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はじけろ太閤 その弐(スネの強打に気をつけろ編)

作者: 御影永遠

「はじけろ太閤」の続編です。前作をご覧になって頂いた方が楽しめると思いますので、未読の方は先に「はじけろ太閤」をご一読下さい。

担任の福沢先生は、黄色のチョークで力強く書いた。

”修学旅行のススメ”

修学旅行、それは思い出の一ページ。

修学旅行、それは非日常が織り成す、おバカがチャカついてしまうお祭り。

修学旅行、それは木刀andヌンチャクがお宝に見えてしまう魔性の時。

修学旅行、まさにパラダイス。

クラスのテンションは一気にMAXに上がった。

「今年はどこに行くんだ?」

「去年は九州だったらしいぜ」

「お姉ちゃんは北海道に行ったって言ってたよ」

「私、外国に行きた〜い」

「ベガスでカジノだろ、やっぱ?」

生徒たちは色めき立っていた。

「はいはい、皆さん静かに」

福沢先生はパチンと手を叩き、生徒を静めた。

「今年の修学旅行は…」

生徒たちは息を飲んだ。

「南の楽園です!」

オォ〜!

周囲がざわめいた。

「ハワイだ!」

「いや、公立のウチじゃ、そんな金はないぜ」

「じゃあ沖縄か?」

みんなの予想に、豊臣秀吉君は夢を広げていた。

青い空にヤシの木。

もぎたて完熟マンゴーにヤシガニ。

白い砂浜ではしゃぐ、水着のお姉さんたち。

「エヘヘヘ」

「猿、よだれが垂れてるぞ」

その様子を見ていた織田信長君は、土砂崩れを起こした豊臣君の表情に軽く引いた。

「だって沖縄だよ!オ・キ・ナ・ワ!お姉さん・綺麗で・ナイスですね・ワンダホー、だよ!」

「お前はエロオヤジか」

「失敬な!僕のどこがオヤジなのさ!」

「エロは否定しないんだな」

「エ、エロじゃないやい…」

豊臣君は消え入りそうな声で弱々しく否定した。

「皆さん、静かに!」

福沢先生は大きな声でいさめた。

「えー、それでは旅行のしおりを配ります。前の席の人は後にまわして下さい」

しおりを手にした豊臣君は、緑色の表紙を開いた。

「あれ?伊豆大島の歴史って書いてあるよ」

そこには、伊豆大島と思われる島の形と、簡単な歴史が書かれていた。

「伊豆って沖縄にあるの?」

「伊豆は静岡県ですが、大島は東京都ですね」

隣の席に座っている明智光秀君は、社会の授業で使う日本地図を広げて見せた。

「どういう事?」

「行き先は沖縄ではないという事です」

冷静な明智君をよそに、脳内に繰り広げられたエロパラダイスが音を上げて崩れ去った豊臣君は意識を失った。

「まぁそんな事だろうと思ったけどよ」

織田君は燃え尽きた豊臣君の頭をシャープペンで突付きながら、しおりをパラパラとめくった。

後頭部への刺すような刺激で目を覚ました豊臣君は、烈火のごとく手を上げた。

「異議あり!!!」

福沢先生は豊臣君に顔を向けると即答した。

「却下します」

「まだ何も言ってないじゃないですか!」

「何ですか?」

「クラスを代表して、沖縄行きを提案します!」

「わかりました。検討しましょう。…却下します」

「早っ!」

コンマ五秒の即決に、豊臣君の意見はあえなく海のもくずと消えた。

ヘタレの豊臣君に再考を促すだけの勇気はなかった。


放課後、織田軍の三人は駄菓子屋に集まっていた。

「最近集まりが悪いね」

豊臣君はアイスキャンディ(コーラ味)を舐めながら言った。

「二人は部活がありますからね」

明智君は当たりを見極めようと、多角的視野からアンコ玉の入った箱を観察していた。

他の二人、徳川家康君は野球部、柴田勝家君は柔道部、共に中心人物だったので、集まるのは自然と三人に絞られていた。

「運動会以降、足利の野郎も目立った動きはないし、特に問題はないからな。あっ、キノコ取り逃した!」

織田君は携帯型ゲーム機の”超マリ男”の七面に苦戦していた。

「でも、大島なんてなぁ…」

「まだ言ってるんですか?」

「だって、あの流れだったら沖縄だと思うでしょ?」

「大島も良い所ですよ」

「でも…」

「そんなに女性の水着が見たいんですか?」

「ち、違うよ!僕は沖縄という唯一の陸上戦が繰り広げられた歴史的土地を、次代を担う小学生が訪れるのは必然であって、昨今の少子高齢化と食品偽造の問題について…」

「わかりました。落ち着いて」

「ぼ、僕は落ち着いていると信じているよ!」

テンパると訳のわからない事を言い出す豊臣君のいつものパターンを、明智君はしっかりと把握していた。

