるのに、周りの奴らなんて関係ないだろ?」



 それは、孤独な少女の心に小さな明かりが灯った瞬間であった。彼のその言葉を聞くと、今までの寂しさと今の嬉しさが一緒に込み上げてきて、翔子の少しグレーがかった美しい瞳からは、ただ言いようもなく涙が溢れ出ていた。

 お面の子は少し慌てて、翔子を宥める。



 「ま・・待てよ! まるで俺がいじめて泣かしたみたいじゃねーか!?」

 「だって・・・!」

 「笑え! とりあえず笑え!」



 涙と鼻水いっぱいの顔を両手で拭い、翔子はお面の子に笑って見せた。



 「そうそう、もう泣くな! 今日はお前の好きなことして遊ぼうぜ。お前、何が好きなんだ?」

 「アイアンメイちゃん・・・。魔法のおうち作ってたんだけど、壊されちゃった・・・。」

 「あー、テレビでやってるアニメか・・・。」

 「・・・魔法なんてないのかな?」



 翔子は踏み潰された砂の家を見ながら、儚げに笑う。



 「・・・それなら、俺が最高にかっこいい無敵の魔法を教えてやるよ!」

 「無敵の魔法?」



 お面の子はくるっとギターを前に構えると、得意そうに弦をストロークして見せた。

 翔子は初めてみるだろうエレキギターに釘付けとなり、それを見てお面の子は翔子を指さす。



 「ロックンロールさ!」



 これがロック少女、高岡 翔子とロックとの出会いである。まだ何も知らない少女にとって、彼の口からでたその言葉の響きは、何だか魅惑的で魔法の呪文みたいにかっこよかった。



 ★



 あの日公園で出会ったお面の男の子は翔子の初めての友達となる。その男の子は常にギターを肌身離さず持ち歩き、一度もお面を外すことはなかった。

 彼はことあるごとにちょっかいを出してくるいじめっ子たちを、いつも追い払ってくれた。翔子は何度もその少年の名前を聞いたが、



 「正義のヒーローの正体がばれたら、おしまいだろ!」



 と言ってばかりで、最後まで自分の名前を名乗らなかった。

 仕方なく翔子は、彼が適当に名乗ったストラト仮面と呼ぼうとしたが、まだ舌が回らず、



 「トラ君、トラ君!」



 とこの風変わりなお面の男の子を慕った。翔子もそれに対抗したのか、自分の名前を『アイアンメイちゃん』からとって“メイ”と名乗り、そう呼ばせることにする。

 トラは来る日も来る日も、口を開けば自分の大好きなロックバンドの話や、覚えたての曲を翔子に聴かせる。翔子は初めて耳にする刺激的な音楽に心ときめかせ、夢中になって聞いていた。

