第52話 丈二郎の死地
最悪の状況だ。
仮に丈二郎の能力を完全に把握しているのであれば瞬間移動でさえ非常に厄介だが『その先』の使い方をしてくる可能性がある。
それに加えて先ほどのXの言葉からするとこのホールはこの後危険な状況になるはずだ。
聡明たちと早く合流しないと全滅もあり得る。
ーーこれは、いい能力だ!楽しいね!そうだ!パーティにはたくさん人がいないと寂しいよね!いっぱい呼んじゃおう!
Xの声が響くや否や、ホールの奥の闇で何かが蠢く。
間違いない。ホールから外敵を発生させようとしている。
そして眼下のホールの蠢きは明らかに危険な数を意味していた。
「みんな、後ろに下がるんだ!ホールから距離を取れ」
丈二郎たちは後方にジャンプを何度かしてホールの外縁から距離をとって大通りの沿いを急ぎ後退する。
「来るぞ!」という丈二郎の叫び声と共に、大量のゾンビとスケルトンたちが現れた。その全てが先ほど丈二郎が倒した大型のゾンビであるグレートゾンビや強力なスケルトンであるスケルトンジャイアントやスケルトンウォーリアーだ。
木葉は自分一人では1体でも駆逐することが簡単ではないと感じた強力な外敵が何百と湧いてで来ている光景に戦慄する。
ーーこれはだめだ、とてもじゃないが勝てる量じゃない。私たちはここで命を落とす。
自分たち横須賀クラスの3人が協力して戦って1体撃破できるかどうかのレベルの外敵を、恩恵能力のない八雲先生だけであの数がなんとかなるはずがない。
恐怖に駆られる木葉の眼前にさらなる絶望があらわれる。
数百の強大な骸骨やアンデッドの大群のうしろからひときわ巨大な敵影がゆっくりと2体あらわれる。
ゾンビたちの王であるゾンビキングとスケルトンたちの支配者であるスケルトンロードが1体づつ現れたのだった。
ゾンビキングとスケルトンロードは特に強敵であることで知られ、各国の主力適応者達が複数名のパーティ編成で挑むような正真正銘のボス級の難敵だ。
木葉が戦慄している間にも、眼前の波のようなアンデッドの大群達は木葉たちにむかって進軍をしてくる。
ーーっくくく…ねぇ、どうする?どうやって切り抜けるの?
魔神Xが面白がるように丈二郎を焚き付ける。
「お前、イタズラで僕らを殺す気なのか?」丈二郎が怒りを滲ませる。
ーーいやいや、その逆だよ、真面目だよ。いかんせん、君たちのやり方だと全然お話が進まないからね、刺激が少なくてデウカリオンがちゃんと育たないよ。まぁ、死んだら死んだでしょうがないしね。その時は別の方法を試すだけさ。
進軍をしてくるアンデッドの大群を前に丈二郎はふと疑問を口にする。
「お前、この前のやつとは別だな。口調とスタンスが違いすぎる……。そうか、少なくとも3体、いや4体お前たちはいる可能性があるのか」
ーー賢いやつは嫌いじゃないよ。っくくくく…生き残ったら今度教えてあげるよ。ほらくるよ!
すぐ目の前まできていたスケルトンやゾンビたちが一斉に襲ってこようとしていた。
「もうすぐ聡明達がきてくれる。それまで僕がここを食い止める!三人とも僕の後ろに避難していろ!」
叫び終わるやいなや聡明は一気に踏み込むと持ち前の身体能力で先手必勝とばかりに、徒手空拳で外敵の群れに突っ込んだ。
俊敏なボクサーは硬く握った素手の拳で俊敏な動きに反応できないアンデッドたちを次々と殴り倒していく。
丈二郎の周辺に数十体のアンデッドたちだったものが積み重なっていく。
しかし、いかに丈二郎の適応者としての能力や戦闘力が高かったしても手数や体力に限界がある。
次第に肩で息をして徐々に押し込まれてくる。
いても立ってもいられなくなった木葉がスリングショットで加勢、彼方と熊野も飛び込んで戦おうとするが、二人がかりでも1体を倒すのがやっとの状況だった。
やがて加勢して援護射撃をしていた木葉が、ヘイトを集めたことによって一体のスケルトンウォーリアーが抜け出して木葉に迫る。
木葉は退避が間に合わずあわやスケルトンの大ぶりの一撃を喰らいそうになる。
「ーー!」
すんでのところで飛びついた丈二郎がアッパーで吹き飛ばすが、もう一体後ろにいたスケルトンジャイアントの一撃を丈二郎がダイレクトに喰らってしまう。
思わず膝を突きながらも体勢を捻ってなんとかスケルトンジャイアントも粉砕させる。
「八雲先生!」
「先生!」
彼方と熊野が急ぎ加勢に戻る。
丈二郎は片膝を立てながら、手のひらをかざして彼方と熊野を制する。
「大丈夫だ。言ったろう。ここは僕に任せて君たち3人は後ろにいなさい。彼方、木葉を守って回避をするんだ。仁之助、二人を頼むよ」
「ーーー八雲先生、だめ、先生死んじゃいやだ…」木葉が泣きそうな顔をする。
八雲は、一瞬、ハッとした顔した後、わざとゆっくり立ち上がって無理やりに笑顔を作る。
「大丈夫。言ったでしょ。先生は『天才』で『最強』だから。こんな骸骨やゾンビたちには負けないよ」
満身創痍な体に鞭を打って、わざと元気そうに屈伸をする。
「さっさと全滅させちゃおうか」丈二郎はことさら何でもない、といった声色でのんびりと言う。
きっと「今」「ここ」が自分の居場所だ。
ずっと居場所がなかった自分だったが、この直感に確信を感じられると丈二郎は思った。
そしてこの場所に、このタイミングに自分の役目があったのだ。
彼らを導き新しいステージに、新しい時代につれていく。
そして、彼らを守る。たとえ自分の命と引き換えてでも。
脳裏に聡明の声が蘇る。
『丈二郎なら安心だよ。君はいい先生になる』
自分はいい先生になれただろうか。
ここでもし自分が朽ちても聡明がいれば大丈夫だろう。
今はただここで自分の全てを出し切るだけだ。
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