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WORLD ANCHOR  作者: 犬吉
2/3

一人だけの異世界

神様(?)によって世界そのものが転生してしまった中、その安定のために単一存在となった須藤佑樹。


自分だけがとても近く、そして遠い異世界での日々が始まる。

 数日後。なんだかんだで無事に退院した佑樹は、ちょうど日曜日であったこともあり、外に出ていた。

 自転車を漕いで海の方を目指す。釣りの趣味はないし、この季節は泳ぐには海は冷たい。だが、潮風は気持ちいいものだ。

 空は見事に晴天である。佑樹はペダルを漕ぐ足に力を籠めた。車輪は景気よく回り、ギアは軽快な音を鳴らす。日常としてひどく慣れた感覚である。

 これだけを見て、ここが今や日常の皮を被った異世界であるなどと誰が思うだろうか。

「いや、それは俺だけか」

 そう。この世界が異世界と感じているのは彼だけである。かくいう彼自身、こうしているとついそれを忘れそうになってしまう。


 神様的存在によって、世界は転生させられた。平行世界全ての彼は今の〈須藤佑樹〉という存在に統一され、彼が死ぬと世界が滅びるという。

 転生された世界には魔法があり、そして人類は宇宙進出している。

 今は、彼が生きていた暦より100年過ぎた2212年。これは歴史修正の結果、つじつまを合わせる為にずれ込んだ結果であると佑樹は【WORLD ATTENDANT】から聞いた。

 そして、佑樹は彼の知る科学レベルを何歩も超えた世界にカルチャーショックを受けまくった。

 まずはテレビだ。まさかペラッペラなシートがモニターになっているのは驚いた。しかも映りが超綺麗なのだ。彼の記憶では、一部の看板などで実験的に使っている程度の物だった筈だが、こっちでは一般的な物らしい。

 それどころか、空間投影式モニターも実用化されていて、主に公共施設や町の看板なんかに使われている。彼も入院時に実物を見た。余りの衝撃に軽く一時間ぐらいその場に立ち尽くしていた程だ。

 車も変わっている。ガソリン車は殆ど無く、もっぱら電気自動車。町にあるのはエレキスタンド。ガススタンドも一応あるが、全てエレキスタンドと併設だ。それ以外にも、水を電離して酸素と水素に分けてそれを燃焼させる車もある。ただしこれは高級品。

 環境には素晴らしく良いものであるが、そもそも佑樹は無免許なので一先ずは置いておく。

 町を行く彼の目には、そういった〈彼の記憶〉からはフィクションとしか思えない物がゴロゴロしているわけだ。

 とはいえ、変わっていない物もある。例えば自販機だ。コーラやサイダーなど、身近だったものを見る度に「こういうものは永遠なんだなぁ」と感心してしまう。

 マクドもあればスタバだってちゃんとある。超科学にさえ目を潰れば、日常はまだ彼の知る日常だ。何時かは慣れるだろう。


 だが、このブックバンドに収まった本【WORLD ATTENDANT】=神様的存在(面倒くさいので佑樹は”ナビ子”と命名した)によれば、〈須藤佑樹〉は、このSF的世界にもいたらしい。

「そもそも、SFな世界の俺がいたなら、何でそいつを使わなかったんだ」

「バランスを取るには中庸の性質がないと行けないんだけど……魔法側の佑樹あなたは、科学側に対して疎い面があるし、逆に科学側の佑樹あなたは魔法に対して修正し切れない先入観がある。どっちにしても片方に傾倒し過ぎる嫌いがあるわけですよ」

「中庸ねぇ……。俺だって結構、先入観あったと思うけどな? そもそも、中庸ってどんな意味だっけか? 確かバランスが取れている……だったか? 俺はそんなつもりないけどなぁ」

 ともかく、彼は自転車を走らせ続ける。目的地は天にまで伸びる軌道エレベーターだ。

 とはいえ、そこの中に入るどころか、一定の範囲内に入るのにも許可がいるので、出来るだけ近くで見てみようという事だ。

 軌道エレベーターはいうなれば宇宙人相手の〈出島〉である。

 外宇宙から来た存在は、基本的に地球に降りることが出来ない。その星に降りるにはきちんとした手続きや、滞在日程などを提出して、許可を得る必要がある。そして更に、居場所を知らせる為のGPSを常時所持する必要がある。

 そうやって厳しく規制するのも、問題を起こさないようにするためであり、宇宙星間交流条約というものでも認められている。今時の小学生の教科書にさえ載っているほどに有名な話であると知った佑樹は顔をしかめた。。

