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第64話 覚悟の形は


「ーとりあえず、基地にご遺体を運ぶ他なさそうだな。ガルシア」


 ジョイスが諦めたように丈二郎に同意を求める。

 丈二郎は乾いた声で小さく「そうだね」と呟くと移動をするために周りの状況を把握しようとした。

 その時聡明に無線が入った。


「…藤、私だ。浅野だ。そちらはどうなっている、状況報告をしろ」

「浅野さん、たった今、行方不明だった要人2名を発見した。ただ、和新党秘書長も台湾電子常務もすでに我々が戦地に入った時には死亡していたことが分かった。今から亡骸を基地に移送するところです」

「米軍と中国は?」

「ザ・ファーストとの遭遇から共同で動いてますので、両軍とも一緒です」


 通信の向こう側でしばらく浅野は押し黙った。

 沈黙ののち異論を認めないという口調で指示を出す。

「藤、両軍を離脱させて指定する病院へ両名の亡骸を移送してこい。白兎を使う」

「…は?今なんと」

「白兎を使う。これは命令だ。俺じゃない。早川陸将補が直々に鹿島田総理から密命を受けている。秘書長と常務の行方不明レポートが上がった際に、両名に万が一のことがあれば『白兎を使うように』と。日本政府としては米中に先んじて、台湾への貸し借りをより強固にしたい意向だ。どちらかでも助かれば今回の自衛隊派遣は成功だ。適応者部隊の海外派遣を推し進めたい総理としてはこの成果で野党や与党内の抵抗勢力に釘を打ちたいというお考えだ」

「…浅野さん、白兎は政治のオモチャじゃない」

「青臭い考えはやめろ、貴様も軍人だろ。自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣だ。軍事力が政治の手段の一つでなくてなんになる。軍人が政治の道具ではないなど片腹痛いわ」


 聡明は押し黙る。

「本件の命令無視は重大な規律違反だ。降格どころではすまないだろう。そうなれば貴様の外特機動隊は解体だ」

 浅野2佐は少し間をおいて低い声で言った。

「守るべきものを間違えるなよ、藤聡明」

 

 通信が切れた。

 聡明は小さく息を吐く。

 逃げ場がないどころでない。退路もないようだった。


「聡明。あいつら、木葉に力を使わせるつもりなのか。僕は反対だ。1度使えば必ず巻き込まれる。今回だけの保証はない。政治の世界に恩恵という魔法を持ち込んだら彼女は本当に現代の『魔女』になる。その悲惨さは歴史が証明しているんだ。木葉はまだ子供だ、彼女をジャンヌダルクにさせてはいけない」


 横で話を聞いていた丈二郎がこれまでにないくらい熱くなって聡明に食ってかかった。聡明は丈二郎の心配することは痛いほど分かったし、気持ちは同じだった。


「丈二郎、俺も同じ気持ちだ。ただ、鹿島田総理から直接きている。ブラフじゃなくて早川陸将補は命令違反を許さないだろうし、宮川もこの作戦の失敗に乗じてくるだろう」

「…外特機動隊の解体と横須賀クラスの掌握か」

「あぁ、俺らの力の及ばないように徹底的にやってくるだろう。宮川は適応者部隊を自分の傘下にするためには手段を選ばない。今度は梶が谷先生も何もできないかもしれない。丈二郎、やるならこっちも覚悟が必要だ。袂を分かつ、その覚悟で市ヶ谷の『大人たち』と戦う必要がある」

「…」

 丈二郎が珍しく深く考え込んだ。

 単純で感情的な造反は、明らかにうまくいかない。自衛隊からの離脱して適応者だけの軍事集団が成立するとは到底思えない。

 何かしらの後ろ盾が組織として生き残るには必要なことがは明白だ。

 仮に自衛隊を離れてもいまと同じような人的かつ経済的なリソースを確保するすべがなければならない。

 妙案はないがこの課題は今後付いて回るな、と丈二郎は懸案事項として考えなくてはと悩みを深めた。


 聡明は息を短く吐くと気が抜けたように言った。

「でも、たまには向こう見ずなのもいいかもな」

「ん?」丈二郎は意図がわからず聞き返す。

「考えても答えがないなら、一か八かさ。もとより心の声に従うのもいいかなって。最悪喧嘩になっても俺たちを倒せるやつは自衛隊にはいない」と爽やかな笑顔で答えた。

「…お前なぁ、それは思考放棄だよ…。まぁ、でも最適解がないのも事実だね」

 そうである以上、思い悩んでもしかたがないのは事実な気がした。そもそも、当事者不在で話すことでもないな、と思い当たり後ろに固まっていた横須賀クラスの3人に視線を送った。


