第50話 八雲班重要行方不明者探索チーム
丈二郎たち八雲班は幹線道路沿いの雑居ビルにはいった。
中に逃げ遅れた市民がいないか、スケルトンたちが闇に潜んでいないか。隊列を組んで慎重に状況を見極めながら、ゆっくりと雑居ビルの狭い階段を登っていく。
木葉は先頭の丈二郎と彼方、そして最後尾の熊野に挟まれて階段を登る。
雑居ビルの一階に店を構えていた中華料理店の油の匂いとスパイスの香りが、階段を覆う古い埃臭さと共に鼻にまとわりつく。
湿度をともなった暑く重たい空気が立ち込めている。外敵を刺激しないために、一行はライトをつけずに一段一段を静かに登っていく。
途中の各フロアのドアを開け生存者確認をする。不動産関係の事務所、貿易会社のオフィス、怪しげな漢方の薬店。
暗闇から急にアンデッドたちが飛び出してこないか…木葉は緊張感と恐怖心に心臓が破裂しそうだった。
最近、八雲班でいくつかの特忌区域で外敵駆逐を実地訓練として立て続けに行なっていたが、そのどれもがホールとしては発生してから数年たっていて、外敵との攻防バランスが維持安定しているホールだったと言える。
その点、この高雄ホールはまったくの別物だ。
発生したばかりのホールはその外敵の活動エリアである特忌区域が拡大を続けるため、最終的に区域がどこまでの範囲なのか、外敵の種類やその強度も当然ながら未知数だ。
新規ホール発生に伴う攻防戦は拡大を続ける区域を外的に応戦することで可能な限り拮抗させて、出来ることならより小さい範囲にさせるべく人類が押し返す戦いだ。
その作戦活動の最中においては高雄ホールが将来的にどのような大きさの特忌区域を形成するかは誰にも分からない。つまり、今いるエリアが最終的に深部なのか浅い箇所なのかも今はまだ分からないのである。
今この瞬間にでも闇から飛び出してくる可能性がある外敵が、果たしてこのホールにおいては雑魚なのか猛者なのかがまだ分からないのだ。いきなりボス級が出てきたとしても理論上はおかしくはない。
ボス級に急襲をかけられたら流石の八雲先生でも苦戦をするだろう。
言わずもがな、木葉自身にいたってはその瞬間で命を落とす可能性もある。
その緊張感とビル内部の暗闇がダイレクトに木葉の生存本能を刺激する。一歩間違えれば本当に自分は死ぬかもしれない。
あの日、木葉は最愛の妹に命のバトンを渡された。その大切な命をこんなところで散らすわけにはいかない。
そんなことは絶対に許されない。木葉は手に持ったスリングショットを強く握りしめる。
ー妹のためにも、私は、必ず生き延びる。
丈二郎は力を込めて屋上に通じるドアに付いていた大きな南京錠をひねる。
四半世紀はドアを施錠していたであろう古い南京錠が鈍い音を立てて折れ曲がる。
錆びついた音を立てる扉を開けて八雲班は雑居ビルの狭い屋上に出た。
階段の階数表示を見ると13階建てなので50メートル弱ほどの高所にあるが、ビルの敷地がさほど広くないため高さの割に意外なほど屋上のスペースが狭い。
見渡す視界には奥の方まで雑多な路地が続いていて、同じくらいの高さか少し低層の雑居ビルが延々と連なっている。
遠くの方に高雄市のシンボルである特徴的な三角屋根を掲げた高雄85ビルの巨大なシルエットが見える。
これだけの密集した雑居ビルだらけの市街地だとターゲットがどこで潜伏しているのかを探し当てるのは困難だ。ひとまずは情報にあった特忌区域の中心地であるホールの方向に向かうほかはない。
「これから僕の能力で、ちょっとずつ先のビルの屋上に転移してホールの中心を目指すよ。ホールが目視できるビルについたらしらみ潰しでどこかのビルに潜伏しているターゲットを手分けして探そう。中心に近づくにつれて非常に強い外敵がこの規模のホールでは出る可能性があるので細心の注意を払うこと。危険だと思ったら必ず逃げて僕に助けを求めること。いいね?」
