第三章 部長&幽霊部員VS勇者&執事
屋敷の目の前で卍と朱音は向かい合っていた。
法とエンは屋敷内に戦場を移し、夏香もその後を追っていった。
「みんな薄情だねぇ、ロボ友達くんのこと心配じゃないのかな?」
卍の身体を斬った漆黒の魔剣を見せ付けるように掲げ、朱音が憐れむように言う
「心配などしていないんだろう。俺が勝つからな」
対して卍は静かに答えた。無表情だが、清々しいモノを感じる。
「数時間前にボロ負けしたの忘れたのね、もしかしてアタシのせいで頭壊れた?」
「そうだな、アンドロイドのクセに恐怖を感じているし、頭はイカれているのかもしれない」
「それはご愁傷様、なんなら今からパーツ交換してくる?」
「生憎予備パーツなどない。……。時間がない、そちらからこないならこっちから行くぞ」
卍は足元の石を拾い、朱音に向かって投げつけた。ただの投石だが、アンドロイドの腕力で投げられた石は風を切り、弾丸のように飛ぶ。
「アンドロイドのくせに原始人みたいな攻撃してこないでよ……っと」
半身になって石を避け、朱音が叫ぶ。外れた石は屋敷の壁をぶち抜き、穴を開けた。
「特殊兵装はロックがかけられていてな。腕を飛ばすこともできん」
石を拾い上げ、卍は次々と投げつけていく。朱音は重装備の魔剣を消し、走り出す。
「一発が即死レベルなんですけど! だが当たらなければ意味ないよん! よん! よん!」
妙なかけ声だが、朱音は蛇行しながら石を避け、駆け寄ってくる。
(線では駄目か、なら面だ)
手持ちの石を全て投げ切った後、卍は先程蹴り壊した門を片手で掴み、軽々と持ち上げた。
「うそーん」
朱音が呟いている間に、卍は手にした門を扇状に振るい、前方の空間を丸ごと薙ぎ払った。
だが、朱音は怖気づくことなく魔剣を両手で抜き放った。そして、自分の位置を中心に、迫る門を二つに斬り裂いた。斬り裂かれた門の半分が地面に落ち、地響きを鳴らす。
「いやー、びびったびびった。さすがロボ友達くん、パワーが規格外だ」
「全然びびってないだろ。法以上に食えないな、この殺人鬼」
ニコニコと笑い続ける朱音に、卍は舌打ちする。
「殺人鬼とは人聞きが悪い。何度も言うけど、アタシは英雄志望の勇者兼鍛冶屋だから」
「なら、この悪夢を止めればどうだ? 勇者らしいぞ」
「勇者を名乗るなら悪夢を止めなきゃ駄目だけど、アタシは英雄になりたいんだ。英雄は大量殺戮者の称号だから、むしろ殺してOKなのねん。もちろん、見境はつけるけど」
彼女は善の勇者ではなく、善悪の基準に当てはまらない英雄を望むと言う。
「屁理屈だ。言い訳にしか聞こえんし、都合が良過ぎる」
「女はそれぐらい好き勝手ってことだよ」
朱音が肩を竦めて言い返す。その言論を、卍は首を左右に振って否定する。
「お前の言葉は軽い、上っ面だけで在るべきはずのお前自身の心が見えない。まるで他人事だ」
答えず、朱音は片手平突きの構えで、飛び込んできた。右手を前に向かって突き出し、あらゆる物を切断する刃を卍の眉間に走らせる。
卍は左掌で突きを受け止めた。漆黒の刃は掌を貫通、肩口に突き刺さる。構わず卍は左手を伸ばし、魔剣ごと朱音の右手を掴む。同時に前進し、朱音の額向かって頭を突き出す。
痛みを感じないからこそできる荒技だ。
「知ってるよ、アタシの言葉に中身が無いのも、アタシ自身っていうのが見えにくいのも。だけどね、アタシは英雄になるために……まず自分を殺しちゃったんだよね」
朱音は身体を背後に反らすことで頭突きを避けた。卍は続けざまに膝で蹴りを放とうとする。
だが、朱音は反らした上半身をバネとして使い、突進力を得ながら、卍の胸に向かって左手を伸ばしてきた。
直後、卍の左手に突き刺さっていた魔剣が消える。そして、今まで朱音がそうしてきたように、手の中から魔剣を呼び出して柄を掴み、卍の胸に向かって片手平突きを放ってきた。
(早い! やられるッ!)