「とにかく、大島は大島で面白いと思いますよ」

「そうかなぁ」

「考えてみて下さい。大島だって島なんですよ?」

「どういう事?」

「つまり、周りは海という事です」

「えっ?」

「しおりの六ページを見て下さい」

豊臣君はランドセルを下ろし、中からしおりを取り出した。

「二日目の午後です」

「な、何ですと〜!」

そこには、はっきりと”海水浴(予定)”と書かれていた。

「つまり、小町さんは水着を着て泳ぐという事です」

豊臣君が思いを馳せるクラス一の美女、小町ちゃんが何故かビキニを着ている姿が目に浮かんだ。

「あ、明智君!」

「小町さんと二人、海辺で水の掛け合いをしながら、「もう、豊臣君ったらぁ(喜)」「あはは、そ〜れ(楽)」という展開が待っているという事です」

「それは、まさに!」

「そう、甘美な誘惑広がる愛ランドです」

「そうだったのか〜!」

豊臣君はアイスキャンディ(コーラ味)を握る手を、天空へ高々と突き上げた。

「絶対ないな」

織田君はゲームをポケットにしまうと、冷ややかな目で豊臣君を見た。

「彼のささやかな夢を壊すような事は言わない方が」

「ないものはない」

そんな会話も豊臣君の耳には入らず、小躍りしたい気持ちを素直に表現して小躍りしていた。

「キモいな」

「キモいですね」

美しい夕暮れの中、友達の冷たい目線を浴びながら豊臣君の勝利の舞は続くのであった。


残暑が尾を引きずる中、戦国小学校の生徒たちは船の上にいた。

「アチ〜な」

柴田君はしおりをうちわ代わりにパタパタとあおった。

「ホント、このままじゃチョコレートが溶けちゃうよ」

「豊臣君、おやつ持ってきたの?」

徳川君は不思議そうな顔をした。

「うん。ちゃんと三百円に収めてきたから、越後屋印の一口チョコしか買えなかったけど」

徳川君は”お徳用”と書かれたチョコレートの袋をリュックから取り出して見せた。

「それは遠足の時だよ」

「何を言ってるの、徳川君!腹が減っては戦はできぬって言うじゃないか」

友達思いの徳川君は、それ以上何も言わないと心に決めた。

「おい、島が見えてきたぞ」

織田君の言葉に、一同は船首の先に見える島影に目を向けた。

「オォ〜、島だぞ!」

「うん、紛れもなく島だね」

「真似すんな!俺が先に見つけたんだぞ!」

「最初に見つけたのは織田君じゃないか!」

「織田が見つける前に俺には見えていたんだよ!」

「だったら織田君より先に言えば良かったじゃないか!」

「それは…たまたまだよ!」

「たまたまって意味わかんないよ!」

「レディーファーストって意味だよ!」

「織田君がいつから女の子になったのさ!」

「に、二時間前に決まってるだろ!」

柴田君と豊臣君のどうでも良い口論はエスカレートしていた。

「いつの間にか織田君が女の子にされていますよ」

「馬鹿共は放っておけ」

織田君と明智君の冷ややかな対応をよそに、二人のバトルはヒートアップしていった。

「だから、ウルトラの父と母の子供はタロウだけなんだよ!」

「だったらセブンは何なんだ?隠し子か?大体、宇宙人のクセに子供に太郎って日本人みたいな名前付ける事自体がおかしいだろ!」

「太郎のどこが悪いのさ?全国の太郎さんに謝ってよ!」

「あ〜あ、私が悪うございました!」

「キィ〜!それが謝る態度?謝るってのはこういう事でしょ!」

「と、豊臣君、何で土下座してるの?」

船室に戻っていた徳川君は、豊臣君が土下座をしている衝撃映像を目撃してしまった。

「い、いや、これには深い訳があって…」

「そうなんだ…。あっ、先生がみんなも降りる準備をしなさいって」

「う、うん。徳川君。僕が土下座をしていたのは、別に僕が何かをした訳ではなくて…」

「わ、わかってるよ。誰にも言わないから」

徳川君は慌てて船室に戻っていった。

「完全に誤解されたな」

柴田君はうなだれる豊臣君の肩にそっと手を置いた。

「うん…。って、柴田君のせいじゃないか!」

徳川君の心の中にわだかまりを残しつつ、みんなは伊豆大島へ上陸した。

下船後はバスに乗り換え、郷土資料館などを見て回った。

夕方、宿泊する旅館に着くと、前もって決められた班毎に部屋へ入った。

「徳川君、別の班になっちゃったね」

「仕方ないですね。一班四人ですから」

「でも仲間外れみたいでかわいそうだよ」

豊臣君は徳川君の事で頭が一杯だった。

(何とか接触して、あの誤解を解かなきゃ。いざとなったら口を封じるしか…)

