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ステージ0

覚醒・・・ハゲ永遠に

 ――200。

 秀久の持ちポイントは後僅かしかない。レイナは橋から飛び降り、黒いドレスを翻しながら秀久へと歩み寄った。

 瓦礫の破片に埋もれ、頭は切れているのか流血している。ガラガラと破片をどけ、直ぐに立ち上がる秀久を見て、レイナは問うた。


「まだ……戦う気?」

「当たり前だ」

「……力の差わかってるでしょ。……秀久がゲーム参加者なのは解ったけど、合谷はああ見えてランクが」

「……知らねえよ」


 赤い瞳の輝きが増している。夜空に赤い光が見えた……。

 レイナは目を見開いたまま、秀久の横顔を見つめる。


「あいつは、あの娘を傷つけた。だから許さねえ」

「……知り合いでも無いでしょ」

「あんただって、……怒ってたじゃん。……理屈は同じだ」


 確かに、合谷のやり方に許せずレイナは真っ先に怒りをぶつけた。秀久も顔には出さないが同じ考えだったのだろう。


「それに……、合谷が強いって分かって燃えてきた」

「へ?」

「……この勝負、俺が勝つぜ!」


 ニッと笑って見せ、合谷が居る方へと走って行く。レイナは呆気に取られていたが、すぐにクスッと片手を口元に当てる。

 ……上狼秀久。


「――行くぜ合わ、たただ!?ドラム缶ー!」


 ……かっこ悪いけど。


「待たせたな合谷」

「ガキぃいい!此処で終わらせてやるよ!」

「……生憎、不細工に潰される趣味は持ってねえ」

「……テメエ、いたぶるだけじゃ物足りなさそうだな!カード事ボロ雑巾にして二度と参加出来なくしてやらああ!!」


 鬼となった合谷が巨大な拳を振り上げる。

 確かに、……俺には力が足りない。

 ……けど、俺の目的を達成する為にも。


「俺は負けられない!!……赤きクリエイタカード……もっと、もっと……もっともっと輝け!!この夜空を照らせぇえええええええ!!」


 カードを空へ掲げ、大きく、高く天へ叫ぶ。

 合谷の振り降ろした腕は、眩い赤い光に弾かれ、その巨体が大きく、派手に倒れる。


「があああ!?」

「……あの光……!」「……俺に限界は無い!俺が輝きを望めば、輝きは俺を包み込む力となる!!……燃えろ!熱く、熱く!!灼熱の夜空よ!」


 ――ワレノチカラヲノゾムモノヨ


 ――ソノカガヤキ、ミトドケヨウ



 赤い光が一直線に空を照らす。

 秀久の持っていたカードが三つの光を放っている。秀久は一枚を抜き取り、右手で前へと向ける。

 レイナ、合谷もその光景に身を乗り出す。


「バカな、あれは……モンスターカード!?」

「秀久のカードは……クリエイタだけだった筈……」


 ――ドクン



 ――ドクン



 ――さあ、過激的に行こうか



「クリエイタ・スタードラゴン!!……熱くたぎれええ!!」


 秀久の呼応に応えるように赤い光が地上へ降り注ぐ。その風圧は動くもの全てを抑えた。バタバタとはためく秀久の制服。ドレスを押さえながら、レイナは赤い煌めきを放つ真紅の龍を見上げる。

 気高く天へ龍の咆哮が貫く。

 赤い瞳、金色の装甲、美しく輝く中央のクリスタル。幻想の世界でも見ているのかと疑わせる姿にレイナも合谷も、秀久も見惚れる。


「これが、俺の……」

「てめええ!いったい何をした!!こんなモンスター聞いたことも……」

「……本番だ!行くぜ、スター!!」


 音色を奏でる咆哮を挙げ、スターが鬼に向かって巨大な翼を広げる。高速で接近し、その巨体から伸びた三つの爪が鬼を蹴り飛ばす。ズウウンと地を揺らしながら鬼は地面へ倒れる。

 振動がレイナにも伝わり、後ろへ倒れる前に秀久が姫抱きの形でフォローする。


「大丈夫か?……軽いなあんた」

「!!……当たり前よ変態!」

「ぐふうう!?」


 レイナは赤くなった顔をパタパタと扇ぎ、ぷいっとそっぽを向く。

 その間にもスターが合谷へと迫り、炎に包まれた右腕で体を切り裂く。ぎゃああ!!と悲鳴が上がり、スターの両足蹴りで吹き飛ばされる。秀久はスターの肩へ飛び乗り、赤い翼が空を舞う。

 未だ吹き飛ばされてる合谷の背後へ回り、飛び蹴りを鳩尾へと決める。巨大な体は重力に沿って地面へ落下する。


   ――-残るは1500ポイントだ。


「が、ごほ!」

「これで終わりにするぜ合谷ぁあああああ!!」

「ま、マテ!……待ってくれ!!謝るからぁ!!」

「……!」


 スターの動きが止まる。レイナは疑いの眼差しで秀久を見る。制止させたのは秀久……、カードを持つ手を下ろし、合谷に期待の眼差しを向けているではないか。

 合谷は心の中でほくそ笑み、巨体を起こす。


「本当か?……嘘じゃないよな?」

「ああ本当だ!何ならポイントをあの嬢ちゃんに渡したっていい!」


 合谷の言う方法はポイントを渡し降伏するというものだ。これはルールに反することも無く、争いを好まない、または話が合った者の為に組み込まれている。秀久は嬉しそうに笑い、スターから飛び降りる。