 そんなある日のことである。いつものように公園で遊んでいた翔子は、ベンチに座り、ギターを弾くトラに尋ねた。



 「トラ君はバンドやらないの!?」

 「もちろんやるさ! ビートルズやストーンズみたいに世界中でギグをやるバンドを作るんだ!」

 「あのね・・・トラ君にお願いがあるの。」

 「なんだ? 言ってみろよ。」



 翔子は人差し指の先を合わせながら、白い頬を赤らめる。



 「私もそのバンドに入りたい!」

 「え・・・?」

 「私じゃダメかな・・・?」

 「ん・・・ああ、いいぜ! その代わり、いっぱい練習しないとな!」



 トラは翔子の申し出に珍しく一瞬戸惑いを見せるが、いつも通り優しく受け入れてくれた。

 翔子もトラのその返答に、表情がぱぁっと輝いて、両手を握りしめる。



 「・・・で、メイは楽器何をやるんだ?」

 「私もね、トラ君みたいにギター弾くの! おじいちゃんがね、もう少し大きくなったら、昔使ってたギターをくれるって! 」

 「おいおい、お前もギタリストかよ!」

 「私、トラ君と同じがいい!」



 珍しく強く我を通す翔子に、トラはやれやれといった様子で、



 「仕方ねーな、じゃあ、俺とお前でツインギターだな。」



 と言って、翔子に向かって親指を立てて見せる。

 翔子は満面の笑みを浮かべて、トラの両手を掴んだ。



 「トラ君! 約束だからね!」

 「お・・おお!」



 ただ嬉しそうに笑う翔子と、女の子に手を握られ、少し気恥ずかしそうなトラ。

 それは、まだ少し先の未来さえ見えない少女と少年の脆くて儚い、幼い日の約束であった。



 「あのな・・メイ・・・。」

 「何? トラ君?」



 トラが何かを言いかけたその時、二人のもとへ招かれざる客は現れる。



 「あー、いたいた、外人とお面野郎だ!」



 翔子とトラが楽しく話していると、以前翔子ををいじめていた三人組と、二~三歳年上と思われる体格の大きな男の子がトラと翔子のもとへ近づいて来た。



 「隆志君、こいつだよ! 俺たちに喧嘩売ってきた奴!」



 三人組の一人が隆志という体の大きな男の子にトラのことを教える。

 トラは立ち上がってギターのネックを掴み、翔子は怯えてトラの後ろに隠れた。



 「なんだお前らか。今日もまた下らねーことしに来たのか?」

 「うるさい! 隆志君は3年生の中で一番喧嘩が強いんだぞ!」



 トラが鬱陶しそうにすると、いじめっ子の一人が反論する。

 話は簡単だ。自分たちだけではトラに勝てないので、年上で喧嘩の強い用心棒を連れてきたというわけである。



 「お前が生意気なお面野郎だな?」

 「だったらどうするんだよ? 木偶の坊さんよ。」

 「二度とその生意気な口が利けないようにしてやるよ!」



 突然掴みかかろうとする隆志に反応して、トラは咄嗟にギターを振り下ろした。



 「何だと!?」



 普通の子であれば、振り下ろされる巨大なギターに怯えて逃げ出すところであったが、隆志はそれに動じずにトラのギターを両手で受け止めた。



 「これさえ使えなきゃお前なんか怖くないもんな? よし、お前ら手始めにこいつのお面を取ってやれ!」

 「へへへ、さーすが隆志君! どんな顔してやがるか見てやるぜ!」

 「くそ!」



 隆志に命令されて、まずはいじめっ子の二人がトラの両手を押さえつける。動けなくなったところを残りの一人でお面を剥ぎ取る算段だ。



 「・・・トラ君!」



 今にも泣きだしそうな翔子。トラは必死に抵抗するが、あまりにも分が悪過ぎる。

 いじめっ子の一人がケラケラと笑いながら、トラのお面に手をかけようとしたその時であった。



 「え?」



 トラの手を押さえていたいじめっ子の一人が突然浮き上がり、数メートル飛ばされる。