「豊臣君、何か悪い事を考えていますね?」

「な、何言ってるんだい。僕が徳川君に毒を盛る訳ないじゃないか!」

当の徳川君は、いまだに理解できない織田軍のテンションから一時離脱できた事に胸を撫で下ろし、野球部の仲間と穏やかな時間を過ごしていた。

夕食も済み、部屋に戻ると座敷には布団が敷かれていた。

「何か修学旅行みたいだな〜」

「修学旅行ですよ」

明智君は柴田君にさりげなくツッコむと、スーツケースからローションを取り出し、顔に優しく揉み込んだ。

「明智君って女の子みたいだね」

「身だしなみですよ。豊臣君も使ってみますか?」

「僕は良いよ」

「猿の身だしなみは毛繕いだけだもんな」

「そうそう、こうやって…って、猿じゃないってば!」

織田君に茶化されて、豊臣君は恥ずかしいノリツッコミを披露してしまった。

「よし、もうすぐ消灯の時間だし、やる事やっとくか」

柴田君はすくっと立ち上がると、手首を回し始めた。

「柴田、俺様に勝てると思っているのか?」

織田君はニヤリと笑った。

「不本意ですが、お相手致しましょう」

明智君も臨戦態勢に入った。

「ちょっと、みんな。何をするつも、ゴフッ!」

豊臣君の顔面に、織田君の投げた枕が見事にヒットした。

「合戦じゃー!」

織田君の合図と共に、梅の間は戦場と化した。

飛び交う奇声と枕。

「我こそは柴田勝成!命が惜しくば、立ち去、ゲフッ!」

「ワッハッハ!柴田、油断は大敵、グフッ!」

「織田君、最後に笑うのは私です」

「おのれ、明智め!手打ちにしてくれる!」

無邪気にはしゃぐ三人は、持てる力の全てを枕に注ぎ込んだ。

「ちょ、ちょっと!危ないよ」

乗り遅れた豊臣君は、座敷から離れるように退却した。

「全く、みんな子供なんだから」

豊臣君は備え付けのお茶をすすった。

そんな豊臣君の後頭部に枕が飛んでくる。

バシッ!

バシッ!

バシバシッ!

ゴツッ!

「痛っ!今は誰だー!!!」

後頭部にクリティカルヒットした土偶を鷲掴みすると、般若の形相で豊臣君が突撃した。

そのまま乱戦になり、誰も一歩も引かない歴史的合戦となる。

世紀の対決は見事に先生に見つかり、四人とも廊下に座らされた。

後に”梅の間の戦い”と名付けられ、戦国小学校の悪しき歴史に名を刻む事となる。

「いや〜、俺も〜、若かったっていうか〜。マジ土偶でキレましたね〜」(十年後の当事者談)


バスは港に着いた。

二日目の午前中は地元の漁の見学だった。

「何が獲れるんだろうな?」

「さぁ?」

「俺、マグロ食いてぇな〜。マグロ釣れるかな?」

「さぁ?」

豊臣君は気のない返事を繰り返した。

「そんなに小町さんのビキニが見たいんですか?」

「な、何を言ってるんだよ明智君!ぼ、僕はビキニじゃなくてもスクール水着で充分というか、でもそこまで言うのならビキニもアリだと思う年頃であって…」

「織田君も見ませんか?豊臣君がまた壊れてますよ」

「見飽きた」

「はいはい、皆さん静かに。豊臣君、クネクネしてないで列に戻って」

福沢先生の説明が始まった。

「それではこれから船に乗って、実際の漁を体験させてもらいます」

福沢先生の説明の最中、明智君の頭脳がフル回転した。

「豊臣君」

明智君は小声で話しかけた。

「これはチャンスです」

「何が?」

「漁で格好良い所を小町さんに見せれば、小町さんは豊臣君の物です」

「マジどぅえすか〜!」

「その為には、小町さんとペアにならなければいけません」

「で、でも…」

「良いんですか?小町さんが他の誰かとくっついて、五年後にデキちゃった結婚で両親の反対を押し切って寂れた田舎町でイワシの缶詰工場で働きながら子供八人を苦労して育てる事になっても」

「ダ、ダメに決まってるじゃないか!」

「それならば、声を掛けるのです。今すぐ!はり〜あっぷ!!かみんぐす〜ん!!!」

「よ、よし!僕は男になるよ!」

豊臣君は小町ちゃんに音もなく近付き、勇気を振り絞って誘った。

「こ、小町ちゃん。良かったら一緒にアジの水揚げしませんか?」

「イヤ」

小町ちゃんは仲良しの友達の輪へと去っていった。

「豊臣君、どうしたの!」

徳川君は防波堤の上で死に掛けた魚のようにピクピクしている豊臣君に駆け寄った。

「千の風になりたい…」

「と、豊臣君!」

「徳川君、そっとしてあげておいて下さい」

「でも…」

「豊臣君は果てしない大海原に漕ぎ出したのです」

「えっ?」

「そしてカトリーナ級のハリケーンに飲み込まれて、あえなく岸壁に打ち上げられてしまった悲しいゴマアザラシなのです」

「ゴマアザラシ?」

「そう、ゴマアザラシ」

明智君は遠い目で水平線を眺めた。

「結局いつものメンバーだな」

織田君は他の四人を見回した。

「若干一名が死に掛けていますが」

「明智、また何かしたな?」

「滅相もない。私は彼に希望という名の渡し船を出しただけです」

「泥船の間違いじゃないのか?」

豊臣君は徳川君に支えられながら、何とか立っている状態だった。

「皆さん、安全の為に救命具を着てくださいね」

先生に促され、みんなは渡された救命具を身に着けた。

「あれ?僕の分は?」

正気に返った豊臣君は、自分の救命具を探した。

「ないな」

「ないって、そんな!織田君の貸してよ」

「何で俺のを貸さなきゃならんのだ」

「織田君ちはウナギ屋なんだから救命具なくても平気でしょ!」

「ウナギの養殖業者だ!」

「良いから貸してよ!」

「触るな、猿!」

「何をもめてるんだい?」

「あっ、平賀君。実は織田君がウナギのくせに救命具を貸してくれないんだ」

「誰がウナギだ!」

「そう。それじゃ、コレを使いなよ」

平賀君は自分のバッグからある物を取り出した。

「これ…」

「平賀式水面浮遊具さ」

「ただの浮き輪じゃないの?」

どこからどう見ても、ただの白いの浮き輪だった。(白鳥の頭付き)

