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家に帰ると母が玄関で出迎えてくれた。

「遅かったわね」「ごめんなさい、友達と喋ってて」「あら、それなら仕方無いわね」

母は大きな唇で微笑んだ。鮮やかなピンク色がこの人は女性なのだと訴えているようだった。

「そうそう、すっごく良いものがあるのよ」

手を引かれ、リビングへと向かう。母が動く度に膝丈のピンクのスカートはふわりと舞う。花弁みたいで綺麗だと思う。

また腹痛が酷くなった。


「可愛いでしょう?春美に似合うと思って」

笑顔を浮かべる母の手を見る。ピンク色の爪と指輪、その手に握られているピンク色のワンピース。フリルのついたそれは、旬のカーネーションにも見えた。

散らしてしまいたい、そう伸ばした手は思う。けれど、春美の手は優しくワンピースを受け取った。またズキズキと痛みを増す。

「可愛いね。」「そうでしょう。そうだ、明日はこれを着てお出掛けしましょうよ」

春美は何か言うことも、頷くこともしなかった。ただただ明日の事を思っていた。


最寄駅を二つ跨いた場所に大きなデパートがある。春美も休日にはよく足を運ぶ。この休日も例外ではなかった。

ピンクの袖に腕を通す。花を型どった白ボタンで前をしめる。腰に届きそうな髪を一つに高い位置でまとめる。後からリボンの飾りを付けた。今はとても鏡を見たくない。怖いと感じた。

母の部屋を訪ねる。

ノックをした後に、着替え終ったよ、と告げる。軽い足音が聞こえ、ドアが開かれる。準備万端な母が現れる。紺色のスカートに白いカーディガンが印象的だ。その大人らしい落ち着いた色合いに少しほっとした。

「とってもよく似合ってるわ」「ありがとう。良かった。」「ほら、こっちに来て」

肩に手を添えて誘導される。手が触れた瞬間、ヒヤリと背筋が凍った。昨日の夢のせいだろうか。

母は三面鏡の前に春美を立たせる。

「ね、とっても可愛い」気分が良くない。

嫌だ。こんなの着たくなかった。こんな長い髪の毛だって嫌だ。でも、お母さんの為に−−−−。


「お人形さんみたい」


心臓を素手で握られたみたい。無理矢理動きを制されるみたいな感じがした。

その反動なのか、今度は激しく脈打つ。ドクドク、ドクドク、激しく。

「春美、どうしたの?顔色が悪いわよ」

心配そうな表情で、春美の額に手をあてる。

慌てて微笑む。大丈夫だよ、今日は多い日なだけだから。

「ほら、お母さん、早く出掛けようよ。」

愛想笑いで言う。そうね、と母も笑い返してくれた。


お人形さんみたいに可愛い、そう言いたかったのだと思う。春美もそうだと分かっていた。それでもまだ確信を持てないでいる、

本当は「お母さんのお人形さんみたい」なのでは、と。


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