朱音の狙いは、突きからの横薙ぎで胴体を切り飛ばすことだろう。いくら痛みを感じないアンドロイドとはいえ、そこまでされれば動けなくなる。
電光石火の二連平突き、卍の攻撃が届く前に、朱音の突きが身体を貫く。
「セシアちゃんもそうだけど、君達人間より人間らしいよ。凄く、やり難くい」
朱音が毒づく。彼女の突きは、どういうわけか胸の中心から大きく外れた箇所を貫いていた。大きな隙が生まれる。
卍は左腕を朱音の背中に回す。そうして逃げられないように抱きしめ、切断された右腕の断面を、朱音の腹部に押し当てた。
「そう思うお前は、まだ自分を殺せてなんていないということだ!」
卍は腕の切断面、剥き出しになっている配線から朱音に向かって直接電気を流しこんだ。
闇夜に閃光が迸り、数瞬の明滅を起こした後に消えた。
朱音は衣服の一部を炭化させ、黒焦げになって背中から倒れた。同時に、卍も片膝をつく。
(両足を再起動。右腕はこれで使い物にならないな。左腕もいつまでもつか)
「かはっ……けほっ!」
卍が身体の状態を調べていると、朱音が咳き込んだ。加減したのだから、もちろん生きている。だが、魔剣は手から取り落としたままであり、四肢は広がったまま微動だにしない。
「……なんで殺さないのか聞いていい?」
立ち上がり、そのまま屋敷に向かおうとした卍を、朱音が呼び止める。
「セシアが悲しむと思った。あとお前、夏香と法に嘘を言ったことを謝ってない」
「ぶっ、何それ……キザっぽい」
朱音が噴き出し、卍は憮然とした表情で彼女を見下ろす。そして、気付く。
炭化したことで、破れた衣服の下には素肌が見えるのだが、左肘の部分がオカシイ。
肌が一部、紫色に変色していた。電撃によるものではない、まるで腐っているように見える。
「こっちも一つ聞きたい。どうして最後の一撃を外した?」
「外したくて外したわけじゃないんだけどね。本当は左利きなんだけど、見ての通り腐りかけてるでしょ? けど、普通に動くから今も使ったんだけど、今日は調子悪かったみたい」
気にしていないように朱音が言うが、卍は感じ取っていた。アレは死に至る毒だと。
何故そう感じたかはわからない。だが、卍は確信を持つ。
「ちなみに、これをやったのセシアちゃんね。凄いよぉ~セシアちゃんは、あの子を殺せれば、アタシは間違いなく英雄になれる」
「その腕について、セシアについて話を聞かせろ」
卍はどこか焦った口調で問いただした。なぜ焦っているかは、自分でもわからなかった。
★
法はエンとの戦場を屋敷の中に移していた。いや、法がエンを追い立てていると言うのが正しい。それも当然、法は銃でエンは刀だ。まともに相対することなど普通はできない。
だが、そこは腐っても怪物だ。暗闇にも関わらず、人間を遥かに超越した動体視力と身体能力で、銃から吐き出される弾丸を『視てから』かわし、法に肉薄してくる。
しかし、エンが近づくと、黒い粒子を撒き散らして法は消える。刀の間合いに入った瞬間、まるで瞬間移動したように、エンから離れた位置に出現して銃を撃つ。
ゆえに、エンは逃げに徹していた。とはいえ、ただ逃げているわけではないようだ。弾丸をかわしつつ、とある部屋の襖を体当たりで破き、中に入った。
エンの後を追って、法は中に入る。ざっと数えて、60以上の畳みが敷かれた和室だった。
窓から差し込む月明かりに照らされた部屋の奥で、エンが立っていた。右手に刀を、左手に鞘を持って法を待ち構えている。
「逃げるのはおしまいかい? そろそろお客様に出血大サービスする気になったかい?」
MP7のマガジンを交換しながら法は嗤う。だが、エンはニコヤカに答えた。
「執事はサービス業ではないので遠慮します。逃げるのをやめたのは、あなたの本当のフェイカーとしての力がわかってきたので、そろそろ害虫駆除を始めようかと」
「ほう? それは興味深い。だが、答えを出すまで生きていられるかな?」
法はMP7をエンに向け、引き金を引く。吐き出された弾丸に対して、エンはしゃがみ込み、襖を持ち上げて盾にしてきた。襖の中には何かが仕込まれているのか、銃弾は貫通せずに弾かれる。法はMP7を撃ち続けながら、M29を向け、引き金を引き絞る。
低い重音と共に弾丸が吐き出され、襖が貫かれた。
(……いない!)
