17話 誕生日プレゼント
2人きりになった部屋で、俺はニヤニヤしている彼女を無視して椅子に座った。
「あのさ、事前にもう少し説明してよ」
「こんなタジタジな正都くん初めて見た!」
「うん、だってこんな状況初めてだからね」
「んー、陽菜子ちゃん誕生日だから許して?」
「はいはい。それよりプレゼント持ってきたんだけど、渡してもいい?」
「ん?今日来てくれたよ」
「いや、誕生日なんだからちゃんとプレゼント用意するよ」
「あ、もしかしてお手紙?」
「え、ごめん。違うんだけど手紙の方が良かった?」
「そうじゃないけど、その、高校生のプレゼントって……何かな?」
無邪気な笑顔を見ると、彼女のペースに流されてしまう。
俺はもじもじしている彼女に、勝手に用意した赤いラッピングの巾着を手渡した。
「ほ、本物!?開けていいの?」
「どうぞ」
百点満点の笑顔でルンルンとしているが、なぜかその手はバタバタしている。
俺は黙って見守っていたが、リボンはどんどんギチギチに結ばれていくばかり。
「へへっ、あ、開かない」
「どうしたらこんなふうになるんだか。よければ俺開けるけど」
「ほんと、おかしいな~。不思議だね」
笑いながらさらっと袋を渡してきた彼女に、なんとかこじ開けた袋を返却する。
「可愛い!ピンクのくしだ!」
「な?これはくしだよな」
「え、うん。もしかして正都くん、くし知らないの?」
「あのさ、女子高生はこれをコームって呼ぶらしいよ」
「コーム?いや、私もコームって呼んでるよ?」
見え見えの嘘と、突然のドヤ顔。
鈴が鳴るように笑う女の子がプレゼントを眺める様子を、俺は頬杖をついてただ静かに見守った。
「正都くん、本当にありがとう!」
「誕生日おめでとう」
「絶対大事にする!」
「そう言ってもらえてよかった。話変わるけどさ、なんか制服着てると本物の女子高生って感じだな」
「正都くんに合わせてブレザーにしてみたんだ」
「似合ってる」
「あ、ありがとう。なんか、恥ずかしいね」
「陽菜子ちゃんなんだから堂々としてればいいじゃん」
「な!きゅ、急に名前で呼ばないでよ」
「さっき自分で言ったんじゃん。俺を驚かした仕返し」
「何それ!っていうか、めっちゃ恥ずかしい……」
「ほんと、お前普通の女子高生じゃん。今、制服着て教室で話してる感覚だよ」
半分嘘。
唯一話せる女の子は竹田さんだけで、竹田さんとこんなふうに話したことはない。
つまり妄想も混じっているが、許してほしい。
これは男子高校生のノリだということにしておこう。
「本当!?私女子高生じゃん!」
「うん、だからそう言ってるんだってば。そんで残念だけどもう時間」
「もう終わりか~」
「ここでチャイムが鳴れば最高なんだけど。そしたら自分の席に戻らなきゃ、みたいな気持ちになれたのにな」
「何それ!面白いね」
「今度やろう。あとさ、チェキうまく撮れてるか見ておこうぜ」
机の上に並んだ7枚のチェキは、綺麗に撮れていた。
ちなみにこれが俺の人生初チェキとなった。
「今日は来てくれてありがとう!また日記書くね!」
「うん。じゃあまたな」
「またね!」
後ろ髪を引かれる思いでゆっくりとドアを開けると、彼女の母親が優しい顔で待ってくれていた。
俺は小さくお辞儀をする。
しかしその後ろには、先ほど見かけた男性が立っていた。
「えっと、正都くん?」
「あ、はい」
「あのー、陽菜子の父です。この後少し時間あるかな?」
「はい」
「おじさん奢るからカフェに行かない?」
「カフェは全然、その、もちろん。でもお金は」
「大人の僕に払わせてもらえないかな」
「じゃあ、えっと、お言葉に甘えて」
誘いを断るわる勇気も理由もない俺は、気まずい空気の中彼女の父親ついていく。
しかし何か話しかけられることもないままカフェに到着。
気がついた時には、買ってもらったカフェラテを持ちテーブルに向かい合わせで座っていた。
「えっと、まずは陽菜子と仲良くしてくれてありがとう」
「いや、あの、こちらこそ……」
「陽菜子はね、もともと明るい性格なんだ。入院してからもずっと聞き分けの良い優しい子だよ」
「それはもう」
「笑顔も可愛い。でも優しすぎるし、とても気の利く子でもあるんだ」
「そう、ですね」
「でも最近君の話をする陽菜子は、僕の知らない顔で笑うんだ」
「えっと?」
「日曜日の面会。必ず会いに行くけれど、親ばっかりが喋ってる。陽菜子はニコニコ聞いてるけど、それだけなんだ」
「えっと……」
「今は違う。正都くんがこう言ってたとか、これについて何か知ってる?って自分か質問しれくるようになった」
「その、すみません……」
「どうして謝るんだい?」
「えっと……、親子の時間を奪ってしまって?」
「それは違うよ。一方的にどちらかが喋るのは会話とは呼べない。だから正都くん、君には本当に感謝してるんだ」
「それは、よかったです」
「ただ大人として、正都くんに聞きたいことがある」
その一言で、うすうす思っていたこういう日がいつかが来たんだと思った。
彼女のことをどう思っているのか?好きなのか?愛しているのか?