「僕の発明品だよ。市販の浮き輪と違うのは、目に見えない小さな傷があって、膨らませて三十分で沈んでしまうという点かな」

「それってただの不良品なんじゃ…」

「何を言ってるんだい!三十分しか使えないという緊迫感を持たせることで、飛躍的にありがたみが増すという画期的な発明だよ!」

「そ、そうなんだ。じゃあ借りよっかな…」

「良いよ。あっ、注意点があったんだ」

「まだ何かあるの?」

「制限重量が十キロまでだから気を付けて」

「そんなもん、いるかー!」

豊臣君は平賀式水面浮遊具を叩き付けた。

そんなこんなで海に出た五人。

快晴でナギ状態の落ち着いた海で、みんなが楽しく魚を釣る中、もれなく漁船が爆発、遭難した。


気付くと砂浜に倒れていた。

「ここは?」

豊臣君は立ち上がると辺りを見渡した。

砂浜には他の四人の姿もあった。

「織田君!徳川君!柴田君!」

豊臣君がみんなの体を揺すると、次々と目を覚ました。

「う、う〜ん、何がどうなってるんだ」

「イテテテ、船が爆発した気がする…」

「猿がエンジンの近くで花火なんてするからだろ!」

「だって暇だったんだもん!」

「何で花火なんて持ってるんだよ!」

「小町さんとお近付きになろうと思ったんですね」

「明智君、生きてたんだ…」

「何ですか、その嫌そうな言い方は」

「べ、別に、小町ちゃんに拒否られた腹いせに死んでしまえなんて思ってないよ」

「思ってるだろ?」

「織田君は黙ってて!」

「そういえば、豊臣が俺たちを起こした時、明智だけ起こしてなかったぞ」

「柴田君!そういう憶測ともとれる発言は、法廷内では慎むように!」

「とにかく、豊臣君が純粋無垢な私を滅殺しようとした事はさて置き、まずは状況把握が先決です」

「ここはどこだ?」

織田君は辺りを見渡したが、人影は見えなかった。

「無人島だね」

「猿!何で無人島だって決め付けるんだよ!」

「だって、ここに書いてあるもん」

豊臣君が指差した方向には、一枚の看板が立っていた。

”ここは無人島です。管理人より”

「管理人がいるんなら無人島じゃないんじゃないの?」

徳川君の疑問はもっともだった。

「ここには住んでいないのかもしれませんよ」

「いや、そうとも限らないぞ」

織田君は気になる物を発見した。

その看板から百メートルほど陸地に向かった所に、もう一枚の看板があった。

”本当に無人島ですので、奥に行っても何もありません。管理人より”

百メートル毎に、更に看板が立っていた。

”いや、本当に何もありませんから。管理人より”

”そろそろ引き返した方が良いですよ。ご家族も心配しています。管理人より”

”何もないって言ってんだろうが、このボケー!管理人より”

”ホント、信じて下さい。何も隠してませんから。管理人より”

