きっと答えてなんかあげられないから。
「愛してる。」
その言葉が嘘だとは言わないし、思ってもいない。
ただ君がわたしの愛するものの範囲に入っていなかっただけ、それだけ。
ねぇわたしは、君のその思いに答えてあげることはできないよ。
友人が死体しか愛せないように、わたしも人形しか愛せないんだから。
「離して、離れて。早くここから出しなさい。」
「ダメ。だってねぇ真鳴、真鳴?外に出たら、真鳴はどこかに行っちゃうもの。
私じゃない人と話して、私じゃない人を視界に入れて・・・ねぇ私、そんなの耐えられないもの。」
真鳴は私だけのもの。なんて、その独占欲はどうかしたほうがいいと思うよ。
将来こいつの奥さんとか大変そうだ・・・このままだとわたしがこいつの奥さんになりそうで嫌だな。
とりあえず、今だ後ろから抱きしめてくる彼女をどうやって引き剥がそうか。
「伊織、」
「・・・なぁに?」
名前を呼ばれるだけでそんなに嬉しいか。甘ったるい声で返事をくれた。
「わたしは愛してあげられないよ。」
「・・・。」
「わたしは人形が好きだって、愛してるって言ってるよね。もうずいぶん前から。
伊織の思いに気がついてないわけじゃなかった。わたしは人形しか愛せないよ。わたしは、」
「真鳴。」
ふわり、そんな効果音でも付きそうな笑みだった。
「知ってる、全部知ってるよ。でもね?真鳴」
そこで区切って、くるりと正面を向かされた。
頬に手を当てられて、顔を上げさせられる。
整いすぎた顔に、綺麗すぎる・・・どこか歪な笑顔が貼り付けられていた。
彼女が首をかしげると、腰まである黒い髪がさらりと揺れた。
「私は真鳴しか愛せないよ。真鳴が人形しか愛せないみたいに、私は真鳴しか愛せない。
ねぇ真鳴、真鳴、大好き・・・愛してる。ずっと一緒。外になんか行かないでね?」
なんで、なんてただの愚問でしかない。
どうやったって逃げられなんかできなかったんだろう。
愛してる?馬鹿じゃないか。
彼女のそれは、ただの依存と執着じゃないか。
「ずーっと一緒。ねぇ?真鳴。」
抱きしめて、彼女は花が綻ぶように笑った。