俺は彼女に対して恋愛感情はないが、周りからみたら……わかっている。
生半可な覚悟で関わるな。そう忠告されることもあるだろうと思っていた。
だから、俺はその後の彼女の父親の言葉に驚いた。
「正都くんは無理をしていないかい?」
「へ?」
「引っ込みがつかなくなったのなら、それは違うと思ってね」
「それはほんと、全然無理じゃ……。むしろ俺は迷惑をかけてるかもしれません」
「陽菜子が外に出られないか聞いてくれたことがあったね」
「あ……、勝手なことしてすみませんでした」
「陽菜子はすごく喜んでいたんだ」
「ぬか喜びさせちゃい、ましたかね……」
「陽菜子は最初から答えをわかっていたよ。嬉しかったのは、君が自分のために何かしてくれたということだ」
「でも、それは俺が……」
「親としては、この誕生日にすごく驚いたんだ。なんせ陽菜子が何かをやりたいなんて、入院してから初めて聞いたんだよ」
「え?」
「陽菜子の夢の話も初めて知った。誕生日プレゼントだって毎年いらないって言って」
「えっと」
「友達とパーティーをするとか、制服を着てチェキを撮りたいとか。僕はちょっと泣いたよ。だから陽菜子と友達になってくれて本当にありがとう」
「俺は……、陽菜子さんの友達です。会える時間は少ないけど、これからも友達でいたいです。その、特別なこととかできないですけど……」
「正都くんが普通でいてくれることが嬉しいんだと思うよ。これからも無理のない範囲で仲良くしてくれると、おじさん嬉しいな」
「ありがとうございます」
「もしよければ連絡先、聞いてもいいかな」
「もちろんです」
「陽菜子とは交換しないのかい?」
「……陽菜子さんの時間は限られています。携帯でいつでも繋がれたら……自分がどう接するようになるのかわかりません」
「一応理由を聞いただから、そのままで大丈夫。陽菜子は元気だけど病気は未知の世界だから、万が一何かあった時は連絡させてもらってもいいかな?」
「お願いします」
俺は自信がなかった。
彼女と関わるのはすべて自己満足で、本当は皆よく思ってないかもしれないしれないと。
俺の存在が、彼女に悪影響かもしれない
勝手に部屋に居つく困ったやつと思われているかもしれない。
今日彼女の父親から話を聞いて、俺は初めて自分が間違ってないと言われたような気がした。
彼女と友達であることを、第三者に認められることがこんなに嬉しいなんて思わなかった。
彼女が変わったと言っていた。
でも、俺からしたら何も変わっていない。強いて言うなら、ノートをデコるのが上手になったぐらいだ。
初めて会った時から優しくて面白いけど、人一倍遠慮がちな女の子。
ただ本当に彼女が変わったとしたら、俺といることで毎日がすこしでも楽しくなったなら……。
心がくすぐったい。
彼女の誕生日に、俺は彼女の父親からプレゼントをもらった。
俺はこれを、一生大切にするだろう。