看板をたどると、森の方へ向かっているようだった。

「これは明らかに怪しいですね」

「でも、怪しすぎて気味が悪いよ」

「徳川君、あなたは野球部のエースとして、この謎に敬遠するおつもりですか?」

「敬遠って…」

「いや、四打席全てにおいて敬遠したも同じです!」

「そ、そんな事しないよ。僕だって野球に全てを懸けてるんだから」

「だったら進むべきです。己を信じて、キャッチャーミットに投げ込むのみです!」

「わ、わかったよ」

「俺も行くぜ」

柴田君は楽しそうな表情を浮かべた。

「よし、決まりだな」

「ちょっと、僕は…」

「黙れ、猿。お前は太閤の称号を持ちながら、自称無人島ごときにビビるのか?」

豊臣君は運動会の騎馬戦での勝者として、太閤の称号を得ていた。

しかし称号のみで、扱いは何も変わってはいなかったが。

「ぼ、僕は…」

「お前は”無人島が恐くて、砂浜で砂山作って救助を待つ、情けないワオキツネザル”の十字架を一生背負って生きていくつもりなのか?」

「でも…」

「小町さんに「弱虫太閤」と罵倒を浴びせられても良いのですか?」

「行くに決まってるじゃないか!」

豊臣君は凛々しい顔で明智君を見据えた。

「良し。まずは己を知る事が大切だ。みんな、持ち物を出せ」

織田君の合図で、全員が持ち物を出した。

「使えそうなのはこいつだけだな」

織田君は柴田君の持っていた十徳ナイフを手に取った。

しかし、明智君のハゲワシのような鋭い眼光は見逃さなかった。

「豊臣君、そのリュックには何が入っているのですか?」

「そのリュックと申しますと?」

「あなたが背負っているリュックです」

「はて?僕には何の事やら…」

「何か隠してるぞ!」

柴田君が力ずくで豊臣君のリュックを奪い取ろうとした。

「隠してなんかないよ!は、花火だよ。残りの線香花火しか入ってないよ!」

「さっさと出せ!」

「イタタタタッ!ギブ!ギブ!」

柴田君の腕ひしぎ逆十字にタップした豊臣君は、おずおずとリュックを差し出した。

「チョコだ!」

越後屋印の一口チョコ(お徳用)が姿を表した。

「自分さえ良ければそれで良いのか!」

「だって僕のお小遣いで買ったんだから僕のものでしょ!」

「こんな時に喧嘩しないでよ」

織田君と豊臣君の口論を止めようと、徳川君が間に入った。

「そうです。喧嘩している場合ではありません。チョコは均等に分配しましょう」

明智君も止めに入った。

「ちょっと待て明智」

織田君は明智君の口から甘い臭いがした事に気付いた。

「お前、食っただろ?」

「何の事ですか?」

「チョコ食っただろ!」

「あっ!」

徳川君は地面に落ちているチョコの包み紙を見て叫んだ。

「テメー!」

織田君は明智君に飛び掛った。

「止めて下さい。シャツが伸びるじゃないですか」

「ウルセー!大体お前は騎馬戦でも裏切っただろうが!」

「あれはお茶目なジョークですよ」

「何がお茶目だ!俺の教科書の写真全部にヒゲ描いたのもお前の仕業だろ!」

「社会と理科は豊臣君です」

「猿!テメーもか!」

「ちょっと待って。今は明智君を責める時じゃ…」

「黙れ!打ち首にしてくれる!」

織田君は十徳ナイフのコルク抜きを引き出すと、鬼の形相で追い掛けてきた。

「みんな落ち着け!」

柴田君の大声に、一同は動きを止めた。

「俺たちは仲間じゃないか!」

その言葉に織田君は俯いた。

押し寄せるさざ波の音が胸に響いた。

強がっていても小学生。

知らない島に流された不安が心を乱し、戦友との熱い友情を忘れかけていた。

「そうだったな。俺が悪かった」

織田君はコルク抜きをしまうと、さわやかな笑顔を見せた。

「猿、明智。悪かったな」

「僕の方こそゴメン」

「私も大人気ない事をしてしまったと後悔しています」

三人は友情の証としてガッチリと握手した。

そんな中、徳川君は柴田君の口の周りに黒い付着物があるのに気付いた。

「あれ?柴田君の口…」

足元にはチョコの包み紙と、空になったチョコの袋が落ちていた。

「し〜ば〜た〜!」

魔王と化した織田君、チョコを全部奪われた豊臣君は、烈火の勢いで柴田君に飛び掛った。

何故か一緒につまみ食いした明智君まで一緒になって柴田君をタコ殴りにしていた。

二人の怒りと一人のドサクサ紛れのごまかしも終わり、一同はやっと落ち着きを取り戻した。

「ホント、悪かったよ…」

「柴田君もこう言っています。仲間割れはこれくらいにしておきましょう」

「そうだな」

「豊臣、ゴメンな」

「もう良いよ」

五人は友情を再確認して森へ足を進めた。


うっそうと茂った木々は、五メートルはあろうかという背丈で太陽の光をさえぎっていた。

足元を照らす木漏れ日だけが、唯一の頼りだ。

五人は慎重に進んで行った。

落ち葉や小枝が散乱していたが、獣道と呼ぶには相応しくない、地面を踏み固めたような小道が奥へと延びていた。

「やっぱり怪しいな」

先頭を歩く織田君は、辺りへの警戒を怠らないよう、細心の注意を払って歩を進めた。

「この道は人工的に作られたようですね」

幅二メートルほどの小道は、蛇行しながら奥へと続いていた。

しばらく進むと、織田君が小声で叫んだ。

「止まれ!」

行く先の脇にある茂みが、何やら揺れていた。

目を凝らしながら、五人は様子をうかがった。

「か、風じゃないの?」

豊臣君は織田君の背中に隠れるように覗き込んでいた。

「いや、何かいますね」

茂みの動きから、風以外の力で揺れていると判断した明智君は、落ちていた枝を拾うと中段に構えた。

ガサガサッ!