 次の瞬間にはもう一人、間髪入れずにもう一人と宙を舞い、あっという間にいじめっ子三人組は地面に倒れこんでいた。

 ギターを掴んでいた隆志は状況が理解できず、トラも我が目を疑った。



 「トラ君をいじめないで!!!」



 涙を浮かべながら、いじめっ子三人を蹴り飛ばしたのは、翔子であったのだから。

 翔子はいじめっ子三人組をやっつけると、トラの振り下ろしたギターを掴んで唖然とする隆志を睨み付けた。



 「ば・・化物!?」



 翔子の強く意思がこもったその瞳を前に、隆志は崩れるように腰を抜かし、後ずさりした。

 起き上がったいじめっ子三人も、トラの前で手を広げる翔子の姿を見て、恐怖に慄く。



 「が・・外人じゃなくて怪物だ!」

 「うわぁぁ!」

 「助けてー!」



 いじめっ子三人が公園から逃げ出すと、隆志も翔子とトラを一緒に相手するのは厳しいと判断し、基本に忠実な捨て台詞を吐いて二人の前から去って行った。



 「覚えてやがれ!」



 緊張の糸が切れたのか、腰を抜かして座り込む翔子。驚きのあまり固まっていたトラも正気に戻る。



 「メイ・・お・・お前強いな。」

 「え・・・えーと・・私、トラ君がいじめられるの我慢できなくて・・夢中で!」

 「それにしても、男三人吹っ飛ばすって・・・。」

 「何かわからないけど・・・お父さんの好きな格闘技のテレビを見よう見まねで!」



 自分のしたことが理解できない翔子にやはり驚きを隠せないトラ。

 翔子の秘められた驚異的な身体能力は、この時初めて露わになったのだ。



 「ははは・・・。これじゃ、正義のヒーローも形無しだな・・・。」

 「そんなことないよ! トラ君がいなかったら私・・・。」



 軽く落ち込むトラを翔子は慌てて宥めた。トラは溜息を吐いて、少し嬉気な感じで翔子を見る。



 「俺なんかいなくても、もうお前は大丈夫だな。」

 「それどういう意味?」

 「実は俺さ・・・。」 

 

 

 トラと過ごした日々は翔子の人生にとって、ロックのように刺激的でいてそして温かく、幼い日の忘れえぬ思い出となる。

 しかしそんな日々も長くは続かなかった。トラとの出会いから数か月、その日は突然やってきたのだ。


 

 「なんで引っ越すの!? トラ君どっか行っちゃやだ!」



 泣き叫ぶ翔子。トラはいつものようにお面をしてギターを背負ったまま、翔子の前で立ちつくす。

 親の仕事の都合でまた引っ越すことになったトラは、翔子にその事実を告げた。そんなに遠くの町ではなかったが、年端もいかぬ子供にとっては、それは今生の別れに等しい。



 「泣くなよ。正義のヒーローが去る時っていうのは、もう誰も守らなくてよくなった時なんだぜ。」

 「わかんない! トラ君いなくなったら、もう誰も友達いないもん! 私また一人だもん!」

 「今のメイは昔のメイとは違う。お前はもう手に入れたはずだぜ。」



 トラはジャングルジムに手をかける。少し登ると、泣きじゃくる翔子に手を伸ばした。



 「一緒に来いよ。この公園でのラストライブだ!」



 翔子は少しぶすっとしながらも、トラが伸ばした手を掴み、一緒にジャングルジムへと登った。

 二人がジャングルジムの上へ立つと、そこからは夕暮れ時の空が周りの家々を照らし、どこまでもオレンジ色の景色が続いていた。

 トラは腰掛け、翔子もそれに寄り添うように座る。二人はいつも遊んでいた公園を見下ろし、今まで過ごした日々を思い返した。



 「凄い曲覚えたんだ。聴いてくれよ!」

 「・・・うん。」



 トラはギターを構えると、静かに演奏を始めた。

 ギターはやはりエレキギターであった為、アンプなしでは響かない。それでも曲は、一音一音丁寧に刻まれる。暗く物憂げでありながら、その曲はひたすら美しく、沈んでいた翔子の心に響き渡っていた。

