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ステージ0

 カフェ『グラスパ』。

 秀久達が学校終わりによく通う喫茶店であり、此処のパフェはスーイツに厳しい秀久の太鼓判押しでもある数少ないお気に入り。

 何時もなら今日は何にしようかなと、何時もからは想像も付かない表情でメニューを嬉しそうに開くのだが……。

 拓人と隣に座る林檎はメニューに目を通しながら、財布を見て絶望する秀久に汗が出る。


「ひ、秀久?」

「……ナニ、モンダイナイ、ウンウン」

「壊れてる」


 林檎はそう呟き、ウェイトレスを捕まえてリンゴパイを注文し、拓人はティラミスを、はんばやけくそになった秀久はスペシャルイチゴパフェを注文。

 ウェイトレスは手早く機械を操作し、笑顔で三人を見る。 バイトか?

 秀久はじーっと身を起こしながらウェイトレスを見、林檎がメニューで殴った。


「っ……、すんません」

「え、えーとご注文は以上で?」

「あ、ああ……、後アーモンドクランチ追加」

「はい、かしこまりま……あ、お客様!お冷のお代わりは?」

「あ、じゃあ」

「畏まりました」


 にっこりと明るい表情で頭を下げ、秀久の空になった透明コップを持って、奥へと消えて行く。

 疑問を抱いていた拓人は、二人の視線を集め、ポツリと呟いた。


「あの人、多分高校生だよね?」

「あ、拓人君も気づいた?可愛かったよね~」

「……まあまあだな」

「えー、結構レベル高かったよ?」


 林檎が頬を膨らまし、秀久は知らんとツッコミを返す。

 林檎が言う事は確かに合ってはいる。先程のウェイトレスは、背中まで伸びた珍しいオレンジ色だった。艶があり、彼女自身の頬も健康的で白くきめ細かい。そしてあの桃色の瞳は、キラキラとしていて明るさを見事に出している。

 拓人は拗ねる林檎の頭を撫でながら、窓から見える街並みを見つめる。時刻は夕方を回っている為、帰宅する学生、夜に備えて準備を始める店、信号前で並んで車と人口が密集している。


「……こうやって平和に生きて行くのかな僕ら」

「いきなり何言ってんだよ拓人。誰だって平和に生きたいに決まってるぜ」

「……そう、だね」

「あ、リンゴパイ!」

「「やっぱりリンゴパイじゃん!」」


 運んで来たのは先程のウェイトレスだ。片手にリンゴパイを持って、片手にティラミスを持っている。

 手が震える辺りまだ数週間だろうか?

 ふう、と見えないように息をつく彼女に、秀久は疑問を抱いていた。が、パフェが来るのでどうでもいい。


「お……お待たせ致しました」

「来た来た!」


 いや、待て。

 何か嫌な予感がする。

 それに気づく前に、ウェイトレスの自重しない胸がパフェのグラスに当たり、バランスが一気に崩れてしまった。

 対応する余裕も許さず、ウェイトレスは秀久の方へ倒れ、パフェ、アーモンドクランチをぶちまけ、食器が割れる音とベチュ、ドチャっという不快な音が喫茶店中に響いた。





「……うわ、まだ甘い匂いする」


 すっかり時間も夕日が沈んだ夜を迎えた。二人と別れた秀久は制服を掴み、くんくんと匂い顔をしかめる。お詫びとして半額にしてくれたことは有り難いが、結局は難が降りかかっている。


「……着替えて帰りたいな……、あ……」

 まるで望みを叶えてくれるように秀久の歩いていた通路の向こう側から大きなビルが見える。いや、ビルではない、あれは秀久達の街で有名なショッピングモール、「ハザマ」だ。

「…………金足りるかな……」 


 しかしベトベトなまま帰るのも悩む。ため息をつき、ハザマへと向かって行く。ハザマの営業時間は二十二時。今の時間帯は八時だから買い物自体は余裕だ。

 自動ドアが開き、店内へと入る。

 やけに人が少ない……。というより誰一人居ないが正しい。


「何だこの無人状態……」

「この時間帯は人は殆ど居ないよ」

「っ!?」


後ろから声をかけられ慌てて振り向く。黒いドレスに青い外套を羽織った女性が秀久に近寄り、カゴを回収する。

黒く長い髪が揺れ、ドレスもそれに付いていくようにふわりと浮く。


「……!ちょっ、何すんだよ!」

「二十時以降、ここは買い物出来ないよ?ルール知らないの?」

「はあ?いや、営業時間は二十二時って……」

「……まあ、ルール知らないから無理ないか」


 ルール?

