初めの子は姉へ? ならば結婚しません
茶匙が皿の縁を擦った。エヴァリネは婚約者の顔を見た。
「最初の子を、お姉様へお渡しするのですか」
「姉上もきっと元気になるよ。もう話してある」
ベルトルトは砂糖を足した。かき混ぜる音が、返事を待たずに続いた。
「わたくしは一緒に育てたいのです。あなたと」
「だから、二人目からはそうすれば——」
エヴァリネが口を開くと、彼の言葉が切れた。
「一人目も、です」
匙が止まった。
婚礼の花はまだ決まっていなかった。先に決まっていたのは、生まれるかどうかも分からない子の行き先だった。
ベルトルトの姉オティーリエは、夫と死に別れている。子はいなかった。嫁ぐエヴァリネを身内として迎えてくれると聞いて、これまでは嬉しく思っていた。
「姉上はあの広い家に一人なんだよ。君が慈善会で子供たちを可愛がっていることも話したら、安心してくれてね」
なぜ、そこで安心したのだろう。
「わたくしがお引き受けすると?」
「僕から頼めば分かってくれると言ったんだ。君は優しい人だろう」
湯気に顔を寄せても、茶の香りが遠かった。エヴァリネは唇へ運ぶ前に器を下ろした。
「そのお話は進めないでください。わたくしは承知しておりません」
「急に聞かせたのは悪かったよ。今日は花を決めようか。姉上にも見てもらいたいし」
彼は卓の上へ見本の絵を広げた。
ゆっくり考えさえすれば、返事は変わる。そのように待たれていた。
白い花のそばに彼の指が置かれた。エヴァリネはどの絵にも手を伸ばせなかった。
笑い声の中へ、低い唸り声が混じった。
数日後の慈善会で、エヴァリネが振り向くと、壁に獣の横顔が浮かんでいた。卓上の蝋燭の手前で、フェルノルトが指を組んでいる。子爵家の息子で、会の手伝いでは以前から顔を合わせていた。
「狼が来たよ。鳥は隠れた方がいいかな」
「それ、犬じゃない?」
ニコが笑った。並んで座った子供たちも、壁の耳を指さして笑う。
「狼です。まだ小さいだけでね」
「じゃあ大きくして」
「大きさを変えるのは得意だよ」
手を灯りへ寄せると獣が膨らみ、耳が崩れた。先ほどより丸い頭に、エヴァリネまで笑ってしまう。
ニコは自分も怪物を作ろうとして、両手を重ねていた。どの指を曲げるのか分からなくなったらしい。動かすたび、壁の影が団子に戻る。
「エヴァリネお姉さん。ぼくのは何にもならないよ」
「片方の手だけでやってみましょうか。ほら、親指を少し曲げて」
エヴァリネはニコの横にしゃがみ、自分の手を壁へ向けた。小さなくちばしのある鳥が現れる。真似する子の指に触れず、親指を曲げ直して待った。
ニコの影にも、くちばしがついた。
「できた。これで飛ぶ?」
「手首をゆっくり動かしてみて。鳥がびっくりしないようにね」
小さな鳥が壁を横切った。ニコが声を上げると、その鳥まで跳ねる。
フェルノルトは蝋燭を卓の奥へ寄せ、子供がそばを通らずに済むよう椅子を動かしていた。獣はもういなかった。
迎えに来た母へニコを送り出す前に、エヴァリネはもう一度だけ鳥を作らせた。母が両手を合わせて喜ぶと、子は外へ出るのを惜しむように振り向いた。
「帰ったらお母さんに見せる。犬もできるようになるかな」
「狼も練習しておくよ」
フェルノルトの返事を聞いたニコは、また笑った。母の手を取り、跳ねる足取りで帰っていく。
扉の外へ遠ざかる声を聞きながら、エヴァリネは手を下ろした。子を喜ばせて送り出すことは、いつも好きだった。
それと同じように、自分の家で帰りを迎えたいとも思っていた。
指輪が椅子の背に触れて、小さく鳴った。
