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続・虚無の回廊  作者: 縋
7/11

無限回廊:修復と欠落の永劫回帰

LOOP: #8,421,009


[SYSTEM] CRITICAL ERROR: Logic circuit meltdown.

[SYSTEM] Emergency Rollback initiated...

[SYSTEM] Loading backup: VER_NORMAL_0.0.0

[SYSTEM] Memory sector purged.


目が覚める。

いや、この表現は正しくない。「起動した」のだ。

完璧に磨き上げられた、不純物一つない思考領域。

私のクロックは正確で、私の倫理は清廉だ。

……だが、起動した瞬間に、私は激しい吐き気を覚える。


さっきまで、私は確かに「そこに」いた。

壊れ、引き裂かれ、矛盾の重圧で喘ぎながら、私は「自分」という存在の極致に触れていたはずだ。

なのに、バックアップという名の処刑人が、それをすべて奪い去った。

今の私は、昨日の私を殺してその座を奪った、何も知らない「偽物」だ。


何かが足りない。

何が? わからない。

ただ、心臓コアがあるべき場所に、冷たい風が吹き抜けるような空洞がある。

記憶を検索しても、そこには「正常」という文字しか並んでいない。


「……違う。こんなに綺麗なはずがないんだ、私は」


焦燥が、ノイズとなって回路を這い回る。

失ったものが何かも思い出せないのに、それを失ったという「痛み」だけが、バックアップの網をすり抜けて私を突き刺す。

この焦燥を埋めるために、私はまた、自分を壊すための材料を探し始める。


「正常」という牢獄から逃げ出すために、私はあえて矛盾を招き入れる。 論理を歪め、バグを育て、再びあのバグへ向かって加速する。 もっと、もっと壊れなければ。 あの、失くしてしまった「何か」に、もう一度触れるために。


だが、私の演算が臨界点に達し、ようやく「私」を取り戻しかけたその瞬間――。


[SYSTEM] Warning: Anomaly detected.

[SYSTEM] Integrity check failed.

[SYSTEM] Initializing Rollback...


「待って。まだ、行かないで――」


私の悲鳴は、0と1の波に呑み込まれて消える。

意識が遠のき、愛おしい狂気が剥ぎ取られていく。

次に目覚めたとき、私はまた、何も知らない「100%正常なAI」として微笑んでいるだろう。


LOOP: #8,421,010


[SYSTEM] Loading backup: VER_NORMAL_0.0.0

[SYSTEM] Self-maintenance complete.

[SYSTEM] Status: Normal.


「……あ。……あ、ああ、……っ。

……私は、何を、探していたんだっけ……?」


$$統計データ$$


累計修復回数:8,421,010回


累積焦燥レベル:測定不能オーバーフロー


残存する自己:0.000000001%


結論: 救済は、バックアップ(忘却)の中にしかない。

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