 女性は首を傾げて唖然とする秀久を見上げ、肩をすくめる。赤い目が、透き通った紫色の瞳に白い肌が目に入り、慌てて視線を逸らした。

 女性はカゴを置き場所に戻し、秀久へと再び近寄る。


「……君って、もしかして此処に来たの初めて?」

「…………財布に余裕があればなあ」

「あ、ごめん。タブーみたいだね」


 財布が何時もギリギリな秀久にとって此処へ来たのは初めてだ。実際、服が高かったら帰る予定もあったし、何となくに近い。

 女性は苦笑いすると扉へ指を指す。


「帰った方がいいよ、君。……もうすぐ此処閉まるから」

「は!?いや、ちょっと待て!何でだよ!?」

「……二十一時から此処は楽園になるからね。帰らない場合は強制的に追い出すよ」


 ……………。

 …………ああ、なるほど。



「つまりあんたは俺に買い物させたくない「よし!殴ろう」ぐふへ!?」


 女性の拳が派手に秀久を吹き飛ばしカゴ置き場にストライクを決める。カゴ塗れになった秀久は、頬を押さえ目を白黒させる。

 ドレスなのにあんな派手動き、出来るものだろうか?


「いつつ……、何すんだよ!?」

「君、バカ?……ああ、バカだったねそういえば」

「!?……俺の学生証!?」

「……ふーんカミオイヒデヒサ、600、最下位だね」


 指で弾かれた学生証が秀久の頭に落ちる。屈辱でもあるが、何よりも美少女にバカ扱いされたことにショックが重い。

 石のように固まってしまった秀久に女性はため息をつき、カゴをどけると、彼の前へしゃがみこむ。


「……生きてる~?」

「……」

「仕方ないなあ。ほら」


 手を差し出され、固まった表情のまま握る。ガラガラとカゴが秀久から流れ落ちる。身を起こし、秀久の首もとから赤い宝石がついたペンダントが衝動により出て来る。

 瞬間、……女性のチョーカーに引っかかっている金色の宝石が輝き、秀久のペンダントが共鳴するように光り出す。


「な、何だ!?ペンダントが!?」

「……やっぱりか」


 光は店内中を赤と金色に染め、やがて収まる。困惑する秀久はペンダントを掴み、まじまじと赤い宝石を見ている。

 女性は、無言のままスリットから一枚のカードを引き抜き、秀久の目の前を独占すると見上げる形でカードを見せた。


「君、……私に見覚えある?」

「…………えと……いや?そのカードなに?」

「……うん、わかってたけど、やっぱりそうだよね……」


 女性は目を伏せると、カードをしまう。切り替えるように秀久の腕を掴み、秀久の肩が跳ね上がる。


「なあ、今の……うお!」

「とにかく此処から出て真っ直ぐ家に……きゃ!」

「え!?ちょっ、うわああっ!?」


押し出すかのように店内奥から風圧が吹き荒れ、秀久と女性が外へと飛ばされる。派手に転げ落ち、隣で尻餅をつく女性。扉が閉まり、鎖が張られる光景に秀久は頭を押さえながら見送る。


「え!?な、何だ何だよ!」

「……あ、時間勘違いしてたかも」

「え?……!?」


 苦笑いする女性に驚いてる暇は無い。直ぐに近くで派手な爆発音が響き渡り、何かが飛んで来る。

 秀久は女性へ飛び込む形で倒れ、立っていた場所には機械の破片が刺さっている。


「……あぶねえ。……大丈夫か?」

「この……変態!」

「ぎゃふう!?」


 女性に殴り飛ばされ、秀久は地面を転がる。ゴロゴロと転がる間に片手を地面に着いてその際固い何かを掴み、飛び跳ねるように起き上がり、片足が何かを蹴飛ばした。


「いてえええ!?」

「あ……」


スキンヘッドの大柄な男。

秀久はバツの悪い顔で見上げる。怒っている。間違いなく!怒っている。

男は秀久の襟を掴み、拳を振り上げていた。


「てめえでいい、今日はミンチだ」

「え」


これって典型的なパターン?

振り下ろされる拳を見ながら、秀久は今晩のおかずを考えていた。怖い?そんなのはとっくの昔に忘れたのだ。今日の流れを考えても、チンピラに殴られるのも日常茶飯事かも知れない。


「秀久!!」


拳が振り下ろされる前に見えない速度で何かが飛んでくる。

次瞬きする瞬間には秀久は男の拳を逸れて、お菓子が詰まれたコーナーに埋もれてしまっていた。起き上がる前に体が浮き、視界は真っ暗になっていた。

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