第60話 奇跡の子供
ザ・ファースト。始まりの子供。原初の恩恵。
インドネシアの恩恵能力者で、世界で『初めて』恩恵を手にした適応者であるファジャルの異名だ。
ファジャルはインドネシアはスラウェシ島の出身だ。
標高3000メートルを超える高山を中心に複雑な地形を持つ独特の島で、美しいビーチと豊かな海に囲まれた南国の大きな島だ。
ファジャルはその島で漁師の家系の子として生まれた。幼少期から父の船に乗って漁を手伝い、海で遊んだ。ファジャルにとって海と砂浜は故郷そのものだった。
ファジャルの異名の中に「奇跡の子供」という、今はあまり語られない異名がある。
ファジャルが8歳の時にこの美しい島を巨大な地震が襲った。
スラウェシ島地震とよばれる巨大地震で、大規模な被害を引き起こし多数の死者が出た大災害だった。
ファジャルは地震による津波によって、その日、海にさらわれた。
8歳だったファジャルはなすすべもなく、近くを流されていた倒壊した家屋の木壁を筏のようにして身を預け海上を漂流した。
潮流に流され沖の大海で四方何も見えない海の真っ只中ぽつりと浮かび続けた。
三日三晩海を彷徨い、奇跡的に再び元のスラウェシ島に流れ着いた。
発見された時に極度に衰弱していたが一命を取り留めた8歳の男の子は現地の新聞で「奇跡の子供」として報道された。
海の巨大な力に翻弄され、生死を握られたのちに生還した少年は島に戻ってきたが震災孤児となった。
震災の後に復興の名の下に巨額の外資資本が流れ込みリゾート再開発で揺れる人々の欲望が渦巻く美しい島で、海に全てを奪われ海に命を還された少年は、それでもなお海と自然を愛し孤独に育った。
やがて島に2度目の悲劇が起きる。
ホールの発生である。
最大都市マカッサルを襲ったホールは甚大な被害を出した。やがてその島からインドネシアで初めての適応者が生まれる。
海と自然を愛した「奇跡の子供」は、再び奇跡を起こす。
世界で初めての人智を超えた奇跡の力を人類にもたらしたのだ。
恩恵。
ファジャルが世に示した奇跡はやがて神から賜った恵として広く世界に知られた。
そしてファジャルはもう一つの名前を手にする。
ザ・ファースト。始まりの子供。原初の恩恵。
さまざまに形容されるその男の恩恵は「海」の力を再現、顕現すること。
全ての生命の母なる海を召喚する、原初の力にして始まりの恩恵。
確認されている恩恵能力の中で最も強力で、制御不能の奇跡の力。
ゆえに人類が扱うには過ぎた力であり、まさに神からの恩恵の力そのものであると言えた。
「ザ・ファースト。貴方がここに現れたのはインドネシア政府や軍の意向ではないと?」
ジョイスが確認するように尋ねる。
「おっさんたちは関係ないよ。僕は誰にも従わない。僕が来たいから来てみただけ。それに僕、軍とは関係ないしねぇ」
ファジャルはその場にいる面々の顔をゆっくり一人ずつ見た後に、さもがっかりしたという表情をした。
「僕は火を出せる恩恵が戦場に出たって聞いて来たんだけど。気配からしてここかなと思ったけど違うみたいだね」
ビルの下で張り詰める海面を指して、ファジャルはゆったりと天気の話をするように呑気に続けた。
「まぁ、代わりにここにいる外敵とか含めて全部僕がやっておくねぇ」
「貴様、ふざけるな!突然現れて!」劉将軍が熱くなり割って入るようにファジャルに喰ってかかるも、横にいる周愛玲が止める。
「少将、アイツはまずいです」
止められた劉将軍が冷静さを取り戻すようにグッと言葉を飲み込む。
その時、突然何かに気がついたという表情をファジャルはして、ペタペタとサンダルを鳴らして歩み寄った。
「ん?あれ、火の人はいないけどなんか不思議な子がいるねぇ」
誰もがファジャルの独特のペースに飲まれていた。
絢の隣で、突如現れたアロハシャツの男がもたらした異様な状況に横須賀クラスの面々も固まっていた。
その横須賀クラスの3人の前でファジャルは立ち止まると彼方に顔を近づけた。
「あぁ、君かぁ。火の恩恵を間違えて君だと思っていたみたいだね。なんだか面白い恩恵を持っているみたいだねぇ。君、名前は?」
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