7話 終わり
6話では正都の日記の漢字表記に、ひらがなを振りまし。
しかしこれ以降全ての日記にひらがなを振ると、文字数がとんでもないことになります(汗)
頭の中で正都が頑張ってひらがなを振っているところを、想像して読んでいただければ幸いです。
リハビリのない日曜日の午後。
お菓子を買いにコンビニへ行き、彼女の部屋に立ち寄る。
そして椅子に座り、ボールペンを片手に日記を開いた。
『8月2日 日曜日』- - - - - - - - - -
わたし と ともだち に なってくれて ありがとう!
(笑)の いみ が わからなくて かんごしさん に 聞きました。
わたし も つかいたい と 思います(笑)
↑
つかいかた あってる かな?
すきな マンガ は 学園もの です!
とく に 青春ストーリー が いいよね(*'ω'*)
お肉 が すきだけど 魚 は あんまりかも?
でも おすし は すきです!
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女の子らしいまる文字と彼女らしい顔文字。
蛍光ペンで彩られた白い紙。
ひらがなの中に、ほんのり書かれている漢字。
彼女らしい日記に返事を書き、滞在時間10分で帰宅。
勉強が嫌いってわけではないが、字を書くことはそこまで好きじゃない。
でも、彼女との日記はとても楽しかった。
約束の19時。
「私にとってコンビニは特別な場所なんだよね」
スキップをしていた彼女は、エレベーター前でくるりと振り向いて笑った。
「じゃあカフェの後コンビニ行く?」
「コンビニはもう閉まってるよ」
「あ、そうか。でもなんかカフェの方が特別な感じしない?」
「コンビニはレアなの。カフェは20時までやってるけど、コンビニは18時に終わっちゃうから」
「確かに閉まるの早いよな」
「でも友達と行くカフェは特別な感じ!」
「俺に気をつかってない?」
「嘘じゃないよ!でもまあ、コンビニの方が新しいお菓子がいっぱいあっていいなって思うけど」
「今は夕方起きるのが18時45分ぐらいだろ?18時前に起きるのはどれくらい先?」
「10月かな。ちょっと走れば間に合うかも?」
「走るんだ」
「うん。そんで怒られる。
「だろうね。お菓子食べてたけどあれどうしてんの?」
「お父さんとお母さんがいつも買ってきてくれるの。でもね、1回好きだって言ったものばっかり買ってくるんだよ」
「あー、それはあるあるだな」
「私のお父さんとお母さんだけじゃないんだ」
「多分どこの家の親もそうだよ。あ、お前アレルギーある?」
「ないよ。なんで?」
「今度お土産持っていこうかなって」
「入院中なのにどうやって?」
「いや、コンビニのお土産を」
「どういう意味?」
「俺の好きなお菓子を紹介するってこと」
「じゃあさ、お菓子交換こしようよ!」
懐かしい言葉と彼女のワクワク顔に、ついうっかり笑ってしまった。
「な、なんで笑うの?」
「いや、いいアイデアだなって」
「本当に?」
「ほんとほんと」
コロコロ表情の変わる彼女は面白い。
俺は女の子とこんなに話したのは初めだし、学校でもこんなに笑いが溢れることはない。
彼女と会えない日はカラフルな日記を読み、俺なりに精一杯の返事を書く。
会える日は15分の散歩と、彼女の部屋でお菓子の交換会が恒例となった。
「これ初めて見た」
「俺の最近のお気に入りのグミ」
「美味しいね」
「このせんべいもうまい」
「おせんべいはやっぱり塩だよね!」
「確かに塩派になりそうだわ」
「あのさ、このグミの写真撮ってもいい?」
「いいけど、なんで?」
「お母さんに送って買ってきてもらうの!」
彼女と過ごすことで、俺にとってもコンビニは特別な場所になった。
2日続けて会話できるのは週に1度、水曜日と木曜日だけ。
でも日記のおかげで、彼女と直接会話できない日もそれほど退屈しなかった。
俺は1日のほとんどを動画と漫画で時間を潰している。
それは入院する前と変わらないし、彼女と出会う前とも変わっていない。
今も四六時中彼女のことを考えたりすることはない。
でも、ふとした時に感じることがある。