大きく揺れたかと思うと、五人の目の前に正体を現した。

「妖怪だ!」

織田君は姿を見て叫んだ。

「誰が河童じゃ、コラ!」

妖怪は日本語で怒鳴った。

「ザ、ザビエル君!」

豊臣君たちが見たものは妖怪ではなく、クラスメイトのザビエル君だった。

「OH!ミンナオ揃イデ、何シテマスネン?」

「ザビエル君こそ何してるの?」

「ミーハ布教活動中デスネン」

「はい?」

「一人デモ多クノ人ニ主ノ教エヲ説クノガ、ミーノ指名デスネン」

ザビエル君は小脇に抱えた聖書を見せた。

「あれ?でもザビエル君は修学旅行参加してなかったよね?」

「ハイ。学校行事ユウテモ、強制参加ヤナイッテ先生モユウテマシタカラ」

「じゃあ何でここにいるの?」

「ミーハ布教活動中デスネン」

「いや、そうじゃなくて…。ここって大島の近くでしょ?」

「豊臣君、何ユウテマスノン。ココハ太平洋ノド真ン中デッセ」

ザビエル君の片言日本語は、衝撃的な事実を告げた。

「えっ?じゃあ僕たちはかなり流されたって事?」

徳川君は動揺した。

「そういう事になりますね」

明智君は冷静に受け止めていた。

「デモ、人ッ子一人オラシマヘンノデ、モウ帰ロウト思ッテマスネン。ホナ」

ザビエル君は茂みに戻ろうとした。

「ちょ、ちょっと待って!」

豊臣君は必死で呼び止めた。

「これはチャンスだよ。ザビエル君と一緒に帰ろうよ」

「そうですね。私たちが本当に太平洋のど真ん中にいるのだとしたら、帰る方法を考えるのが先決かもしれません」

「確かにな」

いつもは強引な織田君も、この時ばかりは退路の確保が重要だと判断した。

五人は探索を打ち切り、島からの撤退を決定した。

「ザビエル君。僕たちも一緒に帰っても良い?」

「ソリャカマイマヘンケド、ミンナ泳ゲマッカ?」

「えっ?」

「結構シンドイデッセ」

「まさか、ここまで泳いできたの!?」

「ハイ。途中デ足ツッテモウテ、死ヌカト思ッテンケド、何トカコノ島ニタドリ着キマシテン」

「さすがだな…」

織田君はザビエル君の頭頂部を眺めながら驚嘆した。

結局脱出方法はなかった。

「ホナ」

ザビエル君に望みを託し、一同はザビエル君を見送った。

「どうしよう…」

「助けを呼んでもらうようにお願いしたのですから、その内救助隊が来ますよ」

「でもザビエル君が溺れ死んだら?」

「河童は溺れねぇだろ?」

「織田君!こんな時にふざけないでよ!」

「怒鳴るなよ。来れたんだから帰れるだろ?」

「でも…」

「今はザビエル君に全てを任せるしかありません。それより」

「探検、再開しようぜ!」

柴田君は右手を掲げた。

「そうだな」

織田君も同調した。

「しかし、救助隊が来た時に誰もいないと困りますね」

明智君は腕組みをして考え込んだ。

「誰か砂浜に残るしかないな」

織田君は四人を見渡しながら言った。

「そうですね。それでは…」

「僕が残るよ!」

素早い立候補は豊臣君だった。

四人は冷ややかな目線で豊臣君を見た。

きらきらした笑顔の豊臣君を無視して、参謀である明智君が提案した。

「徳川君と柴田君に残ってもらいましょう」

「な、何で!僕がやるって言ってるじゃない!」

「徳川君にならお任せできるでしょう。しかし一人では危険ですので、柴田君も」

「そうだな」

「ちょっと待ってよ!」

「うん。わかったよ」

「仕方ねぇな」

「だから待ってって!」

「黙れ猿!」

「でしたら、民主的に多数決で決めましょう」

明智君の提案により、四対一で豊臣君の敗訴が確定した。

「うぅぅぅ」

「泣くな猿!うっとうしいな」

「豊臣君、民意とはこういうものです」

三人は更に奥を目指して歩いて行った。


どれほどの時を歩いたのか、次第に疲労の色も濃くなってきた。

そんな時、前方の開けた場所が目に入ってきた。

「慎重に進みましょう」

明智君が促すと、三人はゆっくりと進んでいった。

生い茂る木々を抜けると岩場が広がっていた。

「おい、あそこ!」

織田君が指差した方向には、ぽっかりと口を開けた穴があった。

「洞窟ですね」

周囲の様子を警戒しながら近付くと、真っ暗な横穴が遠くまで続いていた。

「行くしかないな」

「反対!」

「ここまで来たんですから」

「絶対反対!」

「良いから来い!」

「断固拒否!」

「小町さんに言いふらしますよ?」

「勇猛果敢!」

豊臣君は先頭を切って洞窟に突入した。

しばらく進むと、入り口からわずかに入る光も届かなくなり、周囲は暗闇が広がっていた。

どこからか水が染み出しているようで、地面の岩場は濡れて滑りやすかった。

三人は手探りしながら慎重に進んだ。

「何か恐いな…」

豊臣君は冷たい岩の感触を確かめながら、慎重に進んだ。

「こういう所には未知の生物がいるかもしれませんね」

「ちょっと明智君!そういう事は言わないでくれる?」

「いや、明智の言う通りだ。UMAがいるかもしれないぞ」

「こんなとこに馬がいる訳ないよ」

「お前は本当にバカ猿だな」

「未確認生物の事です」

「未確認生物?」

「ネッシーや雪男の事ですよ」

「ネッシーって?」

「ネス湖という湖に住むと言われている怪獣です」

「怪獣!?」

豊臣君はお正月ワクワク祭りで見た「ゴズラVSミヤマクワガタ」を思い出して身震いした。

「ゴズラがいるの!?」

「ゴズラは映画の話です。ネッシーは恐竜の生き残りだと言われていますね」

「恐竜ってずっと昔の話でしょ?」

「そうですよ。ですが、シーラカンスという魚は恐竜の時代から現代でも生きていますから、恐竜が生きていても不思議ではないでしょうね」

「そんな魚いるの?」

「えぇ、煮付けは格別です」

「明智君、食べたの?」

「我が家では祝い事の席で食べます。誕生日とか」

「魚屋さんで売ってるの?」

「一匹二千円ぐらいです」

「ちょっと高いね」

「養殖が難しい魚ですから仕方がありませんよ」

後日、豊臣君はスーパーの鮮魚売り場で大恥をかく事になる。