 変わりに変わった世界や歴史をナビ子による説明や、こちらもすっかり様子の変わってしまった教科書(電子版)を見て、勉強していても、そのギャップは如何ともし難い。

 そもそも彼の知る歴史とはかけ離れているのだ。むしろその程度で済んでいる方が凄いとも言えるだろう。

「まぁ、人間諦めが肝心。いずれ慣れるでしょうから、それまでの辛抱よ」

「人間でない存在に言われるとは……まことに遺憾だ」

 などとボヤきつつ、佑樹は海岸近くの駐輪場に自転車を止めた。ここに来たのは彼の意思ではない。ナビ子が今日、ここに来るようにと言ったからだ。

 俺としても、もっと近くであの軌道エレベーターを見たかったというのもあって、特に文句もなく来たのだが……。

 ザザーン。と、寄せては返す白波と、潮の香りを多分に含んだ風。そしてその向こうにそびえる軌道エレベーター。風が冷たいせいか、海岸に彼以外の人影はない。

 佑樹は何となしに砂浜を歩く。サクサクという足の感触が心地いい。

「それにしても………ここに何があるんだ?」

「まぁ、もうすぐ分かるから。暫しお待ちを」

「……?」

 いまいち要領を得ないナビ子の言葉を訝しみながらも、とりあえずは待つことにする。

「……そういえば、魔法って使ったこと無いな」

 彼はふとその事を思い出し、ズボンのポケットから端末を取り出した。

 この世界の魔法は科学の結晶で、指輪や腕時計などを介して発動させる。佑樹の物は右手中指に嵌めている指輪だ。


 これらは〈媒体〉と呼ばれるものは、一般向けに実用化されている量子コンピューターデバイスであり、これによって魔法が発動するので、俗にいう魔力というものは一切必要がない。

 では、魔法とは際限なしに使えるものなのかというと、実はそうでもない。魔力を必要としない代わりに、プログラム使用制限と使用反動というものがある。

 使用反動とは、魔法を使った際に肉体にかかる反動。つまり、強い魔法を使えばそれだけ反動も大きくなるという事だ。

 そして、その反動に耐えられないと肉体に深刻なダメージを食らったりする。使用制限はそれを防いでくれる命綱リミッターなのだ。

 使用制限は1~7の段階で振り分けられ、1は一番低い。そして佑樹のレベルは1。使える魔法も大したものはない。こういった情報はきちんと国で管理され、端末で情報をチェックできる。。

 端末に記録されている魔法は物を引き寄せる〈インプル〉というものだ。

「えっと……こうして、と」

 物は試しと、佑樹は〈媒体〉である指輪を砂浜に落ちている空き缶に向けた。

「〈インプル〉!」

 そう叫んだ瞬間、指輪が「キンッ」と甲高い音を鳴らし、次の瞬間には、空き缶が彼の手に向かって飛んできていた。

「うおっと!」

 勢い良く飛んできた空き缶が、パチーンという音をさせて俺の手に収まる。砂にまみれた缶のジャリジャリとした手触りは余りよろしくない。

「それにしても……これって魔法か?」

 佑樹は空き缶をくず箱に放り込みつつ、ふと思った。魔法と聞けば誰もが火を出したり、光を出したり、空を飛んだりするものだと想像するだろう。

 実際、そういう魔法も在ることは在る。だが、そういった魔法は一番低くてもレベル3ぐらいからだ。

「ふぅ……何か軽く疲れが」

「魔法反動ね。一日に使えるのは五回まで。あと四回で打ち止めだからね」

「どんだけショボイんだよ。魔法のレベルはいいよ、この際。レベル1を5回で限界って何? もやしっ子ですか、俺は?」

「大丈夫。頑張ればレベル2ぐらいまでは……!」

「喧しいわ」

 べちん。と、八つ当たり気味にナビ子を叩く。

「うぅ~、乙女を叩くとか最低よ?」

「やかましい。誰が乙女だ、このオカルトブックめ。それより、ここで何が起こるんだ?」

「むぅ~。そろそろ起こると思うだけど………あっ! あそこを見て!!」

 と言ってナビ子が海の方を指差した。(指なんて無いけど)

「………な、なんだ?」

 佑樹がそっちを見ると、海の上の空間がバチバチと音を鳴らしてスパークしている。最初は見間違いかと思われたそれは。段々と激しくなり、その周囲が歪んでいるように見える。佑樹は嫌な予感を覚え、少しずつ後ろに下がっていく。

「おい……何が起こるんだ?」

「見ていれば分かりますよ。あ、もっと下がった方がいいです。そこだと確実に当たるんで」

「何が当たるんだよ!? ていうか何が起こるか言えよ!!」

「いいから、もっと離れて!」

 言われるまでもなく、佑樹はさっさと逃げたかった。

 だがその思いに反して、足は砂浜に縫い付けられたように動かない。そうこうしている内に空間の異変はいよいよ最悪の状態になっていた。


 ピシピシッ。


 空間に亀裂が入る。そう、入る筈なんて無いのにだ。そして………ついに起こった。


 ――バキィイイイイイイン!!