 木葉と目があう。

 強い意志がこもった目だった。

 丈二郎は心臓がどきりとするのを感じた。そこにいたのは強い決意を秘めた一人の人間だった。

 この子たちを子供扱いしすぎて1人前と考えないのは、道具のように考える大人たちと大差ないのかもしれない。

 彼女には彼女の人生と、生き抜くための目的や想いがあるのだ。

 丈二郎は木葉に向き合った。

 木葉は揺れ動かない強い意志で口を開く。

「私、やります。助けられる命があるなら、私がそれをやらないのはありえない。それが誰であろうと関係ありません」

「木葉、これは怪我した隊員を治すこととわけが違う。必ずその反動は、大きなうねりとなって君に返ってくる。君の事を欲しい人も、君を消してしまいたい人も、たくさん出てくる。僕は反対だよ」

「先生。後のことは関係ないよ。私は、許さない。突然あいつら外敵に命を奪われる。こんなことを許しちゃダメなの。だから私はやらないといけないの。そうじゃないと、『あの子』に怒られる」


 丈二郎は言葉を飲み込む。

 ーあの子に怒られる。

 レポートで読んだ木葉が横須賀クラスに来るまでの経緯を思い出す。誰も、彼女の想いに踏み込むべきではないな、と丈二郎は悟る。


「…後のことは関係ないよ、か。一番向こう見ずなのは木葉本人だね」

 丈二郎は苦笑しながら、乱暴にわしゃわしゃと木葉の頭を撫でた。

 そして、振り返ると明るく聡明に告げた。

「聡明、逆にやってみるか。最悪、良からぬことがあれば、全部ぶっ飛ばそう」

 聡明は意外な展開に驚いたが、二人の様子をみて心を決めた。

 ジョイスと劉将軍に告げる。

「二人とも悪いが、本部の指示でご遺体は自衛隊の方で指定病院に移送させてもらう。発見したのは我々だ、お譲りいただこう。我々のエントリーポイントを経由するので、米中両軍ともにそこまででよければお送りしよう」


 劉将軍は肩をすくめると「私は義理と筋は通す。ここにいるのは貴様たちの功労だ、好きにするといい」と言った。

「助かるよ。将軍、またどこかで会おう。そのときは腹を割って色々話そう」

「ふん。周愛玲、金宝嘉、いくぞ」

 劉将軍は2名を伴うと、「転移は不要だ。我々は自分たちのポイントに戻る」と告げて会議室を後にした。


 ジョイスは劉将軍が出て行くのをみると丈二郎を見て口を開いた。

「私も、バカな部下を迎えにいかなくちゃだね。ガルシア、残念だけどここでお別れかな。今度沖縄で会おうよ。キャンプ・シールズの裏に美味しいバーガーショップを見つけたんだ」

「うん、必ずいくよ。ジョイス、体に気をつけてね。元気で」

 少し寂しそうにジョイスは丈二郎を見つめたあと、木葉の前に歩み寄ると屈んで膝を折り顔を覗き込んだ。

「初めまして。ジョイス・マッカラーズよ。貴方が何をしようとしているのか分からないけど、これだけは言える。自分の生きる道、自分のやり方を誰かに委ねたらだめよ。さっきの貴方、カッコよかったわ」

「…あ、ありがとうございます…あの、私もあなたみたいになれますか?」

 木葉は突然の会話に緊張しながらも、憧れの人物へ思わず問いた。


 ジョイスは目の前で緊張で頬を赤らめているティーンエイジャーを見て、少し懐かしいような、遠い日の自分にあった様な気持ちになった。

「あなたはあなたよ。誰にもならないわ」

 優しく笑みを浮かべると言葉を繋げた。

「…でも、そうね。私もあなたのようにあれるように、日々自分を戒めているわ。自分の人生の手綱は誰にも握らせない。私は私の人生を乗りこなすの。だから、私たちはすでに一緒ね。これからも共に頑張りましょう」


 じゃ、と言うとジョイスは凛とした歩みで颯爽と部屋を出て行った。

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