ニコの使った椅子を戻そうとして、エヴァリネは左手を見た。婚約の日にも、この指輪をはめた手で子供を抱き上げた。
——あれはベルトルトの幼い甥と、庭で遊んだ日のことだ。
低い枝に引っかかった布の球を取ろうとして、甥は何度も背伸びをしていた。エヴァリネが抱き上げ、ベルトルトが枝を下げた。球をつかんだ小さな手が、二人の間で高く挙がった。
笑いながら子を下ろすと、指輪が日にきらめいた。
「僕たちもああして遊ぶのかな」
ベルトルトが甥を見て言った。
「遊びたいです。あなたが球を取って、わたくしが抱いて」
「それなら枝の低い木を選ばないとね」
次は自分が抱くからと、彼は両腕を広げた。甥がそこへ駆けていくのを、エヴァリネは笑って見送った。
あの時に思い描いたのは、そんな庭のある暮らしだった。
——椅子の背から指を離す。慈善会の遊び室は片づいて、窓掛けの隙間から夕方の白い明るさが戻っていた。
ベルトルトも望んでいると思った。庭の木のことまで話したのに、二人の子を二人で育てる話ではなかったのか。
エヴァリネは左の手を右腕へ添えた。腕の中には何もなかった。自分の子はまだいない。生まれると決まったわけでもない。
けれども、彼と見ていたはずの庭へ戻る道が分からなくなっていた。
絹を広げるさらさらという音が、自室の卓を渡った。
オティーリエが訪ねて来たのは、それから間もなくだった。花嫁の飾りに使う細いリボンを持っている。以前、一緒に選びましょうと誘ってくれた品だった。
エヴァリネは隣の椅子を勧めたが、リボンを髪に当てるより先に話をした。
「ベルトルト様から伺いました。初めの子を養子に迎えたいとお考えなのですね」
「ええ。夫がいた頃から、子のいる家にしたかったの。ベルトルトが相談に乗ってくれて」
そう言う姉の手が、柔らかな絹を撫でた。エヴァリネにも、その願いは分かった。だから言いにくかった。
だが、言わずにリボンを選ぶことはできない。
「わたくしは子供をお渡ししません。ベルトルト様にもお断りしております」
オティーリエの指が止まる。
「抱けなくなるのが心配なのね。時々は抱きにいらしていいのよ。遠い屋敷ではないのですもの」
「訪ねて抱くのではなく、一緒に暮らしたいのです」
「わたくしだって同じなのよ。朝に子供の声を聞いて起きたいの。あなたなら分かってくださるでしょう?」
自分もそうしたいと言ったばかりだった。聞こえなかったのかと思うほど、返事は滑らかだった。
エヴァリネは膝の上で両手を合わせた。幼い子が熱を出した夜にも、朝にしか行けないのだろうか。泣きやんだ声も最初に歩いた日も、あとで訪ねて聞くのだろうか。
「分かるから、お譲りできるとは言えません」
「今すぐではないのですもの。婚礼が済んでから、落ち着いて考えましょうね」
オティーリエは細いリボンをたたみ直した。花嫁の支度は、そのまま進めるつもりなのだった。
エヴァリネは飾りの箱を閉じた。蓋の噛み合う音が、先ほどまでの絹の音より大きく響いた。
子供たちの足音が廊下を走り、ゆっくりした母親たちの足音と重なっていった。
次の慈善会の日。エヴァリネは扉へ向けて振っていた手を下ろし、窓掛けを留める紐に触れた。
「お帰りになる前に、もう一度だけ見ていただけませんか」
フェルノルトが言うので振り向くと、壁に大きな犬が残っていた。
「今のは狼です」
「首輪のある狼でしたの?」
「手袋の影まで見つけるのは、反則ではありませんか」
彼が手袋を脱いだので、エヴァリネも袖をまくった。ここにはもう子供はいない。片づけをする会の責任者が、開いた扉の向こうを通り過ぎた。
「では、わたくしは白鳥を」
