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14話 パーティー


 

 12月26日土曜日。


 

 彼女のリクエストを叶えるべく、たこ焼き屋さんを目指し栄えた駅までバスに揺られてやってきた。



「え……、考えてなかった」



 お店はすぐに見つかったが、女の子が食べる量も彼女の好きな味もわからない。

 悩んだ末に自分の好きな味を3つ買い、保温バッグに入れてジンジャエールも買った。


 久しぶりに直接話せるというドキドキと共に、病院の前に到着したのが16時30分。 

 すっかり慣れた面会受付をササっと済ませ、7階のエレベーターホールに着いたのが16時40分。


 16時45分ぴったり。俺はゆっくりとドアをノックした。


 

 ――コンコンッ

 

 

「どうぞー」

「おじゃましまーす」

「正都くん!ちゃんと赤い靴下履いてきた?」

「履いてきたよ、ほら」


 

 俺はズボンの裾を持ち上げて靴下を見せる。

 彼女は蹴り飛ばすようにスリッパを脱ぎ、自慢げに赤い靴下を見せてきた。



「完璧なドレスコードだね!ちなみに私はいつもとどこが違うでしょうか?」

「えーっと、パジャマ?」

「……」

「あ、違った?」

「いや、正解……。これはお母さんがクリスマスプレゼントにくれたの」



 猫が描かれた白いモコモコのパジャマ。

 流行りのオーバーサイズからは、小さな手が袖少しだけ見えている。



「今は猫が流行りなんだって」

「そうだね」



 俺は話を聞きながら、机の上にジンジャエールとたこ焼きを並べる。



「たこ焼きだ!」

「保温バッグに入れてきたけど、もうぬるくなっちゃった」

「ありがとう!あ、違う違う!いつもの私の違うところは?」 

「女の子みたいな質問だな」

「女の子なの!

「知ってる。でもわかんないから正解は?」

「正解はここに編み込みを入れました!」

「編み込みって何?」

「三つ編み!ほらっ!」



 言われて見れば、左耳の上に綺麗な三つ編みが並んでいる。



「可愛いでしょ?」

「うん、似合ってる」

「よかった!ねぇ、たこ焼き開けてもいい?」

「どうぞ」



 買ってきたのは3種類。

 王道のソース、ねぎとポン酢、めんたいマヨ。



「私めんたいマヨ食べてみたかったんだ!」

「それはよかった。じゃあ食べよっか」

 

「「いただきます」」



 彼女は冷めかけてるたこ焼きを、ハフハフと頬張っている。

 俺はおいしそうに食べる女の子に、えびみりん焼きをそっと差し出した。



「何ほれ?」

「たこせんっていう、たこ焼きをえびせんで挟んで食べるやつがあるんだけどいる?」

「なにそれ!」



 近所の駄菓子屋でよく食べたおやつ。

 そのお店はもう閉店してしまったが、彼女が喜ぶんじゃないかと思いコンビニで買った。

 

 彼女は俺の期待通りの顔で食べている。


 

「あ、そうだ。俺お前に聞きたいことあったんだよね」

「何?」

「誕生日いつ?」

「3月2日だよ。正都くんは?」

「5月29日。ちなみになんで日記じゃなくて直接聞いたかわかる?」

「確かに日記でよかったね。え、なんで?」

「覚えてない?」

「えっと、ごめん……覚えてない」

「それでは問題です!俺の血液型は何でしょうか?」

「急に!?な、なんだろう」

「今日は12月26日です。26-12で出席番号14番。それでは伊達さん、答えをどうぞ」

「え?え?わかんない!」

「残念、時間切れです。正解はA型でした」

「な、何それ!」 

「俺、いつか指名するって言ったじゃん」 

「ず、ずるー!じゃあえっと何番かわからない正都くんに問題です。私の血液型は何でしょうか?」

「O型?」 

「なんでわかるの!?」

「ただの勘」



 なぜかわからないが、不思議なことに彼女の前ではふざけたくなる。

 喜びも欲もあふれ、頬が緩んでしまう。

 今まで気がつかなかった、自分の幼稚な部分が表に出てしまう。

 

