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22話 普通の高校生


 8月上旬。


 

 俺は健と陽仁と3人で、夏休みらしいスポットに来た。


 

「マジで付き合ってくれて助かった」

「男1人は確かにきついって。ここ特にザ・デートスポットって感じの水族館だし」

「俺は由美ちゃんとのデートの下見も兼ねてるから気にすんな」

「正都、健は当てにならないから任せた」

「入館料払ってもらったし努力する」



 陽仁が美術部だと知ったのが一週間前。

 水槽を見上げる人の絵を描きたいが、他撮りがないとできないという協力要請が入った。


 

「コンクール銀賞ってすごいよな。まあ由美ちゃんも佳作だったみたいだけど」

 


 陽仁は俺が知らなかっただけで、学校では絵がうまいとそこそこ有名らしい。

 俺は誰とでも仲良く過ごせる陽キャだと思っていたから、偏見で運動部だと思っていた。

 文武両道で男女関係なく友達100人タイプなのに、俺とつるんでくれている。

 そんな彼が珍しく頼みごとをしてきたので、動物園の時とは違いすんなり承諾した。

 


「やっぱりこの絶妙な明るさが良いよな」

「こういう雰囲気はムードあるし、俺も余裕のある男に見える気がする。由美ちゃんきっと惚れ直すぞ」

「正都、写真お願いしてもいい?」

「ああ」


 

 浮かれている健のことは無視して、俺は一生懸命写真を撮った。

 センスなんてあるはずないので、とにかくたくさん撮りまくった。



「正都マジで助かったわ。ありがとな……まさか100枚以上撮ってくれるとは思わなかったけど」



 俺は本当に一生懸命写真を撮った。

 陽仁も納得の写真が撮れたようでよかった。


 1時間で水族館を回り終えた俺たちは、最後にお土産屋さんへ。

 

 

「お土産なんか買ってく?」

「俺は由美ちゃんに買ってく」

「陽仁は?」

「俺はこの後本屋に行ってもいい?写真集買いたかったんだけど水族館って売ってねえのな」

「で、正都はなんか買うの?」

「んー、あ。俺あれやるわ」

「マジで?」

「うん」

「じゃあ俺も由美ちゃんのために引く!」

「ちなみに2人はもちろん特賞狙いだろ?」

「当たり前だろ?由美ちゃん喜ぶぞ」

「俺は3位のちっちゃいやつ」



 そして俺たちは帰りに本屋へ行き、ファミレスに寄り駄弁ってから解散した。

 


『8月4日水曜日』- - - - - - - - - -

 

 正都くんが言ってた花火大会、テレビで見たよ!

 花火ってあんなに煙が出るんだね(+_+)

 

 あと教えてもらった水族館調べたよ!


 学生におすすめのデートスポットって書いてあった(*'ω'*)

 

 そういえば正都くんにはまだ彼女いないの?

 ↑

 看護師さんが、下世話な話って言ってた(笑)


 - - - - - - - - - -


 

 ほんと、ガチで勘弁してほしい。



 ――コンコンッ。



「やっほー」

「やっほー。陽菜子さん、ちょっといいかい?」

「ん?」

「今ちゃんと日記読んできたんだけど」

「うん」

「下世話な話の意味って知ってて使ってる?」

「色恋の話って意味でしょ?」

「えっと……、ちょっと違うかな」

「正解は?」

「人の秘密とか、言わなくてもいいことを面白がって話すみたいな感じ」

「じゃあ彼女いるんでしょ?ニヤニヤみたいなこと?」

「そうです」

「それはごめんなさい。でも聞いて?」

「何?」

「ねぇねぇ、彼女いるの?」

 


 ニヤニヤと笑う彼女はとても楽しそうだった。



「マジで彼女いないから。前にも言ったけど女の子の友達も……、1人しかいないし」

「女の子の友達ってさ、もしかして普通は簡単にできないの?」

「いや?そんなことないと思うよ。ただ俺が女の子とどう話したらいいのかわからないだけで」

「私とは普通に話せてるよ?だから大丈夫!自信もっていいよ」



 ファイトなんて言って、彼女は楽しそうに小さく踊っている。


 正直彼女が特別なのであって、他の女の子といる時はなぜか言葉が出てこない。

 実際彼女と売店で再会した時はそんな感じだったと思う。

 


