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第51話 Xの再襲来


 八雲班はその後細かくビルの屋上を転移して深部に向かった。

 転移すればするほどビル上部に外敵が徘徊していて戦闘となるケースが増えていった。

 かつ転移したビルやその周辺に逃げ遅れた人がいないかを確認するため声をあげて呼びかける必要があり、どうしても外敵が寄ってきてしまう形となったが、丈二郎の無双的な戦闘や彼方たち3人の連携により難なく外敵を退けていった。



 やがて、いくつかのビルを転移した先に「ソレ」は現れた。

 この特忌区域の中心であり元凶でもある「高雄ホール」だ。

 雑居ビルや大通りを飲み込む様にして地面が陥没し、漆黒の闇が穴を穿っている。

 薄暗い夜間であってもその地面の穴の暗闇は異様で、その底は見えず、夜の暗さも手伝ってまるで光そのものも飲み込んでいるかのように純粋な黒い空間がただそこにあった。

 

 特筆すべきはその「サイズ」だった。

「ーーマズイな。こいつは…ちょっとデカ過ぎる…」

 丈二郎が思わずつぶやく。まるで何かを思い出したかのように呆然とした表情をしている。

 ただすぐに我に帰ると、耳元のデバイスで無線を展開して聡明に連絡いれた。

「聡明。中心に着いた。ホールが想定よりデカい。渋谷と同じか、もっと大きいかもしれない。多分、ブリーフィングの時より拡大している。かなり危険かもしれない」

「わかった。最速でそちらに合流する。念のため豪太のチームは中心に近づかないよう作戦進路を変える。聡明も横須賀クラスのメンバーを一度区域の外周に離脱させられるか?」

「承知した。あとで合流しよう」

 丈二郎は無線を切ると、事態が飲み込めず不安そうな表情をしている3人を見た。

 初めての新規ホールの攻防戦だ。何回かの交戦で自信もついてきた所だからこのタイミングでの離脱には無念さもあるだろう、と丈二郎は感じた。

 ただ、だとしてもこの高雄ホールは危険だ。

 ホールの「穴」の直径のサイズ、つまりホールの大きさは発生する外敵の強度に比例することがわかっている。

 統計的にも丈二郎の実感的にも例外を感じたことはない。最たる例が渋谷だ。

 渋谷松濤ホールは甚大な被害を引き起こしたが、日本国内の特忌区域の中でも大型ホールの一つとしても知られる。

 丈二郎はあの時の悲惨な状況を身をもって知っている。

 まさに死闘。自分たちは生き延びた生存者だと言える。

 当然合同作戦を展開した日米両軍は大量の被害を出し、渋谷の地で帰らぬ人となった同僚たちも多数いた。

 自分の班員の彼方、木葉、熊野の3名をこの高雄の地で散らせることだけはできない。

 聡明の判断が賢明だろう。

 最悪、聡明と2人であればまた生きて帰ることはできるだろう。


 丈二郎は不安そうな3人に説明する。

「このサイズは想定外だ。行方不明捜索は一旦休止しよう。ボス級がでてきたら全員無事、とはいかない可能性が高い。3人は一旦外周の防衛戦にまわってもらう」

「ーーな!」彼方が離脱を拒絶するように丈二郎に異を唱えかけたが、熊野が彼方の肩に手をかけて引き留めるようにした。

「彼方。悔しいがここは八雲先生の言う通りだ」

「私たちじゃまだ実力不足ってことね。出直しましょう。やれることはきっとあるよ」

 木葉も意外な素直さで同調した。

 それほど丈二郎の様子から危険を感じ取っているようだった。彼方も諭されて理解を示した。

 3人とも悔しさを噛み殺しているのがわかった。丈二郎は彼方たちの想いが嫌と言うほどわかったが、ここは情を優先できるほど優しい場所ではない。


「すまないな。行こうか、僕が送る。」

 もう一度、丈二郎はホールを見つめた。

 この渋谷を超えるようなサイズのホールで大量の強度の高い外敵が発生した場合に、果たして聡明と自分だけでどこまで抑え込めるだろうか、と一抹の不安がよぎった。

 いや、ここには我々だけではない。

 ジョイスが率いる米軍も「蟲の王」こと中国の劉将軍もいる。

 ここまでの戦力が結集して、協力しあって戦えばかならずや強力な外敵たちであっても抑えられるだろう。

 今はとにかくこの子たちを送って、すぐにまたこの場所にもどることが先決だ。

 丈二郎は3人を外周に送ろうと能力を発動させようとした。



 ーー果たして、君たち人類が本当に協力しあえるのかな?



