第66話 木葉と花
白兎木葉とその双子の妹、白兎花は静岡県沼津市の出身だった。
静岡県東部、伊豆半島の付け根に位置する全国的にも漁業が盛んな町にあって、いたって普通のサラリーマンの家庭に生まれた。
両親ともに地元出身で、父は市内に本店をかまえる地方銀行に新卒で入行してからずっと同じ銀行で働き、高校の後輩だった母と若くして結婚した。
母は名古屋の大学を卒業するとそのまま静岡県内のメーカーに就職したが、父との結婚を期に退社して地元の沼津に戻り、双子を産んでからは主婦として家庭を支えていた。
両親共にまっすぐな真面目さと健やかな正義感を持ち、双子の子供達にもそれは受け継がれた。
真面目で周りに優しく、容姿端麗で可愛らしい双子は名前と同じく樹木のように真っ直ぐで、花々のように可憐だと近所でも評判だった。
木葉も花もお互いに容姿がそっくりの一卵性双生児で、どこに行くのも何をするのもいつも一緒だった。
木葉は妹の花のことを、姉妹であり親友であり、文字通りもう一つの自分のように感じていた。
その日は二人の15回目の誕生日だった。
桜が咲き誇る4月の土曜日だった。二人は中学3年生になったばかりでその日は所属する女子バスケットボール部の練習は休みで、二人は午後に父親が県内の大型のアウトレットに車で連れて行ってくれるのを楽しみにしていた。
誕生日プレゼントは部活の新しいシューズがいいか、学校の女子の間ではやっているブランドの服がいいか、なにかそんな話を二人でしていたのを木葉は覚えている。
最初に大きな音が聞こえたのを木葉は覚えている。
事故や事件より、何かの災害を連想させるほどの大きな音だった。
木葉はすぐにその音で小学生の頃にテレビで見た渋谷の『ホール』を思い出した。
毎年、世界のどこかや日本のどこかでホールができたニュースが流れていた。
日本国内では北海道千歳市をはじめ、大災害となった渋谷、2年くらい前にはお隣の神奈川県は相模原市でもホールが発生して大きなニュースになった。
ただ、どこか自分の街とは遠いところの出来事でまさか自分の住む街に起こるとはその日までは思っていなかった。
木葉の直感は正しかった。
その音は双子の誕生日に国内9番のホールとして沼津ホールができた瞬間だった。
二人はしばらく部屋で外の様子を伺っていたが、やがて外で車の準備をしていた父親が慌てて部屋に入ってきて、すぐに避難をすると言われて初めてことの重大さに気がついた。
スマートフォンや財布やらを急いでリュックに入れて玄関に走る。母親も通帳やカード類、貴重品などを慌てて鞄に詰めてリビングから出てきた。
父親が車に乗り込み、エンジンをかける。
母が助手席に、双子は後部座席に飛び込んだ。
車を出そうとして往来の様子を見て木葉は驚いた。
住宅の間を小さな燃える岩石の様な化け物が飛び交っている。
大型のクッションから洗濯機くらいありそうな大きさの岩石が真っ赤に炎を纏いながら飛び跳ねている。
飛び跳ねながら、走って逃げる人々の背中に落下したり、家屋に飛び込んで爆発を起こして火災を引き起こしていた。
あたりは至る所で火の手が上がり、煙が立ち上っている。
ーこの街は助からない。
木葉は見た瞬間に悟った。もう自分は2度とこの街にもどってくることがないかもしれない、と。
タイミングを見計らって車を前進させようとしていた父親が急にブレーキを踏んだ。
「…くそ、ちょっとまっていろ」父は言うと車から飛び出した。
横を見ると隣の家の老婆が玄関先でへたり込んでいる。
外の様子を見て腰が抜けてしまっている様だった。
隣家の老婆のことを木葉はあまり好きではなかった。伴侶を随分とまえに亡くして、子供もすでに家をでているのかいつも一人で何かぶつぶつと文句を言っているお婆さん、と言うイメージだった。
木葉や花も小学生の頃からよく道で遊んでいると、それを見た老婆が突然なにかが気に入らないのか怒り出して恐ろしかった記憶が何度かある。
父は動けなくなった老婆を車に一緒に乗せようとしているようだが、へたり込んでうまく動けず四苦八苦している。
見かねた母も飛び出して二人で両脇に抱えて車に戻ろうとした。
その矢先だった。
突然、双子が乗る車と両親達の間に燃える岩石の化け物が落下した。
岩石は固まる両親と老婆の三人を前にゆっくりと浮かび上がった。
木葉には肉食動物が獲物を逃さない様にタイミングを測る様な動きに見えた。
父と目が合う。
父は岩石の化け物が子供達の方に行かない様にしなければ、と思ったに違いない。
老婆を伴いながら父と母はジリジリと後退する。
その瞬間、今までへたり込んでいたのが嘘の様に老婆が両親を化け物の方に押し倒して走り出した。
老婆が通りに出て車の前を通って走っていく。
予期せぬ動きに父と母は倒れ込む。
岩石の化け物が父と母に襲いかかった。
二人は辛くも避けるも、衣服に火がつく。
化物から逃げるように、家主の老婆が逃げていなくなった扉が開いたままの隣家に両親は逃げ込んだ。
岩石の化け物はその動きを逃さぬ様に追いかけて隣家に入って行った。
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