20話 カフェラテ
結局、何の策も思いつかないまま週が明けた。
『5月15日土曜日』- - - - - - - - - -
遠足お疲れ様でした!
いちごはたくさん食べられましたか( *´艸`)
羨ましいので私も、お母さんにいちごを持ってきてもらうんだ(*^^)v
高校の遠足は、バスの中でカラオケをすると聞きました。
それってほんと(*'ω'*)?
それからもうすぐ正都くんの誕生日だね!
何欲しい?って聞いてもあげられないから、私サプライズするね☆
↑
期待しないでください(笑)
P.S.私のいちごの記録は7個でした。
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終わらせない言い訳を考えることに必死で、誕生日なんてすっかり忘れていた。
運命の嫌味なのか、リハビリの最終日前日に17歳になる。
もう時間だない。
俺は彼女に言わなければいけない。
『5月18日火曜日』- - - - - - - - - -
いちごは10粒しか食べられませんでした(泣)
伊達とあんまり変わりません(+_+)
↑
でも大きかったです!
ちなみにバスの中でカラオケはしません。
俺はほとんど寝てた(笑)
お土産にゼリーを買ってきました!
よかったらお父さんとお母さんと食べてください(*^^)v
それから5月28日金曜日にリハビリ卒業が決まりました。
誕生日のサプライズを楽しみにしておきます(*'ω'*)
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嘘はつかず、事実だけを書いた。
俺は勇気がないうえに意気地なしで、陽の長さに感謝してしまうほど臆病だ。
会えない時間を覚悟を決めるふりに使う自分に嫌気がさして、この日は彼女の顔を見ることができなかった。
『5月19日水曜日』- - - - - - - - - -
いちご10粒じゃ1パックじゃん(笑)
大きさは関係ありません(+_+)
しかもカラオケしないんだ(意外)
お土産のゼリーもありがとう!
日曜日にお父さんとお母さんと食べるね(*^^)v
リハビリ卒業おめでとう(*^^*)
よく頑張りました!
もしよければ最後に会えないかな?
5月28日金曜日の19時15分から19時半までとかどう?
ムリはしなくていいからね!
会えなかったら机の上にプレゼント置いておきます(*'ω'*)
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彼女の返事は、ほぼほぼ想像通りだった。
ちょっと嬉しかった驚きは、彼女から会いたいと言ってくれたこと。
「最後」という枕詞はついていたけど。
――最後にちゃんとバイバイってお別れしたい。
考えて考えて、必死に考えても関係を引き延ばす理由が一向に浮かばない。
だから、せめてもと紙の上では取り繕う努力をした。
『5月21日金曜日』- - - - - - - - - -
お土産喜んでもらえてよかった(^^)v
5月28日会えるよ!
19時15分に部屋へ行くね。
会えるのを楽しみにしてる(*'ω'*)
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面白みのない返事。
これじゃあ取り繕えてないかもしれない。
そんな俺のにも、彼女は普通に返事をしてくれた。
『5月22日土曜日』- - - - - - - - - -
19時15分に待ってるね!
私も会えるのを楽しみにしてる(*'ω'*)
一生懸命サプライズの準備してるから、やっぱり期待しておいて(笑)
『5月25日火曜日』- - - - - - - - - -
サプライズめちゃくちゃ期待してます!
なぜなら友達からプレゼントをもらったことはあっても、サプライズされるのは初めてだからです。
金曜が楽しみで仕方ありません(*^^)v
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かけらも金曜日を楽しみにしていない。
会えることへの喜びよりも、彼女を言いくるめるような言葉が見つからない焦り。
そして言いくるめようとしている滑稽な自分。
堂々と笑顔でと覚悟を決めることができないバカな自分。
ぐちゃぐちゃの気持ちで最後のリハビリを終えたのは、金曜日の16時15分。
ここに思い出はない。
彼女とのつながりを切らないための言い訳でしかない。
会計待ちしている間も、ジメジメとした空気の中指先が冷えていく。
彼女に会うまで残り約2時間半。
何度も彼女と来たカフェで、いつも通りホットのカフェラテ。
今日は1番大きサイズを注文した。
何もない面白みのない外を眺めながら考えた。
俺はどうするべきなのか。
何が最善なのか。
本心はこの関係を続けたい。
直接会えなくても、日記だけでもなんでも繋がりがあればそれでいい。
声を聞くことができなくても、紙の上で会話できるならそれで充分だ。
彼女のいない生活は、元の生活は、俺にとってもう普通じゃなくなってしまった。
でも彼女はどうなんだろうか。
関係を延長するたびに、彼女は喜んでくれているけど本当に?
