第58話 譲れぬモノ
「…またか…なんであぁなってしまうんだ、ジャックは…」
ジョイスはジャックの乱射により倒壊したビルをホールの対岸から見て大きくため息をついて、悩ましいといった表情でこめかみをもんだ。
ジョイスはすでにホール沿いに移動しており、対岸でボスを含む外敵一団と交戦していた聡明や丈二郎たちの戦場に到着していた。
対岸の戦況を意識の外に追いやり、自らの眼前の戦いに集中する。
「ガルシア、加勢する!」と戦闘に割って入り、聡明たちが苦戦していた集団戦を毒液の広域角度で噴射して一気に形成逆転させる。
「ジョイス!助かった。悪いね」丈二郎が嬉しそうに破顔する。
「いいのよ。あなたと一緒に前線に出るのは久しぶり。懐かしいわ」
ジョイスは聡明と丈二郎を見て素早く指示を出す。
「ガルシアとサムライソードのあなたはここでボス2体の取り巻きを引き続き止めて。このぐらい間引けば押し返せるでしょう。私がその隙に両方ともボスを倒すわ」
「待って、ジョイス。やるなら一緒の方がいい。それに一対一なら僕と聡明の方があの相手なら多分強い」
「ダメよ、ガルシア。私は合衆国を背負っているの。ホールのボスはアメリカが倒さないといけない。わかって」
丈二郎は悩ましそうな表情する。
「ジョイス。言いたいことはわかるけど、国とかそう言うのを気にしている場合じゃない…」
言い終わらぬうちに、対岸で再びビルが倒壊して大きな爆炎が上がる。
「ーあれ、ジャックだろ、アイツをあんな風になるように使うなよ。アイツどんどんおかしくなってないか?」
「ガルシア。大事なのは結果。ジャックの精神はどうあれ、今は作戦に適任よ。居なくなった貴方が私たちのやり方に口を出すことは出来ないわ」
丈二郎は言いたいことを飲み込むような表情をして押し黙る。
口論する二人が手を止めるその隙にまた外敵の集団がホールから上がってきて膨れ上がってくる。
不意によく通る静かな声が戦場に響く。
「同感だな。裏切り者の貴様が米軍に進言する事ができないことも、あの頭の悪い乱射兵士を野放しにすることに反対なのも、等しく同感だ」
もう一つの対岸から劉将軍が外周を伝って到着したところだった。
自身の後方に靄のように蟲の大群が蠢いている。
「そして、テキサスのバラがあのデカブツ2体に手を出すことに私は反対だ。あのボス級は我が軍の標的だ。死にたくなかったら、テキサスのバラ、貴様は手を引け」
「あら、そんな小さな虫けら達で戦ってもあなた勝てないんじゃないかしら?身を引くのはあなたよ」
「残念だが、私はどんな相手でも勝てなかったことはない。貴様こそ死せるアンデッドの王たちにご自慢の毒は不向きだろう。不名誉な記録を作る前にそこの日本人たちとサポートにまわった方が賢明だ。大事に育った温室育ちの御令嬢には少し荷が重い」
劉将軍はジョイスを小馬鹿にするように言い放つ。
劉将軍の言葉を受け、ジョイスは表情を変える。
これまでの勝気で飄々とした口ぶりから一変、静かに劉将軍を見つめて冷たく言葉を続ける。
「…なら、試してみる?誰であれ私を侮るのは許さないわ」
「…降りかかる火の粉は払わず、叩き潰す主義でね。やるなら手加減はしないぞ」
急激に二人の間で空気が変わる。
ジョイスは明確な怒りを隠そうとせずに劉将軍に向き合っている。急激に戦闘体制に入った二人はここが人間の支配が及ばない特忌区域の最深部、ホールの淵であることを理解している。
つまり、ここでは何が起きてもおかしくないことを理解していた。たとえそれば米中主力の適応者同士の交戦であれ、最後は勝者が『何があったか』を語ることになる。
人が追い出された無人の地で敵対しあった二人は、邪魔立てするなとばかりに急速に殺気を募らせた。
一瞬の間ののち、互い同時に必殺の恩恵能力を繰り出そう、とした刹那。
その瞬間に、二人のちょうど中間に巨大な斬撃が振り下ろされる。
ーードッカアンーーッツ!!
藤聡明が、渾身の力で飛び上がり二人の間の空間を地面ごと切りつけた。
そばにいた外敵を巻き込みながら路面に巨大な縦の切れ込みが生まれ、大通りはまるで地震の地割れのように大きく二つに割れた。
地震の地割れと異なるのは、ケーキにナイフを入れたように明らかに「切断」されたいることだった。物理を無視した斬撃により、深く大通りの路面が切断されていた。
突然の乱入にジョイスと劉将軍は共に動きを止めた。
二人の間に着地した聡明がゆっくりと立ち上がり刀を構える。
「ーー俺らは敵同士じゃない。敵はアイツらだ。外敵さえいなければ俺たちは皆、違う人生だった。アイツらさえいなければ生きていた大切な人がたくさんいた。仲間同士でくだらないことをする前にアイツらを殲滅させるんだ。さもなければ、誰であろうと斬る」
「…サムライソード…」ジョイスは聡明の乱入によりすこし冷静さをとりもどしたように攻撃体制を解除した。
「…ふん。しかけてきたのはその女だ。私はどちらでもよい」劉将軍も興を削がれたような表情をして肩をすくませた。そして深く抉れた地面をまじまじと見て聡明に不思議そうな表情で尋ねた。
「貴様、単なる剣士ではないな、怪力とかの物理の類ではない。この斬撃どうやった」
「知りたければ、一緒に戦え。互いに信頼しあおう」
「それは叶わない。私は軍人だ。祖国の命令には絶対だ」
「劉、君の想いを聞いている。君はどうしたい。国家のパワーバランスの駒でありたいのか、それとも、憎きアイツら外敵を殲滅させたいのか」
聡明は今一歩、劉将軍に近づいて共闘の説得を試みようとした。
ここが押しどころだ。劉将軍は思いもよらず聡明からストレートな言葉をあびたせいか少し面食らったような表情を珍しく見せた。
ーちゃぽ。聡明が劉将軍に近づくと小さく水の音がした。
「君も僕も同じだろう。やりたかった事、なりたかったもの、全部諦めて、今ここでその軍服を着ているんじゃないのか?それなのになお、年寄りどもコマになってどうなる」
ーちゃぽ。聡明はもう一歩近寄ろうと歩んだ。
「…聡明」熱くなりすぎたせいか、丈二郎が話に割って入ってきた。
聡明は今が肝心とばかりに、丈二郎を気にせず劉将軍になおにじり寄ろうとする。
「…聡明!!」丈二郎が大声を上げる。
聡明は丈二郎のただならぬ異変に気がつき足を止める。
「聡明、足元を見ろ!水だ、水が上がってきている!」
聡明は丈二郎の指摘で初めて異変に気がついた。
いつの間にか足元にうっすら低く水が張っている。その場にいるだれもが気がつかないうちにあたりは薄く水面になっていた。
そう認識した瞬間、急激に水かさが増え始めた。
うっすらと潮の香りを感じる。
これは『水』ではない、『海』だ。どこから現れたのかわからない『海面』が突如、急上昇してきた。
「丈二郎、まずい。全員ビルの上に避難だ…津波が来るぞ!」
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