表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

プレハブ村の洗礼

いくつか電車を乗り継ぎ最寄り駅から相当歩く、もはや名古屋で無いのは確かだ。面接では落ちません、若くて健康であれば。次の日の朝からという事でプレハブ2階の一室に案内される。同部屋の主は坊主頭にちょび髭の青年将校だ、あぐらでジロリと見るだけだ。聖書読んで寝るとするか、支給された布団は使い古しの藁よりましかの汚さだ。電気の消した部屋で深夜金縛りに苦しんでいると、ヒュードロドドロ、ヒューと聞こえる。マジかよ、ガバと起き上がるとテレビに女のお化けが、ヘビ女だ。「うわぁー」暗闇の中で映るヘビ女の横で青年将校の不気味な顔が、「へっへっへっへっ」と喜んでいる。この野郎覚えとけよな、簡単な朝食を取り班を紹介されマイクロバスで現場へ向かう。弁当などありません、さて初日か、どんな感じだろう。

なんせ肉体労働にはブランクがある、きついきつい、なんか異常に暑い。上場企業であるガラス会社の下請け工場なのである。作業自体は説明を受ければ誰でも出来る、ボーガーッとなんか燃やしてる側での作業である、しかもいつ休憩があるんだ。監視の社員の元黙々と繰り返し作業する。気を失いそうになるので細かく何をやってたなんて覚えていない。まだ初日だぞ、休憩は30分の1回だけ、夕方6時で終了となる。さては収容所だな、住所不定の者達の寄せ場で文句も言えないだろう。

休憩といえば10時、12時、3時じゃねえのかよ、これは早くまとまった金を作って辞めないとな、と帰りのマイクロバスの中で考える。途中必ずコンビニで買い物がある、今日はスルーで買い物しない。それにしても腹減ったなあ、昼飯抜きかよ。プレハブ村に到着した、5棟からの集合体となっている。班ごとに夕飯の時間は異なるのだろう、混雑はないが食堂に入って行くとパチンコ交換所の様な窓口があって皆が我先にと並ぶので、何かわからず列に加わるのだ。先の人達のやり取りが見えるので理解した。日払い一律2千円、希望者は名前を書く、別の用紙にはビール大、酒2合とあり前借り扱いのその欄に希望者は名前を書く。ゴクリ、前借りと酒にサインすると現物が出される。ベテランの人達はそこで食事せず出て行く。先程のコンビニで弁当を買ってあるのだ。

おかずは作り置きで棚に並べてあるのだが、当時ラップって無かったっけ、そんな事ないよな。そのまま放置してあるので、黒一色のおかずの上から気配で一斉に避難するゴキブリがいる、これを食えとなもし。炊飯器から唯一安全なご飯をよそい酒を飲む、どうすりゃいいのさこの先俺はの世界に足を突っ込む。こんな離れたプレハブ村を囲むように銭湯やコインランドリー、パチンコ屋もあって小さな飲食店が多くある。佐渡の金山で労働する者見当にサービス業者がやって来るシステムなのだな。僕は飲み屋と大好きなパチンコだけは我慢出来た、汗だくの為銭湯へ行くとやはり客はプレハブ村の人間だらけだ。俺は本来エリートでこんな所にいる人間ではない、高速道路のパトロールやってたんだぞ。と聞かされる、でも現在いるでしょと思っても言えない僕なのであった。

勤務は朝からを2日やるとなぜか休憩の後夜勤へとなだれ込む、殺す気か、それも良しもう開き直るしかないのだ。翌朝マイクロバスでプレハブ村に走る際には皆開放感がある。次の勤務は1日後だ、休みみたいなもんだ、事実休みは無いのであった。どんな神経回路してんだよ、騙されてんじゃないか。いつもの様にコンビニに寄る、暗い時刻は気づかなかったが、運転手は缶ビール2本デカいの買ってきて飲みながら運転してるぞ、大丈夫かよ。僕は飲食運転は可能だろうが子供なんかにぶつけたく無い。免許は有効だが手当があるのだろう、運転手は決まっているのであった。同部屋の青年将校は夕方迄帰って来ないので体を休めるのに時間を使うので精一杯なのである。