 

 空間が砕ける。その向こう側は禍々しいマーブル模様で、まるで世界を呑み込んでしまうかのようだ。

「あ……あぁ……!」

「来ます! 来ますよ!!」

 ナビ子が耳元で叫ぶ。だが、そんな事どうでも良い。彼の目はその異常事態に釘付けだった。

 何だ。一体何が起こるんだと、佑樹が注視する中――ついにそれは現れた(・・・・・・)


 ドォオオオオオオオオン!!


 飛び出してくる流線型の何か。それはド派手に海面をぶっ叩き、バウンドする。そして水切りのように何度も海面を跳ねながら、佑樹目掛けて真っ直ぐに向かってくる。

「ヤバイってば! 早く逃げて!!」

「に、逃げてって……! 駄目だ! 足が……動かない!! うわぁあああああああああああああっ!」

 派手に上がる波。佑樹の身の丈を遥かに超えるそれは、まるで津波だ。佑樹は咄嗟に身を守ろうと両腕でブロックしていた。

「っ……!」

 波がぶつかる。だが、全身を襲う衝撃は彼をあっさりと砂浜に叩きつけた。そして彼を押し流してからゆっくりと引いていく。

 佑樹は弄ばれた後、砂浜に押し倒された。そして気が付けば、呆然と空を見上げている状態だった。

「だ、大丈夫!?」

「あぁ……何とか」

 ナビ子が上から降ってくる。寸前まで隣に居た筈のナビ子であったが、しかし一切濡れてない。

「……ナビ子。お前、一人で逃げただろ?」

「だって塩水になんて浸かりたくないし」

 ナビ子はしれっと言った。どうやら言い訳する気もないらしい。

「それより、あれを見て下さい」

「あれ……ってそうだ! あれは!?」

 佑樹に直撃するコースで突っ込んできたそれだったが、寸前で方向転換した。その余波でデカイ波が起こり、佑樹はそれに巻き込まれたのだ。

 偶然か、それとも意図的かは分からない。だけど、そのお陰で彼は助かったんだ。

 佑樹はそれが曲がったであろう方を向いた。

「……消波ブロックに突っ込んだのか?」

 果たしてそこには、消波ブロックに乗り揚げて止まったそれがあった。機体からは細い白煙が上っている。

 それは前面は流線型をして、しかし後ろは直線的。円を半分に切った形に似ている。両端には翼が付いていて、後方にはスラスターノズルみたいな穴があって、SF映画の飛行機的な印象を受ける。

「一人乗りの脱出艇ね。さ、あれのコクピットを開けましょう」

「うぇっ!? せっかく助かったのに!?」

「いいから助けるの!」

「イテッ! 角でぶつかってくるな! ……これ、絶対に厄介事だろ。俺が死んだら世界が消滅するとか言っといて、どうして厄介事に関わらせようとするんだ?」

「それも後で説明するから。今は早く行って!」

「………」

佑樹は訝しみながらも、これ以上角でぶつかってこられては堪らないと、渋々脱出艇の方へと向かった。

「……さて。これ、どうやって開ければ良いんだ?」

 近付いてみたは良いが、何処にもそれっぽい物がない。佑樹はキョロキョロと見回してみるが、やはり無い。

「えっと……あ、ここじゃない?」

「うん?」

 ナビ子が示した場所を見てみると、そこだけ他のタイルと違って小さくなっている。適当に触ってみると、ガシャンと音を立てて開いた。

 そこには円型をした、レバーの付いたハンドルがあった。どうやらこれを回せば開くようだ。

「んっ……! あれ、動かないぞ? 何で?」

 早速回してみようとした佑樹だったが、しかしハンドルはビクともしない。ぶつかった衝撃で歪んだのか。それとも、別に何かしないといけないのか。何度やってみても、やはりビクともしない。

