第63話 生存者
雑居ビルの屋上にいた、劉将軍と周愛玲、金宝嘉の中国の3人とジョイス、そして横須賀クラスを含む自衛隊6名の総勢10名で彼方が指示した雑居ビルの屋上に丈二郎の能力で転移した。
先ほどのビルより狭く細長い旗竿地に立つ古い雑居ビルだった。
大通りから奥の路地の入り組んだところにあり、ホールからは200〜300メートルとは離れていそうだった。
もしこのビルに捜索対象の二人がいるのであれば、隠れるにはもってこいという立地の風貌のひっそりと立つビルだった。
知らなければ目の前を通り過ぎても不思議ではない、そういう雑居ビルだった。
屋上のドアを聡明が錠前を切り落とすと、薄暗く埃が舞う階段を降りていく。
聡明、丈二郎、その後ろに案内役として彼方が続いた。ジョイスと劉将軍も後に続く。
表示を見ると11階建ての雑居ビルのようだった。上層階はファジャルの津波による被害を免れているようで乾いている。
9階の踊り場に来た時に彼方が「多分、ここ」と短く言った。
聡明が階段の下を見ると8階まで浸水していたようだ。
下の階にいて津波から避難して上がって来たのか、たまたま奇跡的にギリギリのフロアに隠れいていたのか、いずれにせよここ9階のフロアであれば津波の被害には合わなかったようだ。
聡明が、何かの会社のフロアだったであろう扉をゆっくり開く。
軋む音がフロアに響く。聡明たちが薄暗いオフィスに歩み入る。
懐中電灯で探る。放置されたオフィスの机たちの上には仕事中だった書類の束や伝票の類やペン、飲みかけのお茶が置かれている。
背広が引っかかった椅子が慌てて逃げた人々の様子をものがたる。
ここのオフィスにいた人々は果たして無事に特忌区域の外に逃げられただろうか、と彼方は心配した。
奥の会議室で小さな物音がする。
聡明と丈二郎が目線を合わせて、速やかに会議室の前に移動する。
一気にドアを開けると中に二人で雪崩れ込んで武器を構える。
広めの会議室の奥の壁に2名の黒服の男が手を挙げて震えている。
一人は額から血を流し、もう一人は片手で脇腹を抑えているがシャツと背広が出血で真っ赤になっている。
2人とも満身創痍で声も出せずに聡明たちを震えながら見ていた。
黒服達の前に男性が二人横たわっている。
一人は太った白髪の老人、もう一人は眼鏡をかけた細身の30代ごろの男だった。
額から血を流している黒服の男が絞り出すように言った。
「救我們…!(意:中国語で助けてくれ)」
聡明は刀をしまって急いで駆け寄る。
「我々は救助に来た、海外の協力部隊だ」聡明は安心させようと怯える二人に伝えた。
黒服の二人は見た感じ警察か、SPのようにみえた。
聡明達と違ってオープンイヤー型の翻訳デバイスをつけていなく、周愛玲が割って入り聡明の言葉を二人に中国語で訳した。
次第に暗闇に目が慣れたのか、聡明は黒服の二人の前に横たわる人影の顔が見えてきた。
「…丈二郎」聡明は丈二郎に見えるように横にずれる。丈二郎も確認して短く息を吐いた。
「ビンゴ…か…」
彼方が察知したように二人は重要行方不明者として捜索していた、和新党の蔡鳳鳴秘書長その人と、台湾最大の企業であり半導体製造の地政学の要になる重要企業である台湾電子集積の次期トップの楊安可氏だった。
丈二郎の脇からジョイスが覗き込んで、その場の誰もが一目で察知したことを言葉にした。
「遅かったか…二人とも亡くなっている…」
蔡鳳鳴秘書長も楊安可氏も、ともに外敵にやられたのであろう胸部と腹部に鋭い傷を負っている。
二人の黒服SPが命からがらこの場に両氏を連れて避難をして、救援を待つ間に亡くなったのだろう。
劉将軍が中国語で黒服の二人に、いつまで二人は生きていたか、何があったかを問いかけた。
憔悴しきった黒服達の声が翻訳デバイスを通して聡明や彼方たちの耳に届く。
「…いきなり大きな音が響いて、ホールができたんだ。我々のすぐそばだった。他のVIPとともに急いで距離を取ろうとしたが町中が混乱してダメだった。我々とお二人だけになったが、この路地に入る直前に我々全員が骸骨の化け物にやられた。なんとか人混みに紛れてこのビルに逃げて会議室に隠れたが、ここに隠れてしばらくてして先に秘書長が、それから夕方になった頃には楊常務も亡くなった」
息を吸い込むのを辛そうにしながら、報告する黒服は自身の任務であった警護対象の要人を死なせてしまった自責から喉を震わせて涙を堪えられずにいるようだった。
聡明は腕時計を見る。
すでに時刻は23時をまわっていた。
聡明たち自衛隊が特忌区域に救助に入った時にはすでに二人は亡くなっていることなる。
心の中で短く息を吐く。
いつもそうだ。奴ら、外敵は突然やってきて日常を壊し誰かの大切な人を消し去る。
許してはならない、強く心に怒りが湧き上がるのを感じる。
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