ある日、コツコツと前借りビールも飲まない日々でまとまった給料を手にしたろう1名が夜勤明けに競馬場に向かうという。一攫千金を得てこの現実からオサラバするのだろう。班長のたまいて曰く「見える見えるぞ、居ながらにしてハッキリ見える、奴はスッカラカンになって戻ってくるぞ」。果たしてその通りスッカラカンになって一から出直しの1名がある、その日から彼はいながら君と命名されるのであった。

同僚とはほぼ会話しないが、どうしても聞いてしまった。「疲れないですか、大変ですよね」、「真面目にやっちゃ駄目だよ、手を抜かないと」。「休みは要らないんですか、休みたいんですけど」、「班長に目まいがしてぐるぐる回っていると言うんだよ、つまり病欠だ」。なる程プレハブ村では仕事に行かず寝てるだけの奴がいる、病気が治る見込みがなければ追い出されるのである。いよいよもってどないしょ、抜け出せない様なシステムが張り巡らせてあり、欲望のまま飲めや食えや前借りしてれば大丈夫だぞ。その為にわざとゴキブリまみれのおかずを置いてんだな、ああ今日は少し酔ったな夜間の小便に起きる、飛んでくるゴキブリをかき分けトイレ行くの面倒臭えな、畳んである青年将校の布団の上でズボンを下ろす。「うわぁー何やってんだ、やめろ、やめてくれ」と将校、すんでのところで2階の窓から放尿するのであった。うわあうわあ、僕は彼に向かいクックックッと笑うのである。仕返しだぞコラ、それ以降青年将校は態度を改め、ほぼ独占してるテレビの音量は小さい。

長老から貰った小さな聖書に、幸いなるかな泣く人よ彼らは慰めらるべければなり、とある。幸いなるかな貧しき人よ天国は彼らのものなればなり、とある。自分なりに考える、心について言われてるのではないかな。聖書を初めて読み解説無しで解る人はいるのだろうか、試練を与えし我が神よこれはしかと意味があるというのだな。抜け出せないシステムに給料締め日から支払いまで3週間と日数がある、全額当日日払いでない限り逃げ出せない。給料日で飛んだら会社の取り分にされてしまうのだ。

こんな処にはめられたままでいられるか、日払い2千円を少しずつ貯め退職の意向を示し給料締め日で辞める事にする。さて班長に挨拶すると良く抜けれたなあと感心する、もっともこれから3週間どう過ご

すのかのあても頼るべきものも無い。給料日の何時と確認を取り、とりあえず名古屋駅へと向かうのだ。所持金数千円では宿も取れない、季節はまだ味方していた、昼間は温かい秋なのだが、とうとうというか本来の姿というか野宿して過ごす事になるのである。

とりあえず初日は人通りの多い安全な公園にする、ギリギリ迄飲食はしない、水は公園で飲める。暗くなってさて寝ましょうとはいろんな意味でならない、安全そうといえ何があるか解らない。ベンチに座り蚊と闘いジッと考え込む、この時間が実に長い。人通り無くなった頃四方あちこちで話し声だけ聞こえる、先住民である。こちらの様子を伺ってるのだろうか、近所の夫婦らしき2名が僕を見て、毛布でも持ってこようかね、いや別にいいよ話しながら消えて行く。早朝まではというか冷え込んでくるな、太陽が昇るまでは横になれないのである。こうなると所持金は命同然、腹巻きしといて良かったな、煙草だけは吸える、ヘトヘトになってようやく仮眠だ。

ゲートボールの喧騒で目覚める、まあまだ若いのにね、という声も聞こえる。住所不定だが免許証はあるので知恵があれば上手く過ごせたかも知れない、悲しきかな世間の事は何も知らないのだ。あと何日あと何日と思い込ませる日々が続くのだ。暖かい時間帯はのんびりしていたいが、あてもなく歩く事になる。こんな状況になるから安心して寝る場所があれば、酔っ払ってコンビニ弁当も食べられるならプレハブ村に留まるのだな、少しの勇気でいいんじゃないのかい。

あても無くさまよって歩いてるようで意味はある。トイレの場所、雨が降ってきたらどうするか、歩いていれば何かあるかも知れない。一直線では駄目だ、駅を中心に戻ってこれる範囲なのである。早朝眠るのに運動の役割ともなる。久し振りに幻を見る、すれ違う人々の中に細く痩せたカップルでギターを手にうつむいている、すれ違ってふと立ち止まる、僕は何とかなる2人にお金を渡したい。引き返すが姿は見当たらない、ついさっき見たはずなのに。