襖に開いた穴の奥に、エンの姿は無い。その居場所を考えようとした瞬間、法の膝から切っ先が生えた。エンが縁の下から法の脚を踵から串刺しにしたようだ。
そのまま切っ先が動き、法の脚が開きになりかける。だが、法の姿が消え、刀だけが残る。
低いうめき声と共に、法は部屋の窓際の壁に、背中から激突する形で姿を現す。
「どうやらあなたのフェイカーとしての力は、発動までに数瞬のタイムラグがあるようですね。それに常時発動する形ではない、いえ、負担が大きく常時発動できないのかもしれません」
襖を退かし、姿を現しながらエンが言う。壁に背中を預け、法は睨み返す。
「さてな、こちらから手品の種を明かす気はないぞ」
傷口からは血が流れ、足元に小さな血だまりを生みだしている。
「いえ、答えは出ています。あなたが世界についた嘘は、もうばれています」
「それはどうかな、答えを知るのと理解をするのは、また違うぞ」
近づくエンに法は言い、姿を消した。
「駄目だ先輩! 足跡が見えてる!」
ようやく二人に追い付いた夏香が部屋の入り口から叫ぶのと、エンが後ろに振り向き、刀を投擲するのは同時だった。エンの刀は、背後に現れた法の脇腹に突き刺さり、そのまま吹き飛ばして壁に縫いつけた。法も現れた瞬間に弾丸を放ったが、エンは鞘を盾にして弾いた。
脇腹に刺し込まれた刃の痛みに、意識が飛びかけるが、法は気合で踏み止まる。
「ぐッ! うッ! ああああああああああッ!」
法は銃を手放し、叫び声を上げながら、両手で刀を引き抜く。ローブに赤黒い染みが広がる。
「あなたのフェイカーとしての能力は、やはり高速移動のようですね」
エンがひび割れた鞘を捨て、部屋の壁に飾ってある刀を手に、法の能力を口にする。
引き抜いた刀を投げ捨て、壁に背中を預けたまま、法はずるずる座り込む。壁には、べったりと血の跡が残り、床にも血だまりがじんわりと広がっていく。
(足跡か……それは……盲点だったな)
視界が低くなって、ようやく法は気付く。部屋の中には、血で濡れた赤い足跡が無数にあった。それは法が消えて移動したのではく、一瞬で移動したということを示している。
だから、エンには法が移動する場所がわかったのだ。姿が視えずとも、移動した地面には血の跡ができている。それをヒントに、エンは法がどこに移動したかを計算したのだ。
「欠陥能力のようですね。高速で移動はできますが、それに身体が対応していない」
(正解だよ。もう脚に力が入らないし……視界がぐらつく)
人の身体で高速移動した代償に加え、今の一撃で法は身動きが取れなくなっていた。
「攻撃が当たったのはほとんど運ですけど。もう逃げられないですよね」
立ち上がる力が無いことを悟り、エンが近づいてくる。トドメを刺す気だろう。
「先輩!」
「来るな! そこにいろ! それは君がやるべきことじゃない!」
飛び出そうとした夏香に、法は口の端から血を流しながら命令する。
「お嬢様が大変お世話になりました。それでは、さようなら」
眼の前に立ったエンが刀を振り下ろす。法は嗤って迫る刃を見詰めた。
「君の考察は正解だ。だが、何も加速するのは私だけではないぞ」
刀が届く間際、法は驚くべき速度でローブの下からデリンジャーを抜き、エンに銃口を向け、引き金を引いた。瞬間、大砲にも似た爆音が轟いた。