「伊達さんよ。俺は好きな人も気になる人もいないし、彼女ができる予定もないです」

「そうなの?」

「うん。それよりお土産持ってきたんだけどいる?」

「もしかして水族館のお土産?」

「正解。ごく普通の高校生が送る水族館体験をプレゼントします」

「何これ!水族館の写真?イルカショー見たの?」

「実を言うと、これは本屋さんで買ったんだ。イルカショー見たから、その写真が載ってる写真集を選んだ」

「ありがとう!」

「それからもう1つサプライズ」



 俺はリュックから新しい仲間を取り出した。



「ペンギンだ!」

「そろそろデバミーにも友達が必要かと思って」



 3等賞。

 手のひらサイズのペンギンのぬいぐるみ。


 彼女には秘密だが、本当のことを言うと俺は特賞のバカでかいぬいぐるみを当ててしまった。

 しかしそんなものを病院に持っていけるはずもなく、3等賞を引いた健と交換してもらったのだ。



「私決めた!この子の名前はギンちゃんです!」

「え、そっち?」

「何が?」

「ペンギンの名前は普通ペンの方取らない?」

「その発想はなかった」

「お前、ネーミングセンス抜群だよな」

「ネーミングセンス?」

「名前をつける才能があるってこと」

「やっぱり?私もそう思う」


 

 彼女はなぜか、最近ドヤ顔で話しかけてくる。

 多分日記を書いているときもそうなのかもしれない。

 

 ちなみにこの日、帰る前にしっかりと日記に念押しでこう書いた。

 

 

『俺が仲良くしている女の子は伊達1人です!』



 そして勢いで書いたその一言を寝る前に思い出して恥ずか死んだ。


 

 彼女と直接話せる夏休みは、貴重な時間なんだと思う。

 ただ相変わらず俺たちは、やっぱりたいした話をしていない。

 どれぐらいくだらない話をしたかというと、マルバツゲームをしながら話せる内容ばかりだった。


 普通の高校生の休み時間、放課後のように過ごした。



 きっと高校を卒業するまでの時間を、俺は彼女とこうやって普通に過ごすのだろう。

 


 声を交わした夏休みが終わり、再び病院へ行くのは週に1度だけ。

 俺も少し忙しくなった。


 

 夏休みが明けるとすぐに文化祭。

 クラスの出し物はチュロス屋で、今年は無事裏方の温め係を勝ち取った。

 健は彼女と楽しく回り、俺と陽仁はぶらぶらと過ごした。


 10月の頭には定期テスト。

 今回も彼女に目標を宣言。

 看護師さんにも笑われないように勉強をしていたおかげもあって、自己最高記録を更新。


 ……英語以外は。



 自転車で風を切ると手が冷えるようになった頃、俺たちは12月頭の修学旅行について話していた。


 俺の通う高校では、2年生の冬に3泊4日で広島と大阪に行くと決まっている。

 

 

 彼女は

 「遠足と修学旅行は何が違うの?」

 「大阪に行ったらやっぱりたこ焼き食べるのかな」

 「新幹線って怖い?普通の電車と何が違うの?」

 なんてあふれる疑問を大量に書き記した。



 俺は日記を読みながら、いつも日記を書く彼女の姿を想像しながら返事を書く。

 きっといつものわくわくとした笑顔だったり、驚けば声を出している姿が目に浮かぶ。

 彼女の表情はコロコロ変わり、子どものように無邪気だ。

 

 俺は上がった口角を手で隠しつつ、忘れずにシールを貼ってから日記を閉じる。

 


 

 金曜日。

 

 

 いつも通り、16時前に彼女の部屋を訪れた。


 今日は彼女の髪が短くなっている。

 髪を切るとは聞いていたけど、結構バッサリ切ったな。

 

 

 俺は彼女を横目に、カラフルな日記をパラパラとめくった。



 

 

「…………え?」


 

 

 ――その日、積み重ねた青春の突然崩れる音がした。



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