第53話 『天才』の秘密
ーーわぉ!!かっこいい!身を挺して生徒を守る『先生』だ!素敵だねぇ!!泣けちゃうよ!そうだ…『能力』は返してあげる。その代わりちゃんと戦うんだよ。デウカリオンを連れて離脱なんて事をもししたら、すぐにまた能力を取り上げるからね。死なないようにがんばってねぇ、先生。
脳内でXの声が響いたのち、丈二郎は自分の中に恩恵が戻っていることに気がつく。
その瞬間、すぐに槍を転移させる。
そのまま近くにあったスケルトンたちを複数立て続けに位置をでたらめに移動させて、混乱させたのち自らも転移を細かくさせながらヒットアンドアウェイを繰り返す。
ものすごい速さで転移と攻撃を息もつかぬ間で、気合いの限り続ける。
傍目からはあまりの速さに姿が見えないように錯覚するほどだ。
ものの数分で体勢を立て直して彼方たちがいる場所を安全な状況にさせた。
「す…すごい」思わず木葉がつぶやく。
それほどまで圧倒的で、鬼神のような戦いぶりだった。
目にも止まらない速さで移動と攻撃を繰り返しながら、次々と大型のアンデッドたちが朽ちていく。何かの手品を見ているようだった。
肩で息をしながら丈二郎は転移をやめ、アンデッドたちの様子を分析する。
なお、奥のホールからはワラワラとアンデッドたちが湧き出ているようだった。
外周のこちら側はいいとして、やがてホールの反対側は洪水のように強力なアンデッド軍団がスタンピートとして市街地に氾濫していくはずだ。
やはり元であるボス級の2体を倒す必要がある。恩恵が戻ったとはいえ流石に一人では難しいかな、と丈二郎は冷静に分析する。
だが…、そろそろ、来るころだろう。
この事態を収めるべく、役者が揃うはずだ。
丈二郎がそんなことを思った瞬間に頭上を大きな影が飛び越える。
そのまま奥から湧き出てきたアンデッド軍団の真っ只中に巨大な影は着地して、アンデッドたちを蹴散らし叩きつけ、捻り倒す。
その影は巨大なヒグマだった。
高千穂絢が化け物じみた巨大なヒグマに姿を変えて破壊の限りを尽くす。
「大丈夫か!丈二郎、離脱できなかったのか!?」
藤聡明がやや遅れて息を切らせて飛び込んできた。
「すまない、説明はあとだ。直接戦闘になっていないが、Xが介入してきた。気をつけろ、やつは能力を奪ったり戻したりする」
「…!それでお前こんなボロボロに」
「ああ。だけどもう多分大丈夫だ。我々が彼方を逃がさずに骸骨たちと戦えば、やつは満足らしい」
「とにかくこいつらをぶちのめそうか。話はそれからだな」聡明はなお沸き続けるアンデッドの大群と奥に鎮座する巨大な骸骨とゾンビを睨め付けた。
満身創痍な丈二郎の体に力がみなぎる。
横に立つ友の存在にこれまでどれだけ助けられただろうか。丈二郎はもう大丈夫だ、と心の底から安堵した。
二人で切り抜けられなかったことなどこれまでもなかったし、当然、これからもない。
久しぶりにあれ、やりますか。と丈二郎が傷だらけの頬を緩めてイタズラそうに笑った。
聡明はそんな丈二郎を見て頷く。
「絢!横須賀クラスの子達の方を頼む!」聡明が叫ぶ。
高千穂絢は獣化を解いてマント姿になると彼方たちの方に向かう。
丈二郎が槍を体に立てかけるようにすると、両手をこめかみにあてて、何か意識を統一させるような仕草をした。
その横で藤聡明が日本刀を鞘の収めたままゆっくりと上体を捻り、構える。
巨大ヒグマの襲撃が無くなったアンデッド軍団がまたしても数を膨れ上がらせていく。今にもこちらに押し寄せてきそうだ。
「ーー先生、何をしているの?」
彼方が不思議な仕草をする丈二郎を見て疑問を口にする。
横に立ったマント姿の絢が口を開く。
「彼方くん、見ててごらん。あれが丈二郎ガルシア八雲の本当のチカラ。彼の恩恵は『瞬間移動』ではないの」
絢の言葉を聞いて、彼方は丈二郎と最初に特忌区域に入った時の丈二郎の言葉を思い出した。
ーー多分僕がこの世界の誰にとっても一番『戦いづらい』相手だ。それは『恩恵』を深く理解していてそれを戦い方に反映できているから。
瞬間移動そのものが能力の本質ではなく、能力を極端に制限して能力による発露事象をたった一つのみに絞って使用し続けていれば周囲は自ずとその現象そのものを恩恵能力だと誤認する。
丈二郎は自身が恩恵能力を開花させたその時からずっと、その認識調整を行なっていた。
敵も味方も彼の恩恵は「瞬間移動」だと誤認させるように、普段からわざと恩恵の使用方法を限定させる手法をとっていたのだ。
その認識の誤差こそが彼をこれまで生かし続け、世界有数の戦闘力を持つ適応者として評価をされる根源だった。
ギリギリの戦いにおいて恩恵能力の認識のズレは文字通り生死を分ける要因になり得るのだ。
「八雲くんの本当の力は『入れ替え』の恩恵能力なの」
絢が彼方に告げる。
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