いつになく真剣な表情の丈二郎に彼方たち3人は一様に頷く。皆がこのホールの状況がいつもの実地訓練とは比べ物にならない程危険であることを肌で感じていた。
丈二郎はそんな3人を見て「大丈夫。僕がいれば問題はないから」と言うと3人を集合させて、30メートルほど先に見える視界の開けたビルの屋上に狙いを定めて恩恵能力を発動させた。
4人は瞬間移動で着地をするや否や周囲を警戒した。飛び込んだ瞬間に外敵の群れの中、と言う可能性がなくはないからだ。
無事、その屋上に何もいないことを確認すると改めて丈二郎は先を見据えた。大丈夫この方法であればすぐに辿り着けるはずだ。
丈二郎は短く、次行くよ、と言うと再び5、6棟先に目視できる少し小高いビルのわずか上空を目指して転移した。若干転移先のビルの方が背が高く屋上の形状や様子が見えなかったが先を急ぐためにやむない判断とした。
転移した瞬間、丈二郎は下方を確認する。外敵の群れだ。
「ーー!仁之助!右の小さいゾンビは任せた!僕が真ん中のデカいやつ!彼方はスケルトンたちを引きつけろ!」
着地と同時に屋上に集結していたアンデッドたちと交戦になる。
熊野が自由落下のまま岩石の腕を振り下ろす。
わずかに外れたがゾンビの片腕が損壊する。
そのまま熊野はコンボのように拳を着地と同時に空手の要領で叩き込む。
彼方はスケルトン5体の密集地帯に着地する。着地と同時に襲いかかるスケルトンをすんでのところで交わしていきながらナイフを繰り出す。
後方に着地した木葉が「彼方いくよ!」と叫ぶと二発の鉄球を握り込みスリングショットに構える。
「配分!重力!」
物理法則を無視して重力を片方に押し付けた後発の鉄球が爆進の軌道を一直線にスケルトンの頭部を木っ端微塵にする。
彼方は残る4体を自分に引き連れて複雑な踊りのように体を捻りながら避けては細かくナイフでスケルトンを削り続ける。
中ボス格だろうか一際大きなゾンビの前に丈二郎はあえて体を反転させ背中を大型ゾンビにさらすように着地して膝をつく。
中ボス格のグレートゾンビは好機とばかりに意外な俊敏性で丈二郎の背中に飛びかかるように襲いかかる。
その瞬間、グレートゾンビの位置が丈二郎の前に転移する。
グレートゾンビの攻撃は虚しく空を切り、一瞬何が起こったか分からず戸惑う。
次の瞬間グレートゾンビが叫び声を上げる。
立ち上がりながら丈二郎は大型の槍を手に握り込み、グレートゾンビを転移させた瞬間に背後からその脳髄まで一突きで貫いたのだ。
「…初見殺し…チートすぎる」
思わず木葉が丈二郎の戦い方を見て声をこぼす。
鮮やかで隙がなく合理的。以前丈二郎が言っていた「誰にとっても自分が一番戦いずらい相手だ」と言うことを木葉は理解できた。
いるかわからないが丈二郎みたいな外敵とは絶対に戦いたくないと木葉は感じた。
小型のゾンビを粉砕させた熊野も横に立って同感と言う顔をした。
二人は一瞬顔を合わせると戦闘中だったことを思い出し、外敵の攻撃を踊るように避け続ける彼方に加勢して横からスリングショットを打ち込んだり、岩石の正拳突きで粉砕していった。
危なげなくアンデッドの集団を駆逐した4人は再び丈二郎を中心に集まる。
木葉は先ほどの戦闘で、この班の連携に手応えを感じた。
これならいける。いままで地道に数多のホールで、丈二郎と一緒に4人で経験を積んできた手応えを感じる。
「まぁ、だいたいの外敵はこんなもんだろう。ホールの中心に近づくから移動した先に外敵がいる可能性はドンドン高まるから気をつけて行こう」
丈二郎は平常運転といった調子で、ことさらのんびりと3人に言って再び次のビルの屋上に狙いを定めた。
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