今晩は駅の周辺で過ごしてみるぞ、場所によってはビル風がきつい、本能で何か暖かい風が吹きつける場所で落ちつく。まあ必ず人がいる、よおなんて言う人はスーツ姿で数日前迄サラリーマンだったと言う。夜逃げかなあ、逃げるといえば僕だって騙された80万の借金から逃げてるじゃないか。5時になったら駅のシャッターが開くので待てばいい、俺も待ってると言う。なる程なそれ迄は近辺にたむろしている事は許されない、時間になってさあどうぞでは決してあるまいがそこは目をつむる。

やはりというかぞろぞろと集まってきて待ち合い場所の様な椅子に座れる。雨風や寒さの心配から一次的に開放される、奴は何処行った、決まった場所があるのだな。見てると安全の為か6名程の集団があって、驚く事に汚れて無い女性もいる、そして金銭の管理をしているのだ。ジュース買うから金よこせと言われ財布から渡してる、自転車まで持ち込んでるぞ。まあ男どもの威勢だけは良い、なんだこの野郎ぶっ殺してやるぞと立ち上がり転んでううと言っている。

自転車を持ったぞ、ハンドルを持ち左側に立つ。左側のペダルに右足を乗せチョンチョンと勢いをつける、ん、どうやって乗るのかなあ、トリックかさては南京玉簾なのか、そんな事は無かった。ガシャーンザザザッとぶっ倒れるのである、僕は大笑いしたと思ったのだがシーンとしたままだ。感情表現さえもバカになったのだな。人が出入りする時間にはしかと追い出される、あの集団は協力してお金を得るのだろうな、小芝居を見せられたせいで仮眠してないじゃないか、フラフラと彷徨い歩く1日が始まってしまうのである。

キヨスクにてタイトルだけで文庫本を買う、阿佐田哲也先生の次郎長放浪記なるものだ。その後色川武夫先生と同一人物だと知り、本を読む様になった。最低プレハブ村迄行く交通費死守であり、少しずつパンを買って凌いでいた、体力気力が無ければ予想が現実となりドブに片足を突っ込んで死ぬかもな。死して屍拾う者無し、どっかで聞いたフレーズが風に乗って吹きつけるよ。ぶっ倒れて死ぬ時はタバコは吸うとして何か音楽が欲しいな、洋楽は勿論いいけどそんときゃ朧月夜がいいかなあと願う僕なのであった。

考えていてわかった事がある、望まれて生まれ惜しまれながら死んでいく、希望とありさぞ賑やかだろうな、だが両方ともたった1人だ。自分と向き合い自分を見つめる事は避けられ無い、知らぬ存ぜぬでは恐怖不安に襲われるだろう。見てる景色が違うだけで変わらない、変わらないんだろうな。歩いていて良い場所があった、小高い丘の上といった公園であり人はあまり行き来しない。ベンチもあり下は芝生の箇所もある、日差しがあり暖かい時間に文庫本を読む、眠くなれば芝生の上で寝れるのだ。

次郎長放浪記を読めば老人と海、蟹工船も読んだぞ。晴天に恵まれ数日を過ごす。そうなると夜に彷徨い歩く事になる、小さな神社のその場所で座っていると、賽銭箱隙間を安全な寝床としてるだろう2人組が近ずいて来る。年はまだ若いだろう、僕もなんだけど、なんだか臭うな僕もなんだけど。「よう兄ちゃん、金貸してくれ」、そうくるわなあ、こういう場面はその後もあるが、貸したところでどうやって返してくれるのかなあ。ならば正直に恵んで下さいが正解でないかなあ。まあ聞け、こういう事情で多くは渡せない、だけどこれで飲食してくれと金を渡す。逆に相手はポッカーンとなる、まあ空腹を我慢すれば良い事だ、明るくなったらプレハブ村に給料取りに行くぞ。

給料は確かに得た、中身は16万円で明細はおみくじみたいな紙があったが、いくら日払いや寮費が引かれても、そもそも1日いくらになってるのかタバコの煙なのである。名古屋駅に向かう気分はやはり違う、やり遂げた感がある。駅周辺の建物の入り口からゴミ出し作業する2名が、あの神社の2人組であり、職場はパチンコ店なのであった。おい、なにやってんだクビにするぞとゴミの様に扱われゴミ袋を持つのである。いいぞ頑張れ戻らないでくれ、闘えと切に願う僕なのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