純粋に嬉しい気持ちだけなのだろうか。
終わりが来ることを考えて疲れたり、絶対じゃないことを続けることへの不安がストレスかもしれない。
結局結論が出ないまま、19時にセットしたアラームが鳴ってしまった。
半分以上残った冷たいカフェラテを片して、何度も座ったエレベーターホールのベンチに座る。
タイムリミットまでの5分間、何度も深呼吸をした。
しかし手の震えも、耳元で鳴る心臓も止めることができなかった。
――コンコンッ。
「どうぞ〜」
「おじゃましまーす」
3ヶ月ぶりの会話。
少し伸びた髪。
出会った夏に着ていたピンク色のパジャマ。
「まずはリハビリ卒業おめでとう!の、ケーキです」
机の上にはコンビニで売っていそうなンブランが2つ。
「特別に買ってもらったんだ。モンブラン好きって日記で言ってたよね」
「よく覚えてたね。ありがとう」
「日記を遡って探したの」
へへっと笑う彼女の向かい側に座り、モンブランの蓋を開ける。
「本当はさ、クラッカー鳴らしたかったんだけど」
「え、マジで?」
「うん。でもさすがにダメって言われちゃった」
「でしょうね」
「つまんなくない?」
「いやー、さすがにクラッカーはいらないんじゃない?」
彼女との会話も雰囲気も、今までと何も変わらない。
高校生の放課後。いや、昼休みに近い感覚。
「あのさ、先にプレゼント渡してもいい?」
「サプライズの?」
「そう!多分めっちゃびっくりするよ!」
彼女はワクワクした様子で棚を開け、中からまあまあ大きい紙袋を取り出した。
「まずはリハビリ卒業おめでとう!」
渡されたのは折り紙でできた花束。
20はあるんじゃないかという花が、花紙とリボンで飾られている。
「え、これ手作り?」
「そうだよ!ぜーんぶ1人で。すごい?」
「うん、めっちゃすごい。マジでびっくりした」
「作成大成功!」
「ありがとう。手先器用なんだな。こんなの初めて見た」
「実はなんと!これだけじゃないんだな」
「マジで?」
次に棚から出してきたのは、ピンク色の封筒。
「こっちが誕生日プレゼント」
「2つも?」
「もちろん!」
「ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ!」
桜柄のマスキングテープをはがすと、中には黄色いミサンガが入っていた。
「ゴールデンウィークに、小児科のイベントでミサンガ作りがあったんだ」
「え、これも手作り?」
「うん。しかもお揃いにしちゃった」
彼女はパジャマのポケットから、黄色いミサンガを取り出しドヤ顔でミサンガを振っている。
「黄色いミサンガの意味は幸運なんだって」
「そういえばそんなのあったね」
「正都くんに幸せが訪れますように、って作ったんだ」
「ありがとう。こんなの初めてでびっくりした」
「こちらこそ、今までありがとう。本当に楽しかった!サプライズ成功です」
目の前の彼女はお手本のような笑顔だった。
「最後まで普通でいて欲しいってお願いを聞いてくれてありがとう」
一貫して変わらない彼女のお願い。
普通の友達でいること。
「10か月も一緒にいてくれて、タコパもしたし誕生日も祝ってもらったし」
「あのさ、俺たちまだ……」
「――卒業だね」
「……もうリハビリがないから?」
「うん、今日が約束の期限だもん」
「でも」
「――お願い。最後は笑ってバイバイってしよう?」
「……わかった」
「正都くん、バイバイ」
「あぁ、バイバイ。またな」
彼女が望んでいること。それはきちんとお別れすること。
彼女の顔を見て、手を振り、1つ意地悪を言って部屋を出た。
事故に遭う前の俺と今の俺。
ただ元の生活に戻るだけ。ただの高校生。
彼女の最後の言葉を聞いて、自分に何度も言い聞かせた。
これが普通だと、自分は今までも平凡な日常を送ってきたじゃないかと。
彼女がそれを望んでいる。
……俺は眠れない夜、自分にそう言い聞かせることをやめた。