デリンジャーと呼ばれる銃は銃身が短く、飛距離もないため、相手に押し付ける形で使う小型拳銃だ。利点と言えば構造がシンプルなゆえに、故障が少ない程度だろう。
だが、そのデリンジャーから発射された弾丸は、黒い粒子を纏い、振り下ろされた刀を真っ二つに折り、威力を保ったまま弾道を反らさず、エンの右腕を肩から吹き飛ばした。それでも、なお威力が減衰しなかった弾丸は、天井の一部に大穴を開け、夜空に消えていった。
法の力は『自分』ではなく『対象』を加速させる能力だった。それを受けた結果、デリンジャーの弾丸は通常ではあり得ない飛距離と火力を叩きだした。
銃身が短いため、中で爆発する恐れがなく、反動で故障することも少ないデリンジャーだからこそ撃てる法の切り札だ。
「成程、対象は自分だけではなかったみたいですね」
刀が折れ、片腕を吹き飛ばされても、エンは平然とした表情で、法に向かって蹴りを放つ。人間とは根底から異なる彼らは、片腕を吹き飛ばしただけでは怯まない。
怪物の力で放たれる蹴りだ。直撃を受ければ、無事では済まない。
反撃しようにも、デリンジャーの弾は一発限りだ。なおかつ、撃った時の反動で腕が痺れたのか、法は銃を落としている。
「残念だが、今回の私の切り札はこっちだよ」
法はポケットから小瓶を取り出した。瓶のラベルにはこう書かれていた。『ファイト一発快便丸』と。それを手の平に乗せ、瓶の口をエンに向けて、法は唱える。
「※※※」
言葉は加速され、ほとんど何を言ったか聞きとれなかった。だが、確かに起動の言葉は吐かれる。直後、エンの姿が光となって霧散し、瓶の中に吸い込まれた。
「大人一人は無理だが、腕を吹き飛ばして小さくすれば大丈夫だったな」
法が呟き、壁に全身を預けて力を抜こうとした瞬間、そのか細い首が鷲掴みにされた。
「なッ、ぐッ!」
瓶の口から手が生え、法の首を絞めていた。腕が纏った執事服から、エンの手だということがわかる。どうやら瓶の中に封じ込めるには、片腕を削るだけでは足りなかったようだ。
人並み外れた怪力は、法を窒息死させる前に首をへし折る勢いを持っていた。
(ま……ずい)
抵抗しようとするが、出血に加え、酸素の欠乏により法の意識は遠のく。首の骨が異音を上げ、限界を告げてくる。
「うわああああああああああああッ!」
意識が強制的にシャットダウンされる間際、叫び声が法の耳に届いた。
驚いて眼を開ければ、夏香が折れた刀の先端部分を握り締め、瓶の口から出ていた肩の関節に突き刺していた。腕がビクリと震え、首の拘束が僅かに緩むが、離れる気配はない。
「しつこい!」
夏香は腕を畳みに縫いつけ、先程法の脇腹に刺さっていた刀を拾い上げる。そして、腕に向かって振り下ろす。だが、剣術の知識が無い夏香に両断はできず、引き斬る形で腕を落とした。
両腕が無くなったことで、ようやく瓶に納まるサイズになったのか、自動で瓶の口に栓が施され、ピクリとも動かなくなった。
「君……なんて無茶を」
首を掴んでいた腕を剥がし、法は心底驚いた表情で眼の前に座り込んだ夏香を視る。
「いったあああああああああああッ! 超痛い! これよく先輩我慢できますね!」
対して、夏香は右手を抑えて叫んでいた。素手で刃を握り締めた結果、手の平が斬れて血が出ている。ギャーギャー喚く夏香に、法は痛みを忘れて笑ってしまう。
「本当に、自分にしかできないことを見付けたな。ああ、未来なんてわかったものじゃない」
