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第62話 気配


「これじゃ手ぶらだ。とんだ災難だ。この状況では行方不明者も望めないな」


 劉将軍が苦々しそうに口にした。

 ジョイスも同意といった表情を浮かべた。

「不本意だが、ホールが静定された以上長居は無用。合衆国は撤収させていただく。蟲の王とはまたどこかで競い合いたいものだな」

「興味がないな。貴様の正義ごっこに付き合うつもりはない。次、邪魔立てした時はそれが貴様の最後だと思ったほうがいい」

 劉将軍が忌々しいといった表情で応酬した。


「なんでそんなに歪み合うかな、この後みんなで飲みにでもいく?僕、台北で美味しいお店知っているけど。意外と将軍はお酒弱かったりして」

 丈二郎が割って入り、おどけたように言う。

「裏切りの呂布風情が私を愚弄するのか」と劉将軍が聞きづてならないといった様子だ。

「意外と冗談が通じないタイプなんだな。その三国志ネタ、みんな使っているの?ひょっとして中国でも田舎の流行りだったりして」挑発するように丈二郎が応じる。

 劉将軍は言われたくなかったのか、丈二郎の言葉にムッとした表情をした。


「まぁ、一旦はいいじゃないか。この、高雄ホールが落ち着いた。他にこれ以上の成果はない。最後はどうあれ、我々はそれぞれ貢献した」

 聡明が2人の言い合いを諌めようと被せるように場をまとめようとした。劉将軍は興を削がれたといった顔をして丈二郎に告げる。

「改めて、周と金を避難させた事に感謝を伝える。我々も作戦が終了であれば速やかに北京に報告にもどるとしよう」


 劉将軍は配下の2人をつれてビルを降りようと踵をかえした。

 将軍の部下の金が小さくお辞儀をして劉についていったが、もう一人の部下の周は怒りを込めた強い眼差しで丈二郎を睨みつけた後に劉将軍についていった。

 丈二郎はそんな3人を見て彼らと今後共闘していくにはなかなか骨が折れそうだなと苦笑した。ただ、良くも悪くも劉将軍の人となりや性格がよくわかったのは今回の成果と言えた気がした。


 去り行く劉将軍たちを眺めながら、その後ぷつりと会話が途絶えたXの気配を探った。

 かつてないほど自分を死地に追い込んだXは丈二郎に能力を返した後は一切の干渉をしてこなかった。

 刺激が少なくて育たないデウカリオンに対して「お話」を進めるために奴は今回干渉してきたと言った。つまり今回の死地を作り出すことで、彼方に何かしらの目的やプランに即した成長を狙ったことになる。

 一体奴らは彼方に何を背負わせて、何をさせようとしているのだろうか。

 

 気配がなくなったXがまだどこかから自分たちを監視しているのかは分からなかったが、おそらくは今回はこれ以上のアプローチはなさそうだな、と直感した。恐らくある程度の目的をXとしては果たした、と見るべきだろう。



 ふと、誰かが自分の背後で背中をつっついたのを丈二郎は感じた。

 振り返ると彼方だった。


「せ、先生、間違っていたらごめんなんだけど」

「どうした?彼方」

 彼方はこの場で発言するのを躊躇しているようだったが意を決したように告げた。

「たぶん、あっちの方のビルの上の階にだれかが隠れている気がする」

 彼方は奥まった雑居ビルが密集する裏通りのビル群を指差した。丈二郎は北九州の時の彼方の脅威的な聴力と捜索能力を思い出す。

「聞こえたのか?誰がいる?」

「うん。怪我しているみたい。たぶん、民間人。もしかすると探していた人達かもしれない」

 場の空気が一瞬止まったのが彼方もわかった。

 ビルを降りようと非常階段のドアを開けようとした劉将軍たちが立ち止まって振り返った。

 ジョイスも本隊との通信をしていたのをやめた。

 丈二郎が真剣な表情で彼方に聞く。


「場所、わかるかい?」

 彼方は力強く頷いて、目当てのビルの方角を見た。


「聡明!」丈二郎が呼びかける。

 聡明は彼方の能力に驚いた表情をしたが、すぐに意を決した。米中に話がきかれている以上はここは隠さないほうが今後の貸し借りに優位と判断した。


「劉将軍!マッカラーズ少佐!捜索対象だった蔡鳳鳴、楊安可の両氏の所在が判明したかもしれない。同行してともに救助にあたろう」

 劉将軍もジョイスも同行を申し出たことに驚いた表情をしたが、すぐに二つ返事で同意した。


「丈二郎、全員で転移して向かおう。一刻を争うかもしれない。急ごう!」

【お願い】

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