両手を組んで壁へ羽を広げた。自慢の首が少し短かったので、親指をそっと伸ばす。
「ずいぶん食べ過ぎた白鳥ですね」
「冬越しの支度です」
彼が吹き出した。その顔がおかしくて、指を開いてしまった。白鳥の首が壁から消える。
「ほら。逃げましたよ」
「あなたが笑わせるからです。もう一度、見ていてください」
フェルノルトは扉へ向けていた身体を戻した。エヴァリネは緊張した。子供たちの拍手をもらう時とは違い、この人一人に見てもらう方が指先が落ち着かない。
今度こそ、と思うほど手首が硬くなる。
彼は口元を押さえて待っている。笑わないようにしているつもりらしい。その肩が動いた途端、白鳥の羽は大きく垂れた。
「そこまで太ってはいなかったでしょう」
「まだ何も言っていませんよ」
「お顔が言っています」
エヴァリネが責めると、彼は声を立てて笑った。自分まで笑い出してしまって、白鳥は壁でばらばらになった。
「次は僕の番ですね。笑ったら負けにしましょうか」
「今の二度は数えないのですか」
「僕はあなたを笑わせた覚えがないのですが」
彼は真面目な顔を作った。長い獣の顎が壁に現れ、下顎だけぱくぱくと動く。さっきの丸い耳はどこかへ隠れていた。
エヴァリネは息を止めた。犬とも狼とも言えない。それを言えば、きっとまた顔を取り繕う。
「お耳をお忘れになりました?」
獣の口が止まった。
フェルノルトが自分の影を見上げる。片方の手を動かすと、今度は顎がなくなった。
「これは、まだ途中で……」
言い終わる前に、彼が先に笑った。エヴァリネは堪えきれず卓の縁に手をついた。
笑い声が途切れてからも、二人とも手袋を取りにいかなかった。
彼はもう一度だけ試そうとしている。エヴァリネも紐から手を離したまま、壁のそばに残った。
困り事を聞いてもらったわけではない。何一つ解決していない。それでも今、帰りたくなかった。
この人にもう一度笑ってほしい。自分が作ったものを見てほしい。
蝋が燭台の受け皿にたまるまで、白鳥と狼は一度も無事に壁を渡れなかった。
父の書斎で紙をめくる音を待ってから、エヴァリネは婚礼の日取りの紙を出した。
「お父様。次の打合せに、ご一緒いただけますか」
クラウスは椅子から顔を上げた。
「花が決まったのかね」
「いいえ。結婚そのものを考え直しております」
紙の擦れる音が止まった。父は娘の顔と、差し出された日取りを交互に見た。
「ベルトルト君と何かあったのか」
「次の席で、本人からお話しいただきたいのです。その上でわたくしの返事を聞いてください」
父に話しておけば、父が先方と話してくれるかもしれない。娘の知らないところで断ってくれるかもしれない。
そうしてもらえば顔を合わせずに済む。だが、エヴァリネは返事を父に預けたくなかった。彼と結婚すると決めたのも自分だった。
「わたくしが断っても、お聞きいただけないことがあります。もう一度お伝えします。それでも変わらないなら、結婚はいたしません」
「お前自身がそう決めたのだね」
「決めました。その場にいていただきたいのです」
クラウスは紙を受け取り、日付に目を落とした。
「分かった。一緒に行こう」
書斎を出る時、エヴァリネは指輪へ触れた。指を曲げると、硬い縁が隣の指に当たる。
外した手で帰るかもしれない。その重みを思うと、胸が痛んだ。
それでも、花を選びにいく服は支度しなかった。
茶器の蓋が触れ合った。エヴァリネは父へ注ぎかけたポットを戻した。
ベルトルトの実家の客間には、前と同じように婚礼の見本が用意されていた。オティーリエも向かいの椅子へ掛けている。
「お父様にも同じお話をしてください」