「……ダメだ。何度やっても全然動かない」

「ふふふ……お困りのようね!」

「あ、居たのか?」

「まさかの存在忘却ですと!? ……って、せっかくこういう時に役立つ事を教えてあげようというのに……教えてあげないわよ?」

「全然開かないな。……じゃ、帰るか」

「ちょっと待ってってば!?」

「なんだよ。開かないんだから帰って良いだろ? これ以上、どうしろって言うんだ?」

「だ~か~ら~! こういう時のために、凄い〈力〉があるの!!」

「凄い……〈力〉?」

「そう。須藤佑樹、あなたには特別な力がある。この世界で目覚めた時、そう言ったでしょ?」


『大丈夫。君にはこの世界で生き残るために、凄い力が与えられているから。それを使いこなせば何も怖くないわ。』


「そういえば……そんな事を言っていたっけ。あの時は色々と驚き過ぎてて殆ど聞いていなかったからな。それで……どんな力なんだ?」

「能力名は〈リライト〉。この世界のあらゆるモノに〈事象を書き込む能力〉」

「〈リライト〉……。事象を書き込むって、どうやるんだ?」

「まずは書き込む対象に意識を向ける」

「意識を……向ける」

 佑樹はハンドルに意識を向ける。ザワリ。と、何かが内側で動くような感覚が起こった。

「そうしたら、書き込む事象を『言葉』でイメージ。ここでは〈ハンドルが簡単に回る〉ってところかな?」

「ハンドルが回る……ハンドルが回る……と」

 脳内で言葉が流れる。それがそのまま、彼の手に集まっていくような感じがした。

(凄い……。喩えるなら、圧倒的な万能感ってところか)

 世界を自由にする力が、出口を求めて渦巻いている。そしていよいよ、それを解き放つ最後の言葉を紡ぐ。

「そして……〈刻み付ける〉!」

「――〈リライト〉!」

 佑樹がそれを開放する為のトリガーを引いたその瞬間、世界が書き換わった(・・・・・・・・・)

「………」

 ゴクリ。固唾を呑み込んでから、佑樹はもう一度ハンドルを掴んだ。グッと力を入れると、あれほどに固かったハンドルは、まるでユルユルのネジのようにあっさりと回った。

「これが俺の……〈リライト〉の力か」

「そう。貴方に与えられた、三つの力の内の一つよ」

「……!? 三つって……こんな力がまだ二つもあるのか!?」

「当然。世界の運命を背負ってるんだから、それぐらいないと、どうにもならないのよ」

「……こんなのがあと二つも。一体、どんな力だってんだ?」

 佑樹はマジマジと自分の手を見た。じんわりと浮かぶ汗。凄い力を目の当たりにした興奮と、身の丈を遥かに超えた力を持ってしまった事に対する恐怖とがごちゃ混ぜになって、佑樹の心臓がドキンドキンと跳ねる。

「残る二つもすぐに分かると思うわ。それよりも今はその人を」

「お、おう……」

 内心の動揺を深い息を吐いて押さえ込むと、改めて脱出艇を見た。

 ハンドルを回したからだろう、前方の一部が開いていく。そして、そこに収まっていたシートが上がってきた。

「ッ……!?」

 佑樹は息を呑んだ。そこには彼と同じ年頃だろう、一人の女の子がいた。

 宝石のように煌めく長い髪。閉じられた長いまつ毛は艶めいている。

 着ている服もドレスっぽい異民装束。光に反射して虹色に艶めいている。付けてる装飾品も細かい細工が施されており、とても高価そうだ。

 少なくとも、ここまで”この世のものとは思えない”という言葉が合う存在を、佑樹は見たことがなかった。

「その人はここじゃない、別の星の人よ。佑樹。早く介抱してあげて」

「あ、あぁ……そうだな」

 佑樹は体を固定しているベルトを外し、体を慎重に持ち上げる。

(うわ……すげぇ細い。それに軽い。いやいや、集中しろ。慎重に。慎重に……よし、何とか……)

 脱出艇の上に彼女の体を上げて、怪我がないか取り敢えず体を見てみる。出血は見たら無いが、頭が少し赤い。どうやら激突のショックで打ったよううだ。気絶しているのはこれが原因のようだ。

「おい、しっかりしろ。生きてるよな?」

「………っ……」

 声を掛けて頬を軽く叩くと、反応があった。そうして少しすると、うっすらと瞳が開かれていく。

 瞼の下には、凄く綺麗なエメラルドが隠されていた。その中にぼんやりと佑樹を映しながら、彼女は数度の瞬きした。

「§♯✕……∂÷∞≒⊥Å∃✠?」

「…………え? な、何だ今の? 言葉……なのか?