しばらくすると、奥に光がある事に気付いた。

「何か光ってるぞ」

「行ってみましょう」

足元を確認しながら近付くと、周囲の岩がほのかに光っていた。

「これは…」

明智君は光の元を観察した。

しかし、明智君の考察より先に、豊臣君が結論を出した。

「飛行石だ!」

「そんな訳ねぇだろ」

「何でだよぅ?」

「アニメの話だろ!」

「世界のハヤオが嘘をついてるって言うの!そんな事言ってると、シシ神様の祟りにあって死んじゃうんだからね!」

言い合っている二人を他所に、明智君は光の正体を突き止めていた。

「これはLEDですね」

「LEDって?」

「発光ダイオードの事です」

「何それ?」

「UFOにも取り付けられている、グレイ星人が開発した照明具の事です」

明智君の嘘第二段とも知らずに、豊臣君は異星人の技術力に驚愕していた。

「どうやら近いようですね」

「ああ」

「何が?」

織田君と明智君の考えている事が全くわからない豊臣君だった。

「これは人工的なものです」

「だから?」

「こんな場所に照明をつけるという事は、奥に何かがあるという事です」

「何かって?」

「それはわかりません」

「いや…」

織田君が口を挟んだ。

「予想はつくな」

二人は織田君を見た。

「恐らく、海賊の宝が眠ってるんだ」

「か、海賊!」

豊臣君はシマシマシャツを着てタルに入ったの眼帯姿の男を想像した。

「剣を刺したらドッカーンって事?」

「”家族揃ってドキドキ!”ってそんな訳あるか!」

「織田君、ノリツッコミ下手ですね」

「う、うるさい!」

「とにかく、面白くなりそうですね」

明智君は光の続いている方向を見た。

「行くぞ」

織田君を先頭に、一行は足を進めた。

しばらく進むと、光の数が多くなり、辺りを煌々と照らしていた。

「何かあるぞ!」

織田君は前方に何かを発見した。

「扉のようですね」

「行ってみよう」

三人は慎重に近付いた。

重々しい鉄の扉が三人の前に立ちはだかっていた。

「何か歓迎されてるみたいだよ」

豊臣君が指差した場所には、”めんそーれ”と大きく書かれていた。

「何で沖縄弁なんだ?」

「沖縄の人たちが作ったからじゃないの?」

「いえ、違います」

確信とも取れる明智君の力強い声が響いた。

「ここはジョッカーの秘密基地です!」

「まさか!」

豊臣君は驚いた。

ジョッカーといえば、毎週金曜の夕方にテレビ放送されている”お面ライダー”に出てくる悪の組織だ。

「明智まで何言ってるんだよ」

織田君はあきれ果てた。

「そうだよ。ジョッカーがホントにいる訳ないじゃない」

「ふっふっふ。豊臣君、あなたは甘ちゃんです。プリンの底の黒い部分だけを集めてオン・ザ・リッツするぐらい甘ちゃんです!」

「ちょっとだけ塩味じゃないか…」

「これを見なさい!」

明智君は指差した。

鉄製の赤い郵便受けには、確かに”ジョッカー”と書かれていた。

「何と!確かにジョッカー家だね!」

豊臣君が驚嘆の声を上げるのを見て、明智君は満足そうに頷いた。

「何で郵便受けがあるんだよ」

織田君は冷ややかだった。

そんな織田君に、やれやれといった感じで明智君が言った。

「年賀状を受け取る為です」

「誰が出すんだよ!」

「友人、知人、以前にお買い物したお店や行き付けの床屋さんからに決まっているではありませんか!」

「お前、少しずつ猿に似てきてるぞ」

理論派で知られる明智君が少しずつ壊れ始めている事に、織田君は軽く引いた。

「とりあえず入ってみましょう」

明智君の提案で、三人はゆっくりと扉を開いた。

「ごめんくださーい!」

「猿!でかい声出すな!」

「だって、勝手に入ったらいけないじゃない」

豊臣君の礼儀正しい行動に、住人たちが一斉に飛び出してきた。

「キー!」

黒いマスクに全身黒タイツ。

まさしくジョッカーそのものだ。

その姿に、三人は言わずもがな怯んだ。

「ど、どうしよう!」

「猿!死んで来い!」

「嫌だよ!織田君が行ってよ!」

ジョッカーたちはジリジリと距離を縮めてくる。

「仕方ありませんね」

その時、明智君が意を決して呟き、自分の腰に巻いていたベルトを抜いた。

「豊臣君、これを腰に巻くのです」

「えっ?」

「早く!」

「わ、わかったよ」

豊臣君は明智君のベルトを受け取ると、自分の腰に巻いた。

「さぁ、叫ぶのです!」

「何を?」

「お面ライダーを見てないんですか?」

「はい?」

「変身する時はポーズと決めゼリフと弥生時代から決められているのです!」

「な、何言ってるのさ。僕はお面ライダーじゃないよ」

「ええ。あなたはしがない小学生です。しかし、そのベルトを巻いた時、お面ライダーになれるのです!」

「だったら明智君がなれば良かったじゃないか!」

「何を言っているのです。あなたは選ばれし人間なのです!」

「ぼ、僕が?」

「そうです。あなたは二年に一度、生まれるか生まれないかの逸材なのです!」

「微妙だな…」

「織田君は口を挟まないで下さい」

「僕が…逸材?そうだったのか」

「さぁ、今こそその力を発揮するのです!」

「わかったよ!」

豊臣君はジョッカーに向き直り、右手を高々と掲げた。

「へ〜ん…しん!」

説明しよう。

明智君がデパートでママに買ってもらった牛革製ベルトを巻いてポーズを決めると、お面ライダーになった気分が味わえるのだ。(明智君談)

「力がみなぎってくるよ!」

「そうでしょう!」

「何も変わってないぞ…」

説明しよう。

明智君がデパートでママに買ってもらった牛革製ベルトはMADE IN Chinaの為、気分を味わえるだけで、外見は人間のままなのだ。(明智君談)

豊臣君はあふれ出ていると勘違いしている力を込め、必殺技を繰り出した。

「行くぞ!ライダーローキック!」

説明しよう。

本物のお面ライダーはジョッカーの頭を目掛けて上段回し蹴りを繰り出すが、豊臣君は格闘技の経験がないので、そんなに高くは足が上がらないのだ。(豊臣君談)

バシッ!

