表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

ステージ0

とりあえず更新

 秀久は頬をさすりながら幼女へ近づき、目の前でしゃがみこむとポイントデバイスを取り出した。

 ポイントデバイスはレイナが持つ物と同じだが、秀久のは赤いラインが入っている。小首を傾げる幼女に、秀久は頭を優しく撫でるとデバイスを出すように促す。


「あの……」

「ほら、俺のに翳して。ポイント移せないだろ?」

「そんな、それはお兄さんが……」

「元々このポイントは合谷が君から奪って行った分がある。それに、君みたいに幼い女の子が参加するなんて……何か理由があるんだろ?」


 笑顔を向ける秀久に幼女はぐずぐずと表情を歪める。


「……ただ、取り戻したかったんです」

「取り戻したかった?」

「……お父さん……と……お母さん……が……私にくれた大切な……う、ひく、……」

「……そうか……」


 レイナも傍らにしゃがみ込み、優しく幼女の頭を撫でる。幼女の瞳からボロボロと涙がこぼれ落ち、二人に抱きつき、声を上げて泣いた。

 ……この娘が取り戻したかったのは……、もしかしたら


「……ひく、う、……あああ!お母さん、お父さん……会いたい、会いたいよぉお!うわあああん!」

「……クリエタワールドは何でも叶えれる世界。……でも、……探し人に会うには膨大なポイントがかかる……」

「小学生にも上がらない内から……こんな……」


 苦痛な表情で拳を作る秀久を、レイナはそっとその拳を握る。二人の中で涙をボロボロ零す幼女。だが、このポイントでは――


「なあ、……君が取り戻したかったのはやっぱり」

「……う、ぐす……はい、くまさんのぬいぐるみです」



  ――ワッツ?




「な、なあレイナ……、一度失ったぬいぐるみって見つけること出来るのか?」

「思いが強かったら、……復元されるから大丈夫だけど」


 幼女の発言に呆気に取られる二人。うっかりも良いところだ。秀久に至っては行き過ぎた考えに自分で悶え、幼女が首を傾げていた。


「あの、お兄さんは……」

「気にしなくて大丈夫。……それより、今頃クリエタワールドは解禁されてるから、また狙われない内に早く」

「はい!……あの、ありがとうございます!」

「ううん、……頑張ったのはあっちのお兄さんだから」

「お姉さん、あそこにいる彼しさんによろしく伝えてください!」

「へ!?」


 頭を下げ、レイナの言葉を聞く前に去って行く幼女。ゴムで結ってある髪が揺れ、闇夜に消えて行った。

 レイナはため息をつくと、未だに悶える秀久をちらりと見る。


「彼氏……か」


 夜空を見上げ、一番星が輝く。自分のカードを取り出し、秀久をまた一度見ると無言でしまう。

 やめておこう、……ポイントはリセットされてるし、秀久は挑戦権を失っている。それに……、学生証が同じということは……。


「あああああああ!?」

「!?……い、いきなり何!?」

「着替え……どうしよう」


 こいつは……、人が悩んでいるというのに。

 レイナはぷるぷると体を震わせ、拳を握る。


「……ポイント全部渡してしまったから挑戦権無いし……、ああああもう!賠償金の馬鹿野郎!」

「自業自得だよ!この厨ニ男!」

「ごぶら!?……て、誰が厨ニだ!?」

「自分が一番分かってるでしょ?……痛いなあ」

「お前なぁ!?」


 ――何あれ


 ――喧嘩する程仲良いらしい、よくやるよなあ


 ――最近のカップルはよく喧嘩するんだね



「「……」」


 周りから聞こえる声に秀久とレイナの頬が紅潮し、慌ててそっぽを向く。

 そうか、ゲームは終了してるから、この光景は普通に見えている。保険がかからないのだ……。

 だが同時に、彼、秀久の戦いは同じプレイヤーに目撃されていた……。


『……覚醒か、……面白そうだね』


 口の端を上げ、その場を去る者。何かを考えながら溶ける者、そして興味深そうに彼らを見る者……。

 そして、ピエロの格好をした男が、じっとレイナを眺めていた。


「……仕方ねぇ、我慢して帰るか」

「あ、ちょっと待って」

「何だよ……言っとくけど俺がゲームに参加してたのは此処じゃな――」

「うん♪これでよし」

 乱れていた襟を直し、ご満悦に微笑むレイナ。秀久は慌てて顔を逸らし、レイナは小首を傾げる。

 じーっと秀久を見つめ、彼から冷や汗が流れる。


「何で目を逸らしてるの?」

「……、あ、ははは……」

「まあいいや、じゃあ、明日学校でね」

「え、あ……、おう」

 軽く手を振りながら逆方向へ向かって行くレイナ。秀久は軽く手を挙げていたが、何かに気づいたのか慌てて戻って来る。


「方向間違えてた……」

「おい」


 秀久の不憫も折り紙付きだが、レイナのうっかりも中々のものだ。

 だが、月が輝く夜の世界へ消えて行く彼女の姿はとても煌めいていた。


「まるで、……お姫様だな」

「ね、君!」

「ん?」


 後ろからかけられた声に振り向くが誰も居ないのではないか。首を傾げていると、袖をぐいっと引っ張られる。視線を下に下ろし、さっきの幼女とは別の幼女がニコニコと微笑んでいる。


「小さいな……ふぐお!?」

「ごめ~ん☆手が滑っちゃった」


 てへと舌を出しながら足を引っ込める幼女。腹部を押さえながら、秀久は青い顔で幼女にあははと苦笑いを浮かべる。


「ボクはこう見えて高校生、君と同い年だからね?」

「嘘ぉ……、てか、いきなり何だよ?」

「そう、それ。……君、自分が何をしたか分かってる?」


 何を……――


「格好良かったよ!まるでヒーローみたいでさ!」

「ヒーローって……俺はただ」

「ボク、雅 遥香(みやびはるか)……ね、君に同行していい?」

「はあああ!?」


 ――突如覚醒した俺のクリエイタカード。

 それは、これから始まる物語の序章だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