第47話 高雄ホール戦開戦
彼方がジープを降りると台湾国軍の一団が広い幹線道路を左右いっぱいに広がって戦線を形成していた。
断続的に機関銃の発砲音が響き渡る。
すでに日は落ちて夜が深まり21時30分を過ぎていた。
サッカースタジアムにあるような強力な投光照明機が道路の左右に建てられていて辺り幹線道路前方が真昼のように明るい。ライトの光の中にスケルトンとゾンビが暗闇から進み出てくる。
とたん機銃放射が行われた。
銃弾を浴びて体の一部が飛び歩調が緩むが機銃の隙間を縫って少しづつ前進をする。
少し経つと投稿照明機を少し後方にずらして防衛戦を交代させた。
なるほど、と彼方は会得した。こうやってホールの拡大を少しでも遅らせて後方の避難とホール内の救助を進めているのだ。
ーただ、これじゃ外敵を倒せない。と彼方は瞬時に理解した。
外敵を駆逐するには恩恵を駆使した適応者が必要だ。
特に今回のアンデッド系の外敵は致命傷を一気に与えないと戦闘が継続するため火力の弱い通常軍が市街戦で駆逐するのは非常に困難だと彼方は戦線を見て思った。
これから、僕たちがこの中に入って中で逃げ遅れた人を助けるんだ、と考えると恐ろしさを超えて使命感で心が熱くなった。
うっすらと自分がかつてたった一人で逃げ隠れしていた幼少の頃のホールでの記憶がもたげた。
もう誰も、あんな恐ろしい思いをして欲しくない。
僕が必ず助けるんだ、彼方は強く心に思った。
「僕たちはこの二人を探すよ」
合同作戦会議から帰ってきた丈二郎が木葉や彼方たちを八雲班3人を集めると言った。
手元に2枚の写真を持っている。初老のエネルギッシュそうに見える男性と30代くらいのつるりとした卵のような肌の男性だった。
台湾の有名な政治家と世界最大のシャアをもつ半導体製造の巨大企業の創業者の息子だと丈二郎は説明した。どちらも台湾の国家的重要人物とのことだ。
外特機動隊と横須賀クラスは3つのチームに分かれて行動することにした。
第1チームは豪太率いる磯前班が中心の編成だ。外敵撃破チームとして編成され、大山の索敵能力を駆使して外敵の群れをとにかく伏見の火力で殲滅していく。
このチームには普段は外特機動隊で渋谷などの重要ホールでの守備防衛を担っている隊員の一人である筑紫京子が組み込まれた。
京子は豪太と同世代で出身も熊本ホールと同郷で、いつも首からヘッドホンをかけて長い髪の毛で