なんちゃってお面ライダーの下段回し蹴りがジョッカーに炸裂した。

しかし、蹴った方が痛かったのだ。

声にならない叫びを上げながらのたうち回る豊臣君。

「弁慶の泣き所ってやつだな」

「痛いですね」

説明しよう。

あくまで気分だけなので、豊臣君のスネはヘタレ小学生のままだから、それなりに鍛えている大人の足を思いっきり蹴ってはいけないのだ。(後に反省)

あっという間に囲まれ、首根っこを掴まれて捕獲された豊臣君だった。

「どうする?」

「万策尽きました」

ジョッカーは二人にもにじり寄ってきた。

その時、奥から別のジョッカーが出てきた。

「何やっとんのじゃ!」

そのジョッカーは、額の部分に”キャプテン”と書かれているマスクをしていた。

「キー!」

「キー!」

「何?迷子だと?」

主将ジョッカーは首根っこを掴まれて怯えている豊臣君を見た。

「坊主、どこから来たんじゃ」

「あの…日本から」

「はぁ?ここだって日本だぞ」

「えっ?でもここは太平洋のど真ん中だって…」

「何言っとるんだ。ここは東京湾だぞ」

三人は目を丸くした。

「ザビエルの奴め。適当な事言いやがって」

「考えてみたら、いくらザビエル君が河童に似ているとはいえ、そんなに泳げるはずがありませんね」

三人は奥の応接間に通され、オレンジジュースとクッキーでもてなされた。

そして帰り際、うるし塗りの重箱をお土産にもらった。

「もうすぐ船が来るから、気をつけて帰れよ」

洞窟の外まで送ってもらい、大勢のジョッカーに見送られて砂浜へと戻った。


「みんな!」

三人の姿を見つけた徳川君が走り寄ってきた。

「無事だったんだね。良かった」

「スゲーもん見たぞ」

「何?」

「ジョッカーの秘密基地だ!」

「えっ?」

「ジョッカーだよ!お面ライダーの」

「そ、そうなんだ。織田君もお面ライダー好きなんだね。ちょっと意外」

「これはお土産です」

明智君が重箱を見せた。

「へ、へぇ、お土産までくれたんだ…」

「はい」

「でも、重箱って何か浦島太郎みたいだね」

徳川君は明智君の持っている重箱をしげしげと眺めた。

「…」

「猿。お前開けてみろ」

「えっ、嫌だよ。おじいさんになったらどうするのさ!」

「その時は年金の手続きしてやるから安心しろ」

「嫌だよ!僕には光輝く未来が待ってるんだから」

「気のせいです」

「そうだ。お前の将来が光り輝く事なんてない」

「織田君も明智君も言い過ぎだよ。豊臣君にだって少しぐらい夢を見させてあげようよ」

「徳川。その言葉結構キツイぞ」

「ご、ごめん。豊臣君、違うよ!変な意味じゃないから!」

砂浜に指で”バカヤロー”と書く豊臣君の姿があった。

「とにかく、開けてみろよ」

「えー、僕が開けるの?」

「この大役は豊臣君にしかできません」

仕方なく豊臣君は重箱のフタに手を掛けた。

「じゃあ、開けるよ…って、何でみんな離れてるのさ!」

「いや、安全の為に」

「危機管理は重要です」

「ごめんね、豊臣君」

友達なんて信じないと心に誓いながら、豊臣君はフタを開けた。

「何が入ってる?」

織田君たちは重箱から煙がでない事を確認して豊臣君に近付いた。

「これ」

豊臣君は重箱の中身をみんなに見せた。

「これっておはぎじゃない?」

「おはぎですね」

「ジョッカーの手作りっぽいな」

「手紙が入ってるよ」

徳川君はおはぎと一緒に入れられた紙を開いた。

”帰り道でお腹がすいたら食べてね”

「…」

「結構良い奴だな」

「そうみたいだね」

「意外と和風なんですね」

言葉を失う徳川君を他所に、三人はジョッカーの優しさに感動していた。

「おーい!船が着たぞー!」

岸壁から海を監視していた柴田君が叫んだ。

「帰るか」

「帰りましょう」

「みんな心配してるかなぁ」

「小町さんに「豊臣君!生きてたんだね」って抱擁されたらどうしますか?」

「な、何言ってるんだよ!そんな事ある訳…エヘヘ」

「エロ猿が」

「今度は小町さんに協力してもらってイジってみましょうか?」

「面白そうだな」

「ちょっと、二人とも。豊臣君がかわいそうだよ」

「徳川君は見たくないのですか?」

「…ちょっと見たい」

「エヘヘヘ」

一つの欲望と三つの悪意が入り混じる夕暮れだった。

「夕方になってしまいましたね」

「夕日が綺麗だね」

「あっ!」

妄想に励んでいた豊臣君が叫んだ。

「どうしたの?」

「小町ちゃんと海水浴…」

「もう終わってるでしょうね」

砂浜に崩れ落ちる豊臣君を慰めるように、遠くで船の汽笛が響いていた。

前作を読んで頂いた方から応援のメッセージを頂き、調子に乗って続編を書いてしまいました。書いてみたいカラミや登場人物が他にもあったのですが、前作の登場人物を中心にしたかったので、新キャラは平賀君のみにしました。是非ご感想をお聞かせ頂きたく、お願い致します(厳しいご意見もお待ちしております)

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