 俺はそんな自分をごまかすように話題を変えた。



「話変わるけどさ、お前日記デコるのうまくなったな」

「でしょ?」

「カラフルだし、絵も多いし」

「お母さんにペンを買ってもらったり、看護師さんに絵とか色つける方法教えてもらってるの。今女児ブーム?らしくて、みんなできるんだって」

「あー、納得。ちなみに俺は顔文字のレパートリーを増やしました」

「レパートリーって何?」

「種類ってこと。いっぱい書けるようになったでしょ?」



 俺たちはくだらない話を続けた。

 流行りの音楽とか、最近読んでいる漫画とか、学校の愚痴とか。

 正直、話してる内容は日記とさほど変わらない。


 周りの大人が見たら「せっかくなんだからもっと話すことあるんじゃない?」と言われそうなぐらい、俺たちは普通の話をした。



 ――俺も彼女も時間に終わりがあるということを忘れていた。



「それでね!お母さんに新しいボディークリーム買っても、らった……」


「ん?ど、どうした!?」



 突然言葉が途切れ、彼女の目が虚ろになり、体がかすかに揺れ始めた。 

 俺は目の前の状況に思考は止まったが、反射的に体が動いた。

 

 何が起きたかわからない。

 ただ気がついた時、俺は椅子から倒れ落ちる彼女を抱きしめていた。

 覗き込んだ彼女の意識はなく、その顔はベッドで眠るいつもの顔と同じだった。


 慌てて時計を見たが、まだ17時55分。

 約束は18時。


 パニックになった俺は、彼女を支えることで精一杯だった。



 ――コンコンッ


 

「ごめんなさいね。松本くんが支えてくれたのね。陽菜子ちゃん頭打ってない?」

「あの、すみません、その、なんか……」

「ありがとう、大丈夫よ。このまま私が陽菜子ちゃん支えちゃうね」

「……あの、時計が……。まだ時間じゃないのに、なんで」

「え、あ、時計止まっちゃったのね」



 バタバタ看護師さんが何人も入って来て、俺はすぐに病室から出された。

 うるさくなった彼女の部屋を、ナースステーションの前からただ眺めた。



「ほんとに、あの、すみませんでした……」

「謝るのはこちらの方よ。本当にごめんなさいね」

「いや、その……」

「これからまだ点滴とか色々つけたりするのに、ちょっと時間かかるの。もう少し待っててもらってもいいかしら」

「それは、もちろん……はい」



 俺は1人廊下で、目に焼き付いた一瞬の出来事が頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。


 彼女が眠りにつく瞬間は、異変に気がついてから30秒もなかった。

 あれは眠りに落ちたというよりも、気絶だった。


 

 ――俺は、明るく笑う彼女と静かに眠る彼女しか知らない。

 


 あの女の子は、地球の動きに逆らうことができない。 

 頭ではわかっていた現実を、静かに突きつけられた。



「松本くん、お待たせ」

「いえ、あの、本当にすみません。……次からはタイマーかけたり、気をつけるので。あの、また来てもいいですか?」

「陽菜子ちゃんのご両親に確認しておくわ」

「……ありがとうございます」



 俺は彼女と2人きりの部屋で、少し震える手を抑えながら机の上を片付けていく。

 

 それからベッドサイドの日記を開き、ボールペンを握った。



『12月26日土曜日』- - - - - - - - - -

 

 今日はありがとう!

 またパーティーしようね(*'ω'*)

 

 残念ながら時計がイジワルをしてきたから、紙の上で言うね。


「またな!」

 

 次は1月5日火曜日、リハビリの後日記を読みに来ます。

 良いお年を(*^^*)

 

 P.S.

 

 上野動物園でハダカデバネズミのぬいぐるみを買いました。

 俺の家の机の上に置いておいたのですが、どうやら病室に逃げ込んだようです。

 よければ飼ってあげてください(笑)


 - - - - - - - - - -

 


 1か月ほど一緒に暮らしたハダカデバネズミ。

 毎日眺め続けた結果、だんだんとこいつは彼女のところに行きたがっている気がしてきた。

 彼女が受け取ってくれるかはわからないが、きっとここの方がこいつにとっても幸せだろう。


 日記とぬいぐるみを机の上に置き、俺は喜びと楽しかった時間と現実を抱えて家へと帰った。



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