ベルトルトの指が、婚礼の日取りを書いた紙の上で止まった。
「今する話かな。姉上もいらしているのに」
「わたくしのいないところでは、なさったのでしょう」
父が顔を上げる。ベルトルトは姉へ目をやった。
「結婚して最初に生まれた子は、姉上に育ててもらうつもりなのです。養子として迎えてもらえればと。姉上も楽しみにしています」
「エヴァリネも承知した話ですかね」
父の問いに、ベルトルトはエヴァリネを見た。
「寂しい思いをしてきた姉上に、君なら優しくしてくれるだろう」
「子供をお渡しすることには、同意しておりません」
オティーリエが膝の手巾を握った。
「時々は抱きにいらしていいのよ。先日もそうお話ししたでしょう?」
抱くために、よその家を訪ねる。夜に泣いたかどうかも、人に聞くのだ。
まだ影も形もない子のことなのに、エヴァリネは両腕を重ねた。自分の家で一緒に暮らしたかった。ベルトルトと望んだ家には、そうしたいと言う自分の場所がなかった。
「それでは嫌なのです」
「二人目からは僕たちで育てればいいじゃないか」
ベルトルトは助け船を出したように続けた。
「君は子供が好きだろう。姉上の気持ちも分かってくれると思うんだ。ずっと寂しく暮らしてきたのを知っているだろう?」
「わたくしが子供を好きなことと、あなたが約束してよいことは別です」
声を張らなかった。それでも、父が紙を揃えていた手を止めた。
「このお約束を取り消してください」
ベルトルトは器の取っ手へ伸ばしていた指を引いた。すぐには返事をせず、姉を見た。
「一度言ったことをそんな簡単に取り消せないよ。姉上は僕の約束を信じているんだ」
エヴァリネは左手の指輪へ触れた。
彼となら家族になりたいと思っていた。庭の低い枝も、抱き上げる腕も覚えている。あの日から今日まで、その気持ちは本物だった。
ここで頷けば婚礼はできる。彼は花を選び、姉はリボンを結ぶだろう。
エヴァリネは指輪から顔を上げた。
「では、結婚はいたしません」
ベルトルトが椅子を引いた。脚が床を擦る音が、返事のない卓を引っかいた。
「僕の姉に子供を抱かせるくらいで、婚約を解くのか?」
「お渡ししないと申し上げても、お聞きにならない方とは結婚できません」
「今なら婚礼を変えずに済むんだよ。僕に約束を破れと言うのか」
「わたくしの返事を変えるお話なら、いたしません」
ベルトルトは彼女を見つめた。エヴァリネは手を膝へ戻さなかった。
「……それなら、もういい。こちらから願い下げだ」
彼女は指輪を抜き、彼の前に置いた。ベルトルトはすぐには手を出さなかった。
「お父様。今、二人で解消すると決めました。あちらのお父様へもお伝えください」
クラウスは娘を見てから頷いた。
「二人の返事を聞きました。私から先方のお父上へ伝えます」
オティーリエが弟の袖を引いた。
「待って。では、わたくしの子は」
ベルトルトは紙と指輪を見比べた。返事は出てこなかった。
さっきまでエヴァリネに譲れと言えた人が、姉へは何も言わない。結婚する相手がいなくなっても、果たせる約束だとは言えないのだった。
エヴァリネはポットを父の側へ寄せ、席を立った。あの人の家の茶器の置き場所を、もう覚えなくてもよかった。
窓掛けの輪が竿を滑り、遊び室に明るさが戻った。
婚約解消を両家へ伝え終えたと父から聞いてから、エヴァリネは次の慈善会へ出かけた。子供たちを送ったあと、フェルノルトと蝋燭を片づけた。
「ベルトルト様との婚約を解消いたしました」
燭台を持つ彼の手が止まる。
「そうでしたか。……お話しくださってありがとうございます」
