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デパート内は普段以上に賑わっているように感じる。だからと言って特に気に留めるほどのことではない。今は丁度昼時、母と共にデパート内のレストランに入った。昼時の混雑した店内は騒がしく、落ち着かなかったが贅沢は言えない。春美はオムライスを、母はカルボナーラを注文した。
「ここのところずっと改装してたでしょ?だから新しいお店も増えたんですって」
それが客増加の原因らしい。新しい店が増えたという事は、元々あった店が無くなったという事だ。春美には特定の店へのこだわりなどがない。そのため困りはしない。が、何となく寂しいような気がした。
「ねえ、春美。この後映画観ない?」
うん、いいよ。と素直に頷く。母は上機嫌になる。何か観たいものでもあったのだろう。春美はそれを尋ねないまま、やっと来たオムライスを食べ始めた。母が観たいと思ったものを春美が観たいと思えるはずがないからだ。
学生である春美だけでなく、母も格安の料金でチケットを手に入れる事が出来た。本日はレディースディというやつらしい。その為、女性は半額の料金でチケットを購入出来る。成程、映画館の客のほとんどが女性だ。
「レディースディだから映画観たかったのよね」相変わらず上機嫌な母。
レディースディだからと言って春美は関係ないのだけれど、胸の辺りが少し引っかかる感じがした。
「面白かったわね」「そうだね。」
案の定、春美が進んで観たいと思える作品ではなかった。洋画のラブストーリー、何一つ興味を惹かれない。鑑賞中に何度も欠伸を噛み殺した。
「お茶でもしていく?」本心を言えば帰りたかった。が、笑顔で頷く。
母が選んだのはフードコートだった。いくつもの有名店舗が並んでいる。母にしては珍しいと思いつつ、座る場所を探す。
昼時が過ぎても混んでいるものだ。なかなか座る場所は見つからない。四人掛けテーブルを諦めて丸テーブルの方を探した。
何とか場所を確保した。母は春美にここで待つよう告げる。
「何か適当に買ってくるわね」春美はまた、頷くだけの返事をした。
母は右手に珈琲、左手にメロンソーダを持ちって春美の元へ戻ってきた。
「結構並んだの。遅くなっちゃってごめんね。……もう、こういう場所には来たくないわ」
よっこいせ、と声に出しながら椅子に座る。メロンソーダを細いストローで啜りながら、その様を眺める。この人も歳をとるのだな、などと思う。自由で、世界の全てを楽しんでいる人。いつでも少女のようだ。
けれど、その中に大人の威圧を隠し持っている人。
暫くの沈黙。外野の雑音、珈琲を吐息で冷ます音、ストローで啜る音。
先に二人の沈黙を破ったのは母であった。
「来週は何を貰えるのかしら」母らしからぬ大人びた微笑み。
春美には何の事やらさっぱりだった。けれど、すぐに答えは見つかる。何気なくスケジュール帳を開く、来週の木曜日にケーキのマークが記されている。ああ、来週は母の誕生日だ。
「まだ秘密だよ。」