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第67話 双子の魔女


「…助けなきゃ!」

 自分なのか妹の花なのか、どちらが叫んだのか木葉は覚えていない。ただその瞬間、姉妹は車から弾かれた様に飛び出した。


 急いでポーチをまわり隣家に飛び込む、ふと玄関の花壇を見ると大型のスコップが立てかけてある。

 木葉はそのスコップを両手で掴むと妹と老婆の家に飛び込んだ。

 すでに家の中は炎が燻りはじめていた。

 奥の居間とおぼしき部屋で音がする。

 双子は駆け込む。

 部屋の入り口のところで父が大きな背中を半分に折られて倒れている。

 どう見て即死だった。

 横を見る。

 火の手をあげるダイニングテーブルに今まさに母が岩石の怪物におしつぶされそうになっている。


「ーーー!!!」声にならない声をあげて木葉がスコップを手に飛び掛かる。 


 予期せぬところから現れた木葉の一撃をもろにくらった岩石は母の上から離れて、真横に吹っ飛ばされた。

 大きな衝撃音とともにキッチンのコンロに燃える岩石が突っ込む。

 花がテーブルの上の母を抱き起こす。

 ひどい火傷を負っている。

 腰か背骨を折られたのか起き上がることができないようだった。

 素人目に見ても助かる見込みが薄いと直感してしまう。

 

 ゴロっと音がする。

 コンロに吹き飛ばされた岩石が動き出そうとするのを見た木葉はもう一度スコップを振りかざし、渾身の力で叩き込む。

 ドゴンっという鈍い衝撃音と共に、岩石が再びコンロにめり込んだ。


「木葉、逃げるよ!」花が動かなくなった母を担ごうとしている。


 木葉はスコップを投げ捨てると花とともに母を担いだ。

 15歳の女の子二人が成人女性を担ぐのは困難で二人は母をひきずりながら玄関に向かおうとする。

 岩石が再び動こうとするのが木葉には見えて、絶望的な気持ちになった。

 どうやってこの化物から逃げればいいのだろうか。何度叩きつけても動いてくる。


 木葉の瞳に絶望の色が浮かんだその瞬間、突如コンロの周辺を巨大な炎が包んだ。

 次の瞬間、木葉の目の前に爆炎が広がった。

 コンロから漏れたガスに岩石がまとった炎が引火したのだった。

 狭い室内は一気に炎に包まれ、爆炎が家そのものを木っ端微塵に吹き飛ばす。

 爆心にいた岩石の化け物は無惨に破片を四散させて活動を停止した。


 爆発の衝撃で木葉と花は吹き飛ばされた。

 たまたま立っていた位置が良かったからか、母を背負った状態で爆風に巻き込まれたからなのか、奇跡的に即死をせずに、二人とも同じ場所に瓦礫と共に吹き飛ばされた。

 

 全身が熱い、体の下半身がぴくりとも動かない。

 木葉は目を開ける。

 燃え盛る炎が視界がいっぱいに広がり、倒れ込んだ自分の上には大量の木材や瓦礫が積もっている。

 おそらく下半身が潰れたのか腰から下が動かなかった。

 手が火傷で真っ赤に腫れ上がっているのが見える。

 そして自分の前には同じ様に瓦礫に埋もれる妹の花が倒れている。

 彼女も同じ様に体を動かせない様だった。

 よく見ると花の背中から何かの木材が貫通しているのが見える。

 血の気が引く。自分も腰のあたりに激痛が走るのを感じた。

 おそらく二人とも同じ様な状況のはずだ。


 花の顔左半分は真っ赤な血で染められている。

 二人の目があう。

 言葉はなくともお互いが致命的な傷を負っていることが伝わった。

 一緒にこの世に生を受け、15歳の誕生日に、一緒に命を終わらせようとしている。

 その事実に木葉と花は互いに同じ事を思った。


 ー許せない。


 幸せだった日々を突然奪い、善意と正義で人を助けようとした父と母を無惨に殺し、そして自分たちの命を奪おうとしている。

 そんな理不尽な存在を許せるわけがない。

 強い怒り。感じたことがない強い怒りを抱いた。

 もし、生き残ることができるなら、絶対にあいつらを許さない、地の果てまで追い詰めて殲滅させたい。

 明確で、強烈な怒りを二人は抱いた。

 そして、もう一つ、その瞬間に自分たちにある異変が起きていることに気がついた。


 ー私、いや、私たちには「ある事」ができる。


 以前、彼方に飛行機の中で伝えた言葉をこの時、木葉は初めて体感した。


「ある日突然、自分で『それ』ができるって知っていることに気がつくの。それまでは全くやろうとも出来るとも思い付かなかった『それ』が、やったこともないに自分には出来るって確信しているの。自転車に乗ったことがないのに、乗り方はおろか乗っている時の感覚がわかる、そんな不思議な感覚」



 木葉と花は、二人同時に「ある」恩恵能力が自分に備わったことに気がついた。

 それは、天秤に似たイメージだった。


 概念をどちらかに押し付けて、その真逆の概念をどちらかに渡す。

 天秤を傾ける様に私たちの間で「その概念」を配分することができる。

 二人は見つめ合った。出来ることを理解して確信した以上、その先に何が起こるかも想像できた。



 ー私たちは、死に至る運命をどちらかに押し付けて、生きるはずだった未来の可能性をどちらかに集めることができる。

 死に至る命と生きるべき命の配分。

 私たちは片方を犠牲に、どちらかを未来に生かすことができるはずだ。


 それは瞬時に、双子の脳裏に同時に浮かんだ。

 いつだって一緒だった。

 これから先もずっと一緒だと思っていた。

 二人の目に涙が浮かぶ。

 それでも二人同時に命を落とす、という選択は二人にはなかった。

 どちらかが生き残って、必ず奴らをこの世界から駆逐する。

 強い想いが二人の胸に浮かぶ。どちらが生き残ってもそれは二人の命の可能性を一緒に生きることに他ならない。

 そして、どちらが結果的に生き残るかは二人にもわからなかった。

 天秤を傾けるのは二人ではない、それはまさに恩恵をもたらした神のみぞ知ることだと二人は理解した。




 双子たちは静かに目を閉じる。そして、念じる。


 私たたちには『それ』ができる。

 私たちは死の未来、死の運命を配分する。

 必死の思いで二人は手を伸ばす。

 痛みに耐えてゆっくりと互いの指が伸び、二人の手が絡む。

 にぎりあった手のひらから、静かに柔らかな白い光がやがて漏れる。

 双子たちは強く、強く、瞳を閉じる。そして念じた。



 ー私たちは、命を配分する。




 木葉はゆっくりと目を開けた。

 無機質な室内に置かれた銀色のストレッチャーが照明に鈍く光って目に沁みた。

 動かないはずの遺体を乗せたストレッチャーからギシッと音がした。

 静寂に包まれていた手術室に弱々しく小さな咳が響く。

 木葉は片方のストレッチャーをそっと見る。頬にやや赤みが戻っていている。


 まだ意識もなく瀕死の重症に間違いないがそこに死の香りはない。



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