細かいことは尋ねず、彼は燭台を棚へ戻した。
エヴァリネは手袋を持ち直した。自分から何か言いたくて、言葉がうまく出てこない。前に壁のそばで帰りかねていた時より緊張している。
フェルノルトが向き直った。
「今度、二人で出かけていただけませんか。会の手伝いではなくて」
望んでいた言葉なのに、すぐには声にならなかった。彼はもう一度言いかけ、口を閉じて待ってくれた。
「わたくしも、そうお誘いしたかったのです」
彼の頬が緩んだ。エヴァリネは手袋を握り、ほんの少しだけ手を上げた。
「先にお話ししたいことがあります。子供と暮らしたい気持ちは今もあります。でも、授かれるかどうかのお約束はできません」
「それは僕もできませんよ。……でも、次の休みにはあなたと出かけたいのです」
彼は困ったように笑った。
「白鳥を笑うのは、今日はやめておこうと思っていたのですが。また見たくなってしまって」
エヴァリネの指から力が抜けた。まだ一度も白鳥には見えなかったと言いたそうな顔をしている。
「では、わたくしと遊びに来てください。ずっと手伝いばかりしていたら、あなたの犬には勝てません」
「狼です。それだけは覚えていてほしいのですが」
「覚えています。困ったお顔が見たくて申しました」
彼が彼女を見た。言ってしまったと頬が熱くなったが、目を逸らさなかった。
「僕も好きなのです。あなたが負けを認めてくれないところも」
「そこも、ですか?」
「あなたは違うのですか。僕が犬でいいと言ったら、おしまいにしてしまうでしょう」
エヴァリネは笑った。ようやく、持っていた手袋を片方の手にまとめられた。
「わたくしもフェルノルト様が好きです。だから次は、どちらも勝つつもりで参りましょう」
「それは困った。出かける先から勝負なのですね」
彼は笑いながら手を差し出した。エヴァリネもその手へ指を重ねた。
次の休み、昼の広場で待ち合わせることにした。犬がいなくても笑えるか試しますと言うと、彼は今度こそ狼だと言い直すのをやめて笑った。
広場では、石畳を打つ二人の靴音が揃わなかった。
エヴァリネが店先の飾りへ立ち止まるたび、先へ出たフェルノルトが戻ってくる。次は彼が木彫りの鳥を見つけ、彼女がついていった。夕方まで歩いたのに、広場の周りから出られなかった。
それからも日を決めて出かけた。彼はエヴァリネと呼んでいいかと尋ね、彼女は頷いた。また誘ってほしいと、自分からも伝えた。
慈善会では前と同じように子供たちと遊んだ。帰りの話がなくても、二人は会う約束をするようになった。
翌春、エヴァリネはフェルノルトと結婚した。
新しい家で過ごす夕べ。茶匙が皿の縁を擦った。
「お砂糖を入れすぎたのでは?」
「まだひと匙ですよ。飲んでみますか」
夫が器を寄せた。茶は彼の言うとおり甘すぎず、少し熱かった。エヴァリネは自分の器を彼のそばへ並べた。
卓にあるのは二人分の茶だった。それを飲む前に、二人とも壁へ影を映していた。彼女が戯れに片手を上げただけで、夫も手を上げたのだ。
「今のは白鳥ですね」
いつまでも当ててもらえないと思っていたのに、先にそう言われてしまった。
「お分かりになったのですか」
「何度も見せてもらいましたから。そろそろ僕の狼も分かる頃では?」
エヴァリネは隣の影を見た。丸い耳に、開いた口。まだ犬だった。
夫も壁を見たまま、彼女の返事を待っている。
「もう一度見せてください。フェルノルト」
「喜んで。今度こそ笑わないでくださいね」
手を組み直す彼の前で、エヴァリネは唇を結んだ。まだ笑うわけにはいかなかった。
二人の手袋は、茶の冷めかけた卓の端で重なっていた。