心底可笑しくて、また嬉しくて法は笑い、夏香の右手を取る。
「礼を言うよ。君には助けられたし、驚かされた」
夏香の手の平にできた傷を、法は唇でなぞった。
「ちょ! なにしてるんですか先輩!」
その行動にギョッとしたのか、夏香が喚くのを止めた。
「私が世界についた嘘……フェイカーとしての能力は、対象の時を加速させること。対象に能力を付加させる条件は『血液を付着させる』ことだ。唇なのは、ただの気分さ」
いたずらっぽく笑った法の身体から、黒い粒子が舞う。
天井に開いた穴から差し込む月光の下で、黒き光が舞う。その様子を、夏香が呆けた表情でずっと見ていた。
「傷の時を加速させた。完全治癒とまではいかないが、塞ぐことぐらいはできただろう」
黒い粒子が消えた後、法は立ち上がった。身体の傷は完全に塞がっている。
「いや、あの、先輩……ちょっとだけしか血が止まらないんですけど」
法に向かって。夏香が右手を差し出す。右手からは、血が流れ続けていた。法は眼を剥く。
「君、本当にただの人間だろうな?」
夏香の前にしゃがみ込み、顔を近づけて脅すように確認する。通常ではあり得ない現象だ。
魔眼を光らせ、法は夏香の全身を確認する。そして、気付いた。
「ん? ポケットの中に入っているモノはなんだ?」
法が言うと、夏香が制服のポケットを漁る。すると、その手に銀のロケットペンダントが握られた。プリクラ程度の写真が入る大きさだ。
「アレ? これ確かセシアと初めて出会った時に拾って、セシアに返そうと思ったのに、どうして僕はまだ持ってるんだ?」
不思議そうに夏香が首を傾げている。そのペンダントからよからぬモノを感じ、法は取り上げようと手を伸ばす。だが、夏香が手を掲げて拒んだ。
「アレ? 身体が勝手に!?」
しかし、それは本人の意図した行動ではないらしい。
「成程、ツヴァイト家の令嬢の持ちモノならあり得るか。君、それ呪われたアイテムだぞ」
法は呆れたように言い、夏香の首に手を回し、引き寄せてから逃げられないようにする。それから腕を掴み、ハンカチを使ってペンダントを奪い取った。
「効果は身に付けた者が受ける異能の力を、僅かに無効化するのに加え、手放さないようにする呪いと言ったところか。成程、忘却や幻覚が効かなかったのは、これを持っていたせいか」
魔眼でペンダントに込められた力を見破り、法は納得したように呟く。
「……呪いのアイテムって実在するんですね」
法から解放された夏香が、凄く嫌そうな顔で言った。
「しかも、これはさっきの瓶と違ってレアモノだな。魔女の『魔法』がかけられている。ツヴァイト家は遥か昔、魔女と交流を持っていたらしいし。その時に預かったモノだろう」
魔女は絶滅したが、その持ちモノは残っている。
「私の嘘とは違う本物の魔法だよ。だが、どうしてセシアはこれを持っていたんだ?」
「持っているとまずいんですか?」
「私達のような異形にとっては、身につけているだけで枷になる呪いのアイテムだ。よくこれを身に付けたままセシアは動けるな。ギプスとか、そういうレベルではないぞ」
法は瓶を拾い、ペンダントを包んだハンカチと共に、ローブのポケットに入れて立ち上がる。
「ひとまずセシアの後を追う。ッ! ……すまないが、肩を貸してくれ」
「はい、行きましょう先輩」
法は再び立つがふらついてしまい、夏香の肩を貸りながら、移動を開始した。