「§♯✕……∞≒⊥Å………?」

 佑樹は突然の記号のような言葉に目を白黒させ、向こうも首にしたチョーカーの辺りを触りながら首を傾げている。

「どうやら翻訳機が故障しているみたいね。早速、二つ目の能力の出番が来たわ」

「二つ目の能力? どんな力なんだ?」

「能力名は〈リメイク〉。この世界のあらゆる物を修復することの出来る力よ。さ、彼女のチョーカーに触れて。直接触れてないと発動できないから」

「分かった」

 チョーカーが翻訳機なのか。言葉が通じないんじゃ、話にならないからな。

「えっと……ちょっといい?」

「っ……!?」

 佑樹が恐る恐る手を伸ばすと身を捩られた。言葉が通じないのでは何をしようとしているのかも分からないのだから、この反応も当然のことだ。

 とはいえ、このままではどうにもならないのも事実。どうしたものかと佑樹は頭を悩ませた。

 と、いきなりナビ子が彼女の前に割って出てきた。

「大丈夫だから、そのまま動かないでね」

「………」

 ナビ子が言うと、彼女は少し戸惑うような顔をして――そして頷いた。「言葉が通じたのか?」

「ふふん。【WORLD ATTENDANT】の名は伊達でないのよ。異世界間の隔たりなんて、私にとっては無いも同じなんだから」

「………じゃ、行くぞ」

 どうにも釈然としないが、今は後回しだ。佑樹は〈リライト〉と同じ力の使い方をイメージした。そしてチョーカー型の翻訳機に触れる。そして、さっきと同じように意識を向ける。すると、指先とチョーカーが繋がるような感覚がした。

(確かに……壊れてるのが分かる。何処がどうという事じゃなくて……まるでピースの欠けたパズルを見ている様な感じだ。これを埋めてやれば良いんだな)

「行くぞ……〈リメイク〉!」

 力を発動させる。すると、穴空きだったパズルが埋まっていくビジョンが見えた。全ての穴が埋まり、それは一つの存在へと変わる。それを見届けて、佑樹は指を離した。

「えっと……言葉は分かる?」

「っ……! は、はい……分かります! でも、どうして? 翻訳機は壊れていたのに……?」

「まぁ、細かいことは気にしないで。それよりも……お客様よ」

「は? お客様……?」

「っ……! まさか……追手がもう!?」

「追手!? 追手ってなんだよ!?」

 物騒な言葉に戸惑う佑樹だったが、事態はそれを理解するまでの時間をくれないらしい。

 バチバチという音が複数、脱出艇を包囲するかのように砂浜に響く。その音はさっきよりも小さいが、しかし複数起こっている。

 今度は何が起こるのか。注視する中でいよいよ、それが姿を見せた。


 バリバリバリ――ッ!


「な、何だこいつらは……!?」

 派手な音を立てて現れたのは、両手にデカイ鉤爪が付いた――鎧を着た仮面の兵士だった。ガシャリと具足を鳴らしながら佑樹達に近付いてくる。

「グールポーン! やはり追手――っ!?」

「おい、しっかりしろ!」

 いきなり立ち上がった異星人少女は、しかしすぐに膝を折った。顔色が悪い。墜落の衝撃でまだ体がおかしくなっているようだ。

 佑樹は少女の腕を掴んで自分の首に回す。強引に引き上げるが、やはり足元が覚束ない。

「何だか知らんが早く立てって! ナビ子、どっちに逃げれば良い!?」

「待って佑樹! ダメッ!!」

 ナビ子が慌てて静止するが、佑樹は構わず消波ブロックの方へと歩き出した―――その時だった。


 ――ガシャン!!


「っ……!?」

 突然目の前に降りてきた影。それは手中の凶刃をギラつかせる。驚きと恐怖に身を強張らせ、目を見開く佑樹に向かって、容赦なく振り下ろしてきた。

 ざくん。という音がした。そして強い圧力が首にかかる。逆らおうにも力の方が強くて、首がおかしな方向に曲がった。

「が……がが……っ」

 熱いものが佑樹の顔にかかる。何かに濡れる感触が肩から腰、そして足まで伝わっていく。

 それと共に、全身から力が抜けていく。熱い何かが――それを体から奪ってしまったかのように。

 すぐ傍から悲鳴が聞こえる。だが、佑樹の耳には遠い世界の出来事のように思えた。

 膝が崩れ落ち、そのまま体が前に落ちていく。ベチャリとした感触が顔を襲う。

「あ……あぁっ! ダメ……しっかりして!!」

 少女の悲痛な声が響く。だが、佑樹がそれを聞くことはもう無かった。

王◯人「須藤佑樹、死亡確認!」

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