第54話 連携
「…スワップ(入れ替え)…ビジョンズ!」
丈二郎が小さく叫んだ。瞬間、目の前に迫ろうとしていた数百にも膨れたアンデッドの軍団たちに異変が起きる。
最初は先頭の2体が何やら急に動きがおかしくなりお互いがぶつかり合いながら転倒した。足をもつれたというより、急に体の動かし方が歪になったような、意思と身体の動きが整合せず、意図せず互いがぶつかり転倒をした。
次の瞬間その現象が周囲にドミノ倒しのように連鎖して広がっていく。
まっすぐ丈二郎たちに向かっていたスケルトンやゾンビが突然足を止めたり、絡まって倒れたり、急に方向を変えて他のアンデッドを巻き込んでいった。
最初の2体を発端に一気に広がりやがて集団全体が一つの生き物とし混乱をきたし、互いが互いをひっちゃかに折り重なりその場で蠢くような形になった。
その数、数百のアンデッドたちが互いに干渉し合いながら重なり押し合い、蠢いている。
「どうやって『見ている』のか謎だけど、腐ったゾンビたちも目ん玉のない骸骨たちも視覚情報で動いていてラッキーだったね。聡明、終わったよ」
「相変わらず凄まじいな…外敵の個体同士の視覚情報の入れ替えか。恩恵能力は理解と解釈でその能力の効果を進化させると言うけど、外敵の視覚情報まで理解が及ぶのは人間離れしているな」
「敵だと認識している生物を攻撃し続ける存在なんだ。こいつらも僕たち人間も大差ない存在だよ」
肩をすくめる丈二郎を横目に、聡明が鞘に入ったままの日本刀を構える。
目の前で蠢きつつづける外敵の群れに意識を統一する。
確かに、自分もこいつらも同じかもな。
故郷の千歳がホールに飲まれたあの日からこいら外敵を切ることだけを考えている。恩恵はイメージできることを確信し得ることでその効果が発動する。
あの日、千歳を脱出するときに奴らを一刀両断してから、そのイメージが途切れることはない。適応者として覚醒して、恩恵が発露するときにも自然とそのイメージが確信できた。
自分に『切れないモノ』はないと。
全ての外敵を切り伏せるまでそのイメージが枯れることはないと確信できる。
「無外流居相術…閃月!」
聡明は身を捻るように構えた鞘から、白刃を目にも留まらぬ早さで半円状に横一直線で振り抜いた。
日本刀は物理的な距離として外敵から離れていたが、まるで見えない刃が伸びているように聡明が振るった刀の残影から先で、聡明を中心に半円状に外敵たちの群れが端から横に両断されていく。
まるで巨大な瓜を切れ味の鋭い包丁で真っ二つに割る様に、蠢く外敵の群れが横一直線に両断された。一瞬で数百の外敵が葬り去られた。
「相変わらず凄まじいね。どうやったら物理的に離れた空間を両断できるんだろうね」
刃を鞘に収めている聡明の横に立って、丈二郎が先ほどの聡明の言葉を返すようにイタズラそうに言う。
「さぁな。大事なのは奴らを殲滅させた事実だ。理屈に興味はないな」
「確かに。あら、また湧いてきたよ」
丈二郎がホールの方を指すと、先ほどと同じかそれ以上の大群が再びホールから溢れ出てこちら向かってくる。
「これだとらちがあかない。この感じ、無限に湧く感じだな。あのデカブツを倒さないとダメってことだな」聡明が丈二郎に問う。
「あぁ、そういう趣向のホールだと思うよ」丈二郎は同意する。
「ホールのこっち側はジリジリ倒してボスに辿り着くとして、ホール反対側の残り二方向への氾濫は我々だけじゃどうにもならないな」
「あっちは、米軍と中国側のルートだからね。ジョイスと将軍になんとかしてもらう他ないよね。どっちかという彼らの能力の方がこのホール向きだから大丈夫じゃないかな」
ホールは幹線道路である大通り3本がYの字に接着する地点を中心を大きく穴を開けている。
Yの字の1つの通りを聡明や丈二郎たちが交戦しており、残り2つの幹線道路にそれぞれ米国と中国が陣取り進軍しているはずだった。
聡明は「それもそうだな」と相槌を打つと、少し離れた距離にいた絢に向かって大声で張り上げた。
「絢、目標はあの巨大なゾンビと骸骨だ!横須賀クラスと一緒に無限に湧く中型の外敵を最終ラインで防戦して、戦線を少しづつ押し上げてくれ!我々は最短ルートでホールの淵のターゲットのそばに入る!十分に気をつけてくれ!」
「わかった!聡ちゃんも無理しちゃダメだよ!怪我したら怒るからね!」
絢も大声で返す。聡明の横で丈二郎がニヤニヤしている。
「君たち早く付き合っちゃえばいいのに」
「…五月蝿い。丈二郎、斬るぞ」
「怖い怖い。それじゃいきますか」
丈二郎は聡明を連れて、外敵の群れの中でも比較的空いている箇所の『空間』を自分たちが立っている『空間』と入れ替えて瞬間移動のようにして移動をする。
大量に湧く軍勢を転移先で駆逐しながら、飛ばし飛ばし中心に向かって最短で進んでいく。
進むにつれて外敵が密集していき二人は背中合わせになりながら目の前の外敵を刀で切り伏せ、槍で突き刺し進んでいく。
「なかなか、しんどいホールだな。際限がない」
「こんだけ近接しちゃうと流石に視覚情報の入れ替えも集中しないと難しいからできないな。とにかく前に進むしかないよ」
その時ホールの対岸、片方の大通りに異変が起きていることに聡明は気がついた。
まるで砂嵐のような細かい何かが幹線道路のビルの間を埋め尽くしている。
目を凝らす。何かが擦れるような尋常じゃない騒音も遠くに聞こえる。
聡明は理解する。それが数え切れないほどの蟲たちの騒めきであることを。
ーーあれが、劉将軍か…!
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