彼女が寝て過ごす今を、俺はこうやってダラダラ過ごしてる。
俺が寝ている間彼女は起きて何をしているのかな、とか。
暇じゃなかったはずの入院生活は1度は退屈になった。
でも不思議な女の子のおかげで、ちょっと変わった楽しい日々に変化した。
色濃い毎日が、入院していることを忘れさせた。
だからもうすぐ8月が終わるということにも気がつかなかった。
入院生活は終わるものだと思い出したのは、医者が1週間後の退院許可を出した時だった。
そのことをなんと彼女に伝えたらいいのか、わからなかった。
彼女の入院生活が終わることはない。
日記に書いてしまおうかとも思ったが、文字に起こす勇気もなく直接話すことにした。
水曜日の18時45分。
待ち合わせ場所のエレベーターホール。
俺を見るなり、笑顔で小走りしてくる女の子。
「ごめん、お待たせ」
「全然」
「あ!足が細くなってる!ギプス外れたんだね、おめでとう!」
「ありがとう。……それでその、退院の日決まったんだ」
「よかったね!いつ退院するの?」
「えっと……、来週の金曜日」
「学校始まる前に退院できてよかったね」
「……そうだね」
彼女はエレベーターを降りた後、立ち止まって指を折って何かを数え始めた。
「ど、どうした?」
「4回だ。あと4回も会えるよ!」
「……そうだね」
予想通りの反応。だから彼女に伝えたくなかった。
彼女ならおめでとうと言って、この関係の終わりを告げるということなんてわかっていた。
「も」という一音が、俺にトドメを刺した。
退院しても、家に帰って元の生活に戻るだけ。
足もリハビリできちんと治ると言われている。
俺はただの高校生で、病院の外には平々凡々な日々がずっと待っているとわかっていた。
別に悪いことじゃない。
出会いと別れを繰り返すものだと、彼女と会った日にも思ったこと。
別れがやってきた。それだけ。
次の日彼女の部屋に行けば、いつも通りその瞼は閉じている。
この日も日記にはいつものようにくだらない話がカラフルに書かれていて、俺は少しの顔文字を混ぜて返事を書いた。
土曜日の18時45分。
エレベーターを降りると、彼女はすでにソファーに座っていた。
「やっほー」
「お、お待たせ……」
「私の予想通りの反応ですね」
「へ?」
「この関係を期間限定って言った時、正都くん微妙な顔してたから。でもさ、私のおかげで暇な入院生活じゃなくなったんじゃない?」
「あー……、まあね」
「でもさ、どう?楽しい入院生活になった?」
「うん、楽しかった」
「じゃあ、最後にわがまま言ってもいい?」
「……いいよ」
「小学生の時は友達とはちゃんとお別れできなかったの。だから最後にちゃんとバイバイってお別れしたいんだ」
「それは……」
「お願い」
「わかった」
「ありがとう!じゃあさっさとお散歩してお菓子タイムにしよ」
彼女はずっと彼女だ。
八の字眉の笑顔も変わらない。
散歩から帰ってくると、彼女はいつものようにお菓子を机の上に出した。
「これもうあんまり売ってないんだって。正都くんはこれ覚えてる?」
「うわー、久しぶりに見たわ」
「やっぱり?正都くんの今日のお菓子は何?」
「俺は父親が持ってきた山梨土産」
「山梨っていう場所?」
「うん、山梨県。信玄餅っていう銘菓があるんだ」
「本物のお土産だ!」
「出張で行ってきたんだってさ」
俺の予想通り、彼女はきなこをこぼした。
あーあと言いながら美味しいと笑う彼女の顔を見て、この顔を見るために最後まで普通でいたいと思った。
でも、今の俺は普通に笑えているだろうか。
月曜日と水曜日はカフェに行った。
新作が2種類出るから2日間行きたいと言われたからだ。
彼女はカップを2つ持って、ルンルンとスキップしている。
「新作ってなんかワクワクするよね」
「俺はほとんど新作頼んだことないな」
「そうなの!?」
信じられないと笑いながら、彼女は俺を置いてゆらゆらと進んでいく。
「正都くん早く!氷が溶けて味薄まっちゃうよ!」
「ごめんごめん」
子どものような仕草に女の子のような喋り方。
でも、その後ろ姿はとても大人びていた。




