第55話 英雄たち
蝗害、という言葉がある。
イナゴなどが大量発生して一つの巨大な群体となって大移動をする『災害』を指す。
この自然現象は古くから人類にとって甚大な厄災を引き起こしてきた。家畜や作物など人類の資産を根こそぎ食い尽くす。
大移動により蹂躙されたその通り道には文字通り何も残らない。
地震や台風、洪水などと並ぶ『災害』の一つに人類史で蝗害は数えられてきた。
中国人民解放軍の劉連科少将はその「蝗害」を人為的に引き起こしコントロールすることができる。
世界でも最も有名な使役の恩恵能力として、恩恵で強化されたイナゴを使役して文字通り外敵を根こそぎ喰らい尽くす。
その威力は凄まじく、劉将軍たった一人で外敵の軍勢を制圧する。
数千万、数億の蟲たちが嵐のように外敵に取り憑いて喰らい尽くす様は異様に一言につき、他の恩恵能力者が戦意をなくすほどの嫌悪感を抱くとも言われる。
一説には地球上の6割の生物が虫であると言われており、それらを恩恵能力によって強化・使役する『蟲の王』劉連科少将の戦力はまさに未知数と言えた。
大国中国はこの劉将軍の恩恵能力を持ってして、他国を寄せ付けぬ強力な恩恵戦力を諸外国に誇示しているほどだった。
その『蟲の王』がホールの対岸に現れたのだ。
対岸のホール外周では湧き出る外敵たちを次々と圧倒的な数の恩恵強化されたイナゴたちが襲いかかっている。
やがて蟲の雲が晴れ、対岸にゆっくりとした足取りで劉将軍が現れる。
その脇に2名の部下を携えていた。凛とした眉目秀麗な女性とまだ若い男の軍人だ。
一人は劉将軍の腹心の部下で常に戦場に帯同していると言われている周愛玲少佐だ。
周少佐の足元には大小様々な花が不自然に咲き乱れている。周少佐は磯前豪太や筑紫京子と同じ第二世代にあたる女性の適応者で恩恵能力は『花』を咲かせることだった。
その『花』は自在に花粉を撒き、味方の能力の底上げや敵を翻弄させるなどの補助系の能力を発揮することができた。
また、虫そのものを自在に惹きつけ集めることが出来、補助系能力により昆虫たちにバフがかかることを含めて、劉将軍との相性が抜群で『蟲の王』の右腕として数多の戦場でその姿を見せていた。
整った容姿でキリッとした冷たい目線が特徴の周愛玲少佐は劉将軍を信奉していて、忠誠を誓う劉将軍に刃向かうものには容赦のないスタンスをとることでも有名だった。
もう一人の部下は金宝嘉という香港出身で最近軍に登用され頭角を示している17歳の適応者だ。
金宝嘉は伏見や熊野と同世代の適応者だ。金は香港の貧しい家庭に生まれ、ストリート育ちのバックグランドを持ち幼少からスラム街一の実力を持つカンフーの使い手だった。
元々は本人の意思に反してその際立った武の力の所為で、香港の裏社会のマフィアから半ば強制的に組織に組み入れられていた。
その後、香港北部ホールにより適応者として発露し、劉将軍が引き抜いて戦場に最近帯同させていた。
白銀に近く染め上げた短髪に細身で引き締まった格闘家で、ヌンチャクを手に外敵と戦うスタイルで知られていた。
恩恵能力は「不感知の力」。金が対象とした相手にのみ金の存在が感知できなくなる、という特殊な能力を有していた。元々の身体能力や格闘術に付加されたこの恩恵能力で、1対1の戦闘では無類の強さを発揮する金は中華自民解放軍の期待のホープとされていた。
「少将。おそらくあのホール対岸にいる巨大な2対の外敵を倒す必要があるかと」周少佐が劉将軍の横に立って対岸を指した。
「愛玲、向こうの通りは日本の自衛隊だったな」
「はい」
「少し遅れてしまったが、どうやら先についた彼らは苦戦しているようだな。あの様子では蔡鳳鳴秘書長も台湾電子集積のボンボン息子もまだ見つけてないだろう」
「彼らの能力では大規模なスタンピート戦は相性が悪いかと」周少佐はさも当然でしょう、と言った塩梅で返す。
「まぁいい。このまま私があのデカブツ含めてこの戦場を制圧しよう。愛玲と宝嘉は近隣のビルの捜索を開始してくれ。テキサスのバラが出てくる前に全ての手柄を手にする」
「ボス、言ってるそばから奴ら現れたぜ」
金宝嘉が自衛隊とは別のもう一つのホール対岸を顎でさす。
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