 この時トラが歌った曲こそ、ルー・リードの『パーフェクト・デイ』であった。この曲はまるで二人が見ている夕日に溶け込んでいくようで、翔子の記憶に強く残ることとなる。

 演奏が終わると、翔子はやっと泣き止み、うっすらと笑い、トラを見る。



 「バンド・・・できなくなっちゃうね。」

 「そんなことないぜ。」

 「でも・・・。」

 「ロックをやってれば、俺たちはまたいつかきっと会えるんだ! だって言ったろ・・・。」



 トラは立ち上がり、翔子の頭を優しく撫でた。



 「ロックは無敵の魔法だって!」



 名前も顔も知らない少年との別れであった。この出会いと別れが、独りぼっちであった少女の運命を大きく変えた。

 翔子は悲しむことをやめ、トラのように強くなろうと決意して前へと歩き出した。トラに対して恥じぬ自分であれるよう。そしていつかまた出会えることを夢見て。 



 ★



 晴れた日の公園、子供たちはブランコや砂遊び、鬼ごっこなど、思い思いに楽しげな時間を過ごしていた。

 ボール遊びをしていた男の子たちの一人が、女の子にちょっかいを出す。



 「お化け女が公園で遊んでるぜ!」



 ひょろっとして、言葉数少ないミステリアスな女の子。7歳児の岡井 杏奈である。杏奈はその特異な性格から、男子たちのいじめの対象になってしまっていた。



 「・・・低能。」

 「ああ!? お化けのくせに言いやがっな! 俺らが退治してやる!」



 杏奈に掴みかかろうとする男子の間に、小さな女の子が割って入る。



 「お前らが先に言ってきたんだろ! 男のくせに女に手出してんじゃねーよ!」

 「んだと!?」



 男子と杏奈の間に割って入ったのは、小さな背丈、可愛らしい顔にボーイッシュなショートヘア。この頃から口が悪い樂本 茉希であった。



 「お前、女のくせにいつも生意気なんだよ! 引っ込んでろ!」

 「イタッ!」



 男の子の一人が茉希を突き飛ばす。茉希は尻餅をついて倒れた。



 「へん! 思い知りやがったか! お化けの味方なんかするからだ! 俺らに逆らうとこうなんだよ!」



 目に涙を滲ませる茉希と、それに寄り添うように座り込む杏奈。今のか弱い二人の女の子には抗う術は何もなかった。



 「ちょっとあんたたち、さっきから何クソダサいことしてんのよ。ロックじゃないわね。」

 「何だと!?」



 男の子たちが振り返ると、そこには周りの子供たちからは少し浮いてしまいそうな、鼻筋の通った顔立ちに若干だが薄い瞳と髪の色の少女の姿が。7歳になった翔子であった。



 「誰だよお前! カッコつけてんじゃねーよ!」

 「ロックがどうとか、意味わかんねーんだよ!」



 翔子は腕組みをしながら、そのいじめっ子たちの反応を鼻で笑う。

 

 

 「よってたかって、女をいじめてるような奴は、クズ野郎だって言ってんのよ。」

 「何だと!?」

 「馬鹿にしやがって! こいつやっちゃおーぜ!」



 いじめっ子たち四人は、一斉に翔子へ襲い掛かった。

 茉希と杏奈は、たった一人の女の子が男の子四人に敵う筈がないと思い、とても見ていられなくなって瞳を閉じる。

 そして取っ組み合う鈍い音が数秒続いた後、恐る恐る目を開けた二人は、予想だにしない驚きの光景を目にした。



 「嘘だろ?」

 「・・・全滅。」



 そこには地面を這いつくばるいじめっ子たちと、傷一つなくスカートの埃を払う翔子の姿があった。



 「こ・・こいつ、あの暴力女だ!」

 「一人で十人を倒したって有名な奴か!?」

 「嘘だろ? 勝てるわけねーよ!」

 「逃げろー!」



 一目散に逃げ出していくいじめっ子たち。翔子は彼らの背中を少し物足らなそうに眺めていた。



 「あ・・ありがとう。助けてくれて・・・。」

 「・・・感謝。」



 茉希と杏奈は翔子にお礼を告げる。翔子は表情を変えずに二人のもとへ歩み寄った。

 


 「あなたたち、もういじめられるのは嫌でしょ?」

 「だけどうちらはあんたと違って強くねーから・・・。」

 「・・・無力。」



 俯く二人に対して、翔子は得意そうな顔をして微笑む。



 「それじゃあ、私があなたたちに、もういじめられないとっておきの方法を教えたげるわ。」

 「何だよ。そんな簡単にどうにかなるわけ・・・。」

 「・・・ない。」

 


 翔子は訝しげな二人に向かって指をさし、自信に満ちた表情で言い放つ。



 「あるわ、無敵の魔法よ!」

とまあ、三話まで終わりました。

ある程度予想はしてましたが、驚異的なアクセス数の低さです。

多少心が折れそうですが、負けないように頑張ります。

次回はそう遠くないうちに・・・。

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