 よしよしと合谷は秀久を馬鹿にするように笑みを零し、次なる条件を持ちかける。


「そのドラゴンをカードへ戻してくれ。その後俺もこいつ(鬼)を戻す」

「わかった。……俺も力づくでポイント奪うの嫌いだしさ」

(馬鹿な奴)


 スターへカードを向ける為、背を向ける秀久。合谷はチャンスとばかしに拳を振り上げ、背中ががら空きになった秀久を狙う。

 ――この世界じゃ、正直者は馬鹿を見るんだよ!てめーの負けだあああ!


「――……スター!!」

「何いいい!?ごぶぁああ!」


 スターの尻尾が合谷を貫く。煙に紛れて姿が見えなくなっていた秀久が現れ、レイナが目を見張る。


「……変わった!?」「甘いぜ不細工頭!!俺の真紅の瞳がてめえを燃やしたいと訴えてるんだよ!!」「な、何だお前!?」

 秀久だが秀久ではない。髪は赤く紅蓮色に染まり、背中まで伸びている。瞳は赤からオレンジ色、制服は消え、赤いシンボル、アーマーパーツの付いたサイバースーツだ。

 体からは溢れんばかりの熱気と炎が立ち上がり、ニッと笑っている。


「俺は……紅蓮!上狼紅蓮!さあ、燃え尽きるまで行くぜスター!!」

「カードの力?でも、秀久はさっきまでモンスターカード以外を使っていない……」

「ただの空想から生み出されたんだろ!!そんなもの砕いてやる!」

「行くぜ……オラァアアア!」


 紅蓮が大地を駆け、地面に焼けた後が残る。巨体に向けて蹴りを叩きつけ、炎が散る。


「がああああ!?熱い熱いいいい!」

「オラオラオラオラァアアアア!」

「やめ、ろ、がああ!あちいいいい!!」

 地獄だね、あれ。レイナはあちこちに火傷の跡を残し、悶える合谷に哀れみの視線を向ける。紅蓮はスターの上に再び乗り、拳に熱気を溜める。次の瞬間、それをスターへ叩きつけ、スターは雄叫びを上げながら紅蓮色に染まる。


「モンスターに力を与えた!?」

「行くぜスター!!煌めく紅蓮の炎で燃やせえええ!」


 空からスターへ向け、赤い光が集中して行く。それはスターの口の前で渦を巻き、スターの目が鋭い光を放つ。

 波動砲と言うべきだろうか。赤い光の束が真っ直ぐに突き進み、合谷を直撃。花火に負けない爆発を起こし、黒こげになった合谷は地面へ落下した。


 ――0


 

 持ちポイントが無くなり、秀久へ3500ポイントが加算される。これにより、秀久のポイントもリセットされて合計数値は4500となる。

 スタードラゴンに乗ったまま、秀久は熱気が籠もった腕を空へ突き上げる。


「最強のプレーヤーはこの俺だぜ!!」

「……何か暑苦しいなあ、あの秀久」





 街への被害が無いのが幸いだ。プレーヤーにしか見えないこのゲーム。だが、現実の障害物は遠慮なくプレーヤーへ伝わる。当然、秀久は壁を突き破り、破損させたのだから賠償金を取られる。賠償金はポイントから引かれ、足りない場合は『借金』だ。

 幸い、壁貫通などで済んだ秀久は1000ポイントだけを引かれた。レイナの持つデバイスのような機械から残高を見せて貰い、少しだけ安心したように肩を落とす。


「無茶するね、君も」

「仕方ないだろ!?てか賠償金まで引かれたキリねーよ!」

「そうだけど……、3500ポイントもあれば君のその甘い制服で帰らなくて済むね」

「人の傷口えぐんな!……それより、あの娘は……」

「……大丈夫。そこまで深くなかったから」

「そうか。良かったぁ……」


 自分の事は無視かと呆れ気味に流血している頭をつつくレイナ。秀久は悲鳴を上げ、飛び跳ねる。


「何すんだよ!?」

「……頑丈だなぁって、……大丈夫?」

「何でそんな真顔なんだよ。……こう、もう少しさ、真心を―――」

「私ね、……セクハラする人は好きじゃないから。うん、殴ろう!」

「ごふっ!?」


 今吹き飛んだ秀久の姿は先ほどの紅蓮という秀久では無い。やはりゲームだけに適用される姿……、でも何故?


「いってえぇ……」

「あの、大丈夫ですか?」


 そっとハンカチが差し出され、ニコッと笑みを見せる小さな幼女。間違いなく、合谷に襲われていた娘だ。

 秀久は身を起こし、幼女の顔をペタペタと触る。


「君、大丈夫!?何処か怪我とかは……」

「後ろで拳を構えてるお姉さんが治療してくれたので平気です……」

「拳?ふぎゃらばあ!?」

「……セクハラだよ秀久」


 ボールのように跳ね、壁にぶつかる秀久。幼女はレイナに頭を下げ、頭を撫でられると嬉しそうに目を細める。

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