 突然の声に丈二郎は驚いてあたりを見渡す。

 奴だ。間違いない。

 魔人、正体不明のX。

 奴が現れた。


 ただ、姿は見えない。

 姿は影も形もないのに至近距離で話しかけられているような気がする。念話のような能力だろうか。


「…お前、どこだ?どこにいる」

 ーーわざわざ隠れているのに出ていくわけないじゃないか。その子に騒がれてまた気絶させるのも嫌だしねぇ。ところで、彼らを連れて逃げなくていいのかい?お察しの通り、ここはもう時期とっても危険な場所にするつもりだよ。


「先生、どうしたの?」

 木葉が心配そうな顔で、丈二郎の異変に事態を飲み込めず尋ねる。


 魔人Xの声は直接丈二郎の脳内に響いていて、他の3人には聞こえていないらしい。

 丈二郎はXとの会話よりも3人の安全を優先させる選択をした。

「みんな!いくぞ!」

 丈二郎は区域の外周、スタート地点に戻るべく転移を発動させた。


 が…何も起こらない。焦る丈二郎は再び恩恵能力を発動。しかし1ミリも移動しなかった。


 ーーっくくく……行かせるわけないじゃないか。これからせっかくのパーティーなのに君たちがいなくなったら寂しいよ。君やデウカリオンにはいてもらわないとねぇ。それにしてもこの間も能力はダメだったのに、君は賢い割に、意外と物覚えが悪いねぇ?


 脳内にXの声が響くや否や、丈二郎は大声で彼方、木葉、熊野に指示を告げる。


「総員戦闘体制!Xだ!僕の能力が封じられた!身の安全を死守しろ!」

 3人の顔色が変わる。

 瞬時に彼方と木葉は武器を構えて、熊野は全身を岩石巨大化させた。

 熊野の能力が発動している以上、恩恵能力に制限を掛けれらているのは自分だけか、それともXとの会話をするなどの発動条件があるのか、など瞬時に丈二郎の脳内でXに対抗するために現状分析が行われる。


 ーーっくくく…慌てん坊だね。残念ながらそこはまだパーティー会場じゃないよ。


 相変わらず姿は見えないが、どこか楽しんでいるよう口ぶりだと丈二郎は感じる。


「みんな、Xから話しかけても会話をするなよ。Xへの攻撃もなしだ。能力制限への発動条件が分からないうちは僕が対応する」

「待ってくれ、それだと先生が危ない」熊野が異をとなえる。

「大丈夫だ。僕は能力なんかなくても、強い」

 手元に槍をだしておけばよかったな、と丈二郎は空の掌を握って思う。

 徒手空拳でこの難敵。ただ、この子達だけは守らなければならない。

 ここが自分の踏ん張りだころかもしれない。

 ここで次世代の芽を摘まれるわけにはいかない。

 必ず、命に変えてでも守る。

 ーーいいねぇ!格好いいね!ヤケちゃうよ。っくくく…なるほど、なるほど。この力はこうやるのか。なかなか面白い解釈で君は能力を使っているね。流石だよ。



 丈二郎はXの脳内に響く言葉を聴いて、信じられない思いだった。


 こいつは自分の能力を奪うばかりでなく、解析をしている、だとすると次は…。


 ーーそれ!

 Xのかけ声をとともに丈二郎たちの目の前の景色が一変した。

 ビルの屋上から見下ろしていた「高雄ホール」が数メートル手前に忽然と開いている。


 丈二郎たちは『瞬間移動』で一気にビルの屋上から地上まで移動をさせられたのだ。


「くそ!能力の制限じゃなくて、奪うのか!」

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