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ステージ0

ということでようやくスタート!暖かい目で見守ってください……。

 落ち込ぼれ、劣等種。

 言い方は様々であり、意味はけして良く無く、けなしても見える。

望んだ訳では無い、ただ必然的にそうなるしか無かった運命だったのだろう。

環境、習慣、変化、様々な理由で劣等種へと落ちて行った者は沢山居る。

世界は広く、何時も理不尽かも知れない。

自分が思ったことが正しいとは限らない。

逆に自分が思ったことが間違っているとも限らないのと同じ。

 理不尽がこの世を回しているとしたら、理不尽だらけの人間で溢れているのかも知れない。

 己が己の為に私利私欲で動き、必ず其処には差が、順位が生じてしまう。

 強い者が勝ち。頭の良い者がエリートの切符を手にする。そんなのは当たり前だ。昔から変わらないことで、だからこそ社会は、国は、世界は常に競争している。

 故に、彼の生まれ持った素質も理不尽で通り、当たり前で通る。生まれた時から競争は始まっている。誰が決めた者でも無く、必然なのだ。


 例え、何の細工も圧力も無しに机に置いた鉛筆の芯が簡単に折れても、変わりのペンが同じ末路を辿っても、消しゴムで擦った紙が破けようとも、それがテストの答案用紙であろうとも、そのテストが進級試験であろうとも、受けていた科目が彼の得意分野だったとしても……。


「……」


 ――カミオイ ヒデヒサ 600/600


 試験が終わり、受け取った厚めのプラスチックカードを見て、もう黙るしか無かった。

 予想は出来ていたことだし、最後の得意科目で所持していた鉛筆やペンは全て駄目になってしまった。その時点で結果は既に見えていた。

見えてはいたが、どうしても納得が行かない。


「新学期早々成績最下位……か」


 ガクンと肩を落とし、教室から重たい足取りで出て行く。

 

 何て最悪な日だろう。

 

 今日の為に早めに学校へ向かったのに車に軽く跳ねられ、鞄から飛び出した筆記用具がダンプに潰され、コンビニで仕方なく購入したと思えば財布を何処にしまったか忘れ、後ろの列から非難の目を浴び……――。

 

 思い出しただけでどんよりとした表情に変わってしまい、大きなため息を吐いてしまう。

 

 『上狼秀久かみおい ひでひさ』は生まれ持っての天才だ。

 

 だが、けして頭では無く、不幸を意味する。『不憫』といつしか呼ばれるようになり、彼は一日必ず酷い目に合うという全く持って欲しくない才能を抱えている。


「……このままじゃ、マジでやばいよな」


 この、『時和大私立学園』には独自のルールが存在する。

 

 『強い者は高みへ、弱い者は消える』

 

 その方針に従って、進級した者達にとあるゲームへの参加が認められる事になっている。

一年という初心を終え、切磋琢磨するようにと本当に強い者を毎年選出しようとしているため、毎年多くの生徒が任意選択で参加をしている。

 本来ならば、面倒くさがり屋の秀久は参加はしないと決めていた。臆病などでは無く、ただ面倒なだけ、それだけだ。

 だから、今回の順位を決める進級試験はせめて中間に入っておきたかった。


『――上狼。解っていると思うが、今回の進級試験……、お前は最下位だ。弱い者は消えるという方針の通り、お前は既に退学の危険性がある』


 こんなの、仕方ないじゃねーか。

 試験官に言われた言葉に床を蹴るように爪先を打ちつける。

 退学の危険性……。それを止めるには、あのゲームに参加をしなければならない。強さを証明して高みに上る。やらなければ、無駄な進級、無駄な進学をしたに過ぎないのだから。


「あー、てか何であんな時に鉛筆折れるんだよったわたた…!」


 手元から試験結果がプリントされた紙と学生証が滑り落ちる。

 最悪な事に近くにあった自販機の下に消え、秀久は慌ててしゃがみ込む。

 手を伸ばしても届かない。彼の身長は中々で腕も長いが、奥に入り込んだ物は簡単には取り出せないのは誰も同じだ。


「嘘だろぉ……。く、この」


 手探りも意味無く、虚しく手が宙を空振るばかり。近くに棒のような物も都合良く置いてある筈無く、秀久は周りから哀れんだ視線を送られた。

 余計に悲しい。

 あー!もう!と苛立つように立ち上がり、自販機自体に手をかける。


「こうなりゃ、やけくそだ!」

「こら!何してる!」

「いってえー!?何すんだよ!」

 

 頭をさすり、目の前の男性を睨む。だが、教師であり、自分の前担任、大塚誠教諭(体育、現国教師)と分かった瞬間秀久の顔が青ざめて行く。

 だが待って欲しい。俺は、単に自販機の下に消えた学生証とプリントを取ろうとして居ただけだ。


「拳骨すんなら理由くらい聞いてからにして下さいよ」

「ほう、言ってみろ」

「では、こほん。聞いて驚くな!!何とこの下には俺の学生証が隠されているのだ!!どうだ!凄ごおぁああああ痛いいいい!?」

「お前の悲し自慢話は聞き飽きたぞ」

「いつつ……、何か間違ってたか?」


 ま、いいかと自販機を再び持ち上げようとし、誠に拳骨を再び貰う。涙に耐え、頭を何度も撫でる秀久を見下ろし、誠は頭を抱えながら秀久の学生証とプリントを渡す。

 あるぇ?

 どうしてとばかりに周りをキョロキョロと眺め、誠からため息が漏れる。


「……お前があまりにも自販機をガタガタと揺すっていたから、その風圧の拍子に出たんだろうな」

「なるほどな、学生証もプリント並みに軽いから……ってマジかよ……」

「……全く。上狼、今の調子じゃ勝ち残れないぞ」

「っ……」

 廊下を渡る音が少なくなって行く気がした。

 プリントを握りしめ、赤い瞳が地面を睨みつける。最下位……、そうだ、俺は今退学の危険性がある。だけど……、だからこそ俺でなきゃならない。


「はは、そうですよね~。こりゃふざけてる場合じゃねーや」

「冷静に考えるのはいいが、……後悔しない道を歩め、お前はただでさえ馬鹿だからな」

「心配したいのかけなしいたいのかどっちだよ!?」

「ふ、罵倒されたくないなら実力を磨け」

「言われなくても、分かってるぜ。見てろ、絶対ぎゃふんって言わせてやるよ!」

「失敗したら、個別授業を設けてやろう」


 ………………。


 いやぁ……。


「ちょっと、米粒くらい、期待して……下さい」


 誠の分厚い手が秀久をがっちりと掴んだ。

 サイズは秀久の顔がすっぽり消え、はみ出した長い指は秀久の頬、耳を押さえてしまう。

 表情さえ見えない秀久に分厚いアイアンクローが加えられた。


「いだだだだだだだだだだだ!!ギブ、無理、無理!何か変音してる!変な音からミシミシと、(ベキッ)くぁrgygjhんskfgぇsklじょうgtrtrrだtrwtjgh------!!」


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