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ステージ0

ステージ0―2です!秀久が相変わらずですが……。

 容赦ないアイアンクローを頂き、秀久は地面に這いつくばる。手を優しく上下に揺らし、へこんだかもしれない自分の顔を必死に撫でる。

 相変わらず馬鹿力だ。何か変なこと言っただろうか?自分の対応の無さを理解していないのか、ぶうと不満げに座り込む。


「いつつ……」

「秀久、また先生にお説教くらったの?」

「あ、はは、あれは、お説教と言うべきなのかな?大丈夫秀久君?」

「お。よう拓人、りんご!」


 顔から手を離し、その腕を左右に振る。彼に苦笑を浮かべながら、親友の二人は歩み寄って行く。

 槍馬拓人そうまたくとは秀久に手を差し出し、秀久が起きるのを手伝う。


「つか、誠先生も少しは手加減を――」

「誠先生なら呆れたみたいで、もう居ないよ?」

「だああ、逃げんなあああ!」

「また秀久が無茶苦茶な事言ったんでしょ?」


 はて?記憶が無いな。

 考える仕草に顔を見合わせ、苦笑する拓人と森茂林檎もりしげりんご。何時もの事だから気にする必要は無いが、相変わらず秀久は不運な男だ。

 当の本人は制服から埃を払い落とし、自分の鈍色な茶髪を掻きながら学生証をひらひらと振っている。……冗談抜きで、秀久はこれからの事を考えている。


(はぁ……ふざけてる余裕はねーからなぁ……。ゲームか……)


 噂に聞けばそのゲーム、かなり質が悪い。面倒くさがりな性格が上乗せして、ただでさえ争い事が嫌いな秀久にとっては相性が悪い。

 普通ならば、ゲーム好きの男性にとっては間違いなく『ご褒美』と言っても良いが、秀久にとってはこのうえなく『地獄』とも呼べる。

 何故、勉強ではなくゲームで示さなければならいのかを理事長に問い詰めたかった。


「あ、そう言えば二人共成績どうだった?」


 拓人の問いに、秀久は学生証を振っていた腕を止める。

 what?

 ではなく、

 whyと尋ねかけた口を閉じ、林檎が苦笑するのを見て、視線を外す。


「私は、普通だったのかな?……中間だったよ、拓人君は?」

「僕もそんな感じ。最後の科目はつい居眠りしちゃってさ~」

「あはは、拓人君らしいね。……秀久君、って、何でそんなに渋い顔してるの!?」

「…………キノセイダヨー」


 恥ずかしい。

 試験を受ける前、二人に成績上位取ってみせると断言していたんだった……。

 結果は最下位……、言ってる事とやっている事が明らかに矛盾してるじゃん!

 心配そうに、林檎に顔を覗き込まれ、渋い顔が梅干しでも食べたかのような酸っぱい表情に変化……、色々と残念だ。


「ひ、秀久?」

「……何だよ拓人」

「え、えと……、もしかして、低かった?」

「……」

「そうなんだね……」


 理解したように、林檎は何とも言えぬ表情で、秀久の頭をポンと叩く。

 沈黙が覆い、拓人にチョコレートを渡され、音も無い動作で受け取った。


「と、とりあえずさ……試験も終わったし、何か食べて帰ろうか?」

「う、うん賛成!秀久君は?」

「……ああ。じゃあ割り勘って事でいいか?」


 笑顔で返す二人。確認をしたいのか鞄に入れておいた財布を探す。

 気分もあまり優れないし、久しぶりに糖分摂取と行くか……。既に何を食べようか決め始める秀久。余程今日はダメージが大きかったのか、眉が密かに吊り上がっている。


「「……!」」

「……おい?」

「「……」」


 鞄を漁っていた二人が同時に秀久へ視線を向ける。

 ……財布忘れた。

 悲しげというのか、申し訳ないというのか、とにかく目を潤ませている林檎と、眼鏡を曇らせている拓人を見れば一目瞭然だ。

 会話も無くなり、秀久は自分の財布を取り出し、中身を確認。中身は……、まあ、うん、卸さないと夕飯が何も無いや。


「解った。俺が出すよ」

「「ごめんなさい!」」


 財布をポケットに入れ、鞄を持ち直す。学生証は無くならないようにと、財布の中に一緒に入れてある……。

 今だけは忘れよう。ゲームの開始連絡は新学期に入ってからだし、まだ時間はある。その間に目一杯楽しもうじゃないか。

 少しだけ疲れが取れ、秀久は二人に振り返る。新学期になれば一緒には居られないだろう……、が、何時ものように会えばいいだけだ。


「秀久?」

「悪い。さっさと行こうぜ」

「うんっ、何食べようかな~」

「「林檎はどうせリンゴパイだろ」」

「どうせってどういう意味!?秀久君まで酷いよ~!」


 反論しながら、林檎のように顔を赤くし頬を膨らます。

 林檎は、秀久や拓人も呆れるくらいのリンゴパイ好きだ。名前のせいではないのだろうが、飲食店にリンゴパイが無ければ、わざわざ近くのスーパー、コンビニから探して買う程。

 趣味でお菓子を作っている秀久は特に手を焼いており、林檎が遊びに来る時は必ず、材料を一式持って来る。お陰様で、秀久の得意スイーツがリンゴパイになる程だ。


「たまには苺ケーキ食べたらどう?」

「……、苺ケーキか。まあ、リンゴパイを死ぬ程作るよりかは」

「もー!秀久君!拓人君!」


 ぶんぶんと鞄を振り回し、二人に突撃して来る林檎。頭からはアニメで見る怒りマークが出ている。からかわれ役でもある林檎は口をへの字に曲げ、全く怖くすらない。

 してやったと、秀久と拓人は笑い声を上げながら、林檎から逃げ出し、林檎がそれに続く。

 玄関から出て来た三つの影が、追い掛けっこをしながら、ゆっくりと姿を消して行く。


『…………』


 外からだが、三人を見ていた小さな影が、地面から少しずつ姿を消して行く。それは、三人より小さく、だけど、影は濃い。

 すーっと、完全に消える前に、黒い影は、地面に刺さっているプラスチックカードに気づき、


白い肌がそれを拾い上げる。

 ――上狼秀久

 財布に入れたというより、挟んでいたプラスチックカードの学生証から砂を払い、影がかかる。


『……600/600』


 つまり最下位。

 名前の隣には、赤いバツ印が記入されており、その下に金色の文字でゲーム強制参加と彫られている。

 ゲーム……。

 小さく口を動かし、微かな声が誰も居ない夕焼け背景の空に上って行く。


『……やっと、見つけた』

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