15話 移り変わり
1月6日火曜日。
教室の中は、まだまだ冬休みの余韻を引きずっている。
「今日から体育復帰の正都くんじゃないですか」
「健テンション高くない?」
「佐藤さんと初詣行ったんだよ。この俺が!だから仕方なくない?」
「あっそ。で、まだ付き合わないの?」
「そんなの俺が聞きたいよ」
「ま、興味ないからなんでもいいけど。それより早く着替えろよ」
「ほんと、なんでこんな寒い時にマラソンすんだろうな」
「お前は足速いんだからいいだろ」
健とは違うクラスだが、体育が合同。
年明け一発目の体育は、日記に書いた通りマラソンだ。
この寒い中わざわざやることじゃない。
ジャージを着てるとはいえ寒いものは寒いし、走ったら熱くなると教師は言うが寒さで痛くなるだけだ。
今日病院に行ったら、このことを彼女に愚痴ろう。
そう意気込んでマフラーをしっかり巻き、病院に向かった。
リハビリ後に廊下で冷えた手をこすりながら彼女の部屋に入ると、眠り姫の国はとても暖かかった。
「おじゃましまーす」
机の上にはいつも通り日記とキャラメルが1つ。
いつものように日記を手に取り、パラパラめくると挟まっていた紙が床に落ちた。
『Happy New Year』- - - - - - - - - -
去年は私と友達になってくれてありがとう!
出会いと衝撃の夏!
ハダカデバネズミが素敵な秋!
最高なパーティーの冬!
この春も楽しみにしてます(^^)v
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挟まっていたのは、彼女が書いた年賀状だった。
そこにはハダカデバネズミとハシビロコウ、たこ焼きなどの絵が色々と描かれている。
その可愛らしさと、変な季節にうっかり笑いそうになった。
でも、心の底から笑うことはできなかった。
彼女は“今年も”とは言わなかったことに気づいてしまったからだ。
俺は机の上に日記を開き、こめかみに指を当て小さなため息をついた。
『12月30日水曜日』- - - - - - - - - -
私もすっごく楽しかった!!!
ありがとう( ˙˘˙ )ノ
寝る時のこと前もって話しておけばよかったのに、びっくりさせちゃってごめんね。
眠り姫の映画を観たことある?
↑
私はあれにそっくりだそうです♡( •̀֊•́ ) ̖́-
私も「またね」って言いたかったけど、今日正都くん来てるよね?
だから「やっほー」にしておきます(笑)
ちなみに年賀状受け取ってくれた?
一生懸命書きました\\\\٩( 'ω' )و ////
P.S.
↑
かっこいいね!いつか使いたい(笑)
可愛い子が私のところにきました♡
名前は「デバミー」です!
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あの日の別れ方は無かったことにできない。
でも楽しかったあの日自体を、彼女が消さないでくれたことが嬉しかった。
それもこれも、ホワイトボード横に座っているハダカデバネズミのおかげだろうか?
彼女のせいでデバミーにしか見えなくなったそいつの横に、俺は付箋を貼った。
『初めましてデバミー、これからよろしくね/松本』
そして頬杖をつきながら、よく考えて日記を書いた。
『1月5日火曜日』- - - - - - - - - -
明けましておめでとう!
年賀状受け取りました☆
俺もハダカデバネズミの秋が楽しかったです。
今年もよろしくね(*ˆ﹀ˆ*)v
デバミー←命名センスの塊だと思います(笑)
ちなみに今日から学校でした。
寒い中2000m走らされました←可哀想。
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俺はわざとらしく「今年も」と書いた日記を閉じ、年賀状をリュックにしまった。
「またな」
冬休みの間、俺は何度も彼女のことを考えた。
俺はただの高校生で、病気のことを何も知らない。
ただ、彼女のことなら少しわかる。
彼女は明るく無邪気で、真面目な優しい普通の女の子。
俺は俺の知らないところで、彼女が色々抱えていることもわかっている。
でも、たったそれだけ。
今できる精一杯は、普通の高校生活とありふれた青春を送ること。
それしか、そう思うことしかできなかった。
だから俺は俺の普通を遂行し続けた。
『2月2日火曜日』- - - - - - - - - -
伊達が言っていたグミは、思ったより普通でした(笑)
今日から体育は、マラソンからバレーボールに変わりました٩( 'ω' )ﻭヤッター
しかしバレーボール部の友達の本気アタックは、腕がもげます(泣)
それからいよいよ期末テストです。
2月24日25日26日←最悪です( ´A` )
『2月3日水曜日』- - - - - - - - - -
ちゃんとブドウ味食べた( ・ω・)?
腕がもげたら病院に来てください。
お医者さんを紹介してあげます(笑)
テスト!それでは目標をどうぞ(= ・ω・)っ
↑
期待してます☆
『2月5日金曜日』- - - - - - - - - -
ちゃんとブドウ味を食べたよ!
もげたら困るので心配してください( ToT )
前回の結果を踏まえて、5科目平均85点を目指します!
↑
かなり高く掲げた目標です。
正直できる気がしません(>_<)
『2月6日土曜日』- - - - - - - - - -
これはケンカかな?( ・ὢ・ )
じゃあ万が一もげたら、私は優しいので救急車を呼んであげます(笑)
ちなみに苦手だと言っていた英語を期待してます☆
デバミーもそう言っています\\٩( 'ω' )و //
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俺は思っていた以上に真面目だったようで、言ったからには勉強しなきゃいけないと思った。
挫けそうになっても「紙に証拠が残ってるしな」と自分に言い聞かせ、病院の待ち時間は単語帳を見て勉強。
ナースステーションから出てきた看護師さんに「勉強頑張ってるのね」と言われて、ちょっと恥ずかしい思いをするぐらいには頑張っている。
今日はそれを自慢しようかと思いながら部屋に入ると、机の上には日記と板チョコ。
『 HAPPY VALENTINE いつもありがとう』
俺には無縁の話すぎて忘れていたが、明日はバレンタイン。
日記を開くと、大量のハートマークでデコレーションされていた。
『2月11日木曜日』- - - - - - - - - -
バレンタインおめでとう?
↑
合ってる?(笑)
レアなコンビニでチョコレートを買いました。
なぜ普通の板チョコにしたのかと言うと、本当は型に溶かしてキラキラをつけたかったからです。
だからそれをもらったと思って、口の中で想像してください"d(。•`ω-)
看護師さんに「正都くんにバレンタインをあげる」と言ったら「ホワイトデー期待してるね」と言った方がいいと教えてもらいました!
めちゃくちゃ期待してます♡
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小学生の時に流行った型に溶かしただけの……、と言うと悪いかもしれないが定番のチョコ。
彼女が作りたかったと思われるチョコのイラストが、3つ隅に描かれていた。
そしてちょこちょこ思っていた気持ちが、つい口に出してしまった。
「ここの看護師さん入れ知恵しすぎじゃね?」
彼女にリアルを教えているとしても、偏見が混ざっている気がする。
「それ加えて俺に当たり強くね?」
女子の集団という感じでしかない。
『2月12日金曜日』- - - - - - - - - -
チョコレートありがとう!
めちゃくちゃ頑張って想像したいと思います(笑)
↑
いただきます(・ω・)
ホワイトデーよりも先に、伊達の誕生日だよな!
プレゼントのリクエストはありますか?
↑
とりあえずこっちを頑張ります\٩( 'ω' )و /
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バレンタインを忘れていたのは、彼女の誕生日のことを考えていたからでもある。
俺は、女の子の誕生日に何をしたらいいのかわからなかった。
男友達ならカラオケ奢ったり、売店でジュースを買えば良い。
一生懸命考えたけど、彼女が喜んでくれるものは思い浮かばなかった。
「またな」
2月に入り、彼女の起きる時間がまた遅くなってきた。
週に2回。
紙の上で話せる時間は10分間。
それでも俺たちの会話はとても色濃く、会えない時間を感じさせない。
彼女の起床時間やイベントを通して、季節が移り変わっていくということを初めて感じた。
ちなみにチョコをもらったのも、人生でこれが初めて。
バレンタイン当日の日曜日、彼女らしい形で想像しながら自分の部屋で食べた。




