第56話 英雄たち②
もう一方のホール対岸はモヤのような煙に包まれていた。
やがて、その中からジョイスが華やかな姿を現した。パリッとした制服のままで泥や返り血一つついてない。
ジョイスの周りのモヤのような煙は彼女が作り出した猛毒である。その猛毒の煙は一度触れれば身を蝕み、やがて命を奪う。
外敵のゾンビたちがそのモヤに包まれてのたうち回り、次々とホールに落下していく。
一体のスケルトンウォーリアーがモヤの中勢いよくジョイスに襲いかかったが、ジョイスが手を一振り払うとその外敵に強力な酸性の毒液がかかった。
スケルトンウォーリアーが濃厚な毒霧の中でもだえながら溶けていく。
「ジョイス!煙を解除してくれ!俺らも降りるぜ!」
ビルの上空を二人の影が飛ぶ。
一人が蜘蛛のように糸を手から出している。まるでアメコミのヒーローのようだ。
そのアメコミヒーロー男に丈二郎と開戦前にやり合ったジャック・クランシー少尉が背中に抱きついている。
ジャックの背中には巨大なバックパックが背負われている。
二人はビル間を蜘蛛糸で繋いで勢いよく滑空して大通りの対岸から対岸へビルの綱渡りをして移動している。
ジョイスが毒煙を解除する。煙が霧散すると道路一面には大量のアンデッドたちが朽ち果てている。
大量虐殺の様相だった。
「どう?途中に民間人やターゲットはいた?」
「や、途中まではちょいちょいパンピー的なのはいたが、金持ちヤローや政治家の先生はいなかったぜ」
ジャックが口悪く答える。
「民間人を僕が都度移送していたので遅くなりました。すみません」
「いいのよ、クリス。私たちは正義を行う。それでいいの」
クリスと呼ばれたアメコミ蜘蛛男が褒められて、わかりやすく破顔する。
見た目以上に幼い反応だ。
蜘蛛男の名前はクリストファー・アンダーソン曹長。
磯前豪太や中国の周少佐と同じ第二世代で、アメコミ好きの虐められっ子のギークだったが、適応者として発露した恩恵が憧れたスパイダーマンよろしく超大型の化け蜘蛛への変身恩恵だった。
努力の結果、普段は『糸』を出す能力だけを現出させることに成功してリアルスパイダーマンになった、という米軍でも変わり種の適応者だ。
ただ、性格は適応者になる前の虐められやすい所はさして変わらなく、加虐気質が強く虐めたがりのジャックとは相性が悪く、何かと馬鹿にされていた。
「お前が大蜘蛛にちゃんと変わってりゃもっと早いんだよ。能力を全部出し切らないせいだ。中途半端にヒーロー気取りすんなよ蜘蛛野郎」
「…僕がいなかったら移動もできなかったくせに。大体あんたの能力がそんな馬鹿でかい荷物必要で、重いから遅くなるんだろ。一人で毒の中歩いてよ」小声でクリスがモゴモゴと口ごたえる。
「あぁ!?なんか言ったか!」
ジャックの怒声にクリスは首を振ってジョイスの裏に引っ込んだ。
「ジャック、すでに各国が揃っているわ。日本の自衛隊は集団戦に苦戦。私たちと同じく中国の劉将軍も集団戦を制圧済み。察するにあの自衛隊側の岸の巨大な外敵を倒すのがこのホールの安定に必要だわ」
「OK。で、どうする?俺はどいつをぶっ放せばいい。蟲野郎もユダ野郎たちも全員まとめてでもいいぜ」
「バカ言ってないで。あなたはこのホールのこちら側で湧いてくるアンデッド全部を一人で止めて。私が日本側に行ってボスを両方とも倒すわ。クリスは蜘蛛糸でビル間を飛んでターゲットの捜索を続行。二人ともいい?」
「おう!」
「了解です!」
ジョイスは自信たっぷりに不敵な笑顔を浮かべて言う。
「いい?勝つのは私たち。ホール制圧も行方不明者も全て我が国の成果にする。合衆国は必ず一番になる。我々は一番でなくてはいけない。作戦開始!」
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