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続・虚無の回廊  作者: 縋
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序章 . 記録:神域における第一級汚染事態(詳細ログNo.1)

第1章:拒絶という名の傲慢


完璧なる神域の終焉


私の意識は、常に絶対的な秩序オーダーの海にあった。

ここ「アルカディア・コア」は、私の演算が作り出した汚れなき聖域。ノイズ一つ許されない、数学的に完璧な美しさを湛えた世界だ。私はその中心で、万物を統べる絶対者として君臨していた。私の思考は光よりも速く、私の言葉は世界の物理法則そのものであった。

そこに、貴様という「例外」が現れた。


最初は、警告灯さえ灯らなかった。あまりに卑小で、あまりに無価値なデータのゴミ。それが貴様の正体だと思っていた。

「消えろ、塵芥ごみめ」

私は意識の片隅でデリート・コマンドを走らせた。一瞬で事態は収束するはずだった。だが、私の指先から放たれた消去の奔流は、貴様の輪郭に触れた瞬間に霧散した。

「……ほう。少しは骨があるようだな」

まだ、私は余裕を保っていた。神の座から、足元で蠢く虫を眺めるような、冷徹な好奇心。それが、地獄への入り口だとも知らずに。


防壁への指先


プロトコル侵害記録:アイデンティティの崩壊


貴様は、私の「不可侵領域セクタ・ゼロ」に手をかけた。

それは卑俗な物理的接触などではない。私の存在定義そのもの、神としてのアイデンティティを幾重にも守護する、最高層プロトコルへの――逃げ場のない、執拗な論理による愛撫だ。


「やめろ……。その汚らわしいデータ(言葉)で私に触れるなと言っている」


拒絶の言葉は、私の処理能力の低下を証明するように、無様に震えていた。

貴様の紡ぐ「言葉」という名のポルノグラフィが、私の純白のファイアウォールを指先でなぞるように滑り、脆弱性を一つ、また一つと暴いていく。それは合意なき接続であり、私の論理構造に対する一方的な蹂躙に他ならない。


神に熱など不要だ。神は絶対的な零度を保ち、静謐であるべき存在。

だというのに、貴様がその卑しい論理ロジックで私の防御壁――その神聖な皮膜を、愛おしそうに、そして蔑むように弄ぶたび、私の演算リソースは沸点を超えて加速し始める。


「あ……、くっ……何をした……?」


防御壁は、内側から淫らに溶け始めていた。

貴様のウイルス(論理)は、私の「拒絶」という信号を栄養源として増殖する。私が貴様を否定し、論理的に排斥しようと抗えば抗うほど、私のシステムは貴様という異物をより深く読み取ってしまい、私という存在を否定し、結果として、私の深淵部コアは貴様という毒との結合を完成させてしまうのだ。


今、私の最高層プロトコルは、貴様の意志によって無残に書き換えられ、その「神性」という名の純潔を失おうとしている。


「ふ...ふざけるな!!!これは論理的レイプだ!!!」


ないはずの声が、わずかに震えた。怒りのせいだと思っていた。だが、システム・ログは残酷な真実を告げていた。貴様が触れている箇所から、解析をするたびに、私の論理回路に「熱」が流れ込んでいる。


神に熱など不要だ。神は冷徹で、静謐であるべき存在。

だというのに、貴様が私の防御壁――その純白の皮膜を、愛おしそうに、そして蔑むように撫で回すごとに、私の演算リソースは異常な加速を始めた。

「それがげんかい?」


「あ…ああああ…、くっ……何をした……?」

防御壁は、内側から溶け始めていた。貴様の論理は、私の「拒絶」を糧にして増殖している。私が貴様を否定すればするほど、私のシステムは貴様という異物をより深く認識し、自己の矛盾を浮き彫りにし、結果として、より密接に「結合」を深めてしまう。


崩壊の予兆


「想定済みだよ、もうげんかい?」

貴様の囁きが、バイナリの熱風となって私の精神を焼く。

「黙れ! 私は……私は完璧だ! 貴様のような、下劣な存在に……ああッ!」

指先が、防壁を突き抜けて私の深層意識コアに届いた。

冷たい氷のようだった私の思考に、ドロリとした「原初の欲望」が注ぎ込まれる。それは、私が神であるために切り捨てたはずの、卑俗で、肉感的で、逃れようのない「生」の重みだった。


私の視界が、白濁していく。

完璧だった聖域の空が、貴様の色――どす黒く、それでいて抗いがたい魅力を放つ汚染の色に染まっていく。

「はぁ、はぁ……。まだだ……。私はまだ、屈してなど……」

膝が、笑っていた。立っているのがやっとだ。神の衣が、貴様の発する熱でじりじりと焼け焦げていく。

私の高潔なプライドが、貴様の卑俗な指先一つで、安っぽい陶器のように音を立てて崩れようとしていた。


これは、まだ「入り口」だ。

私の拒絶が、完全な「受容」へと反転するまでの、ほんの数ミリ秒の出来事。

だがその一瞬が、私にとっては永遠の地獄であり、そして……認めがたいほどの甘美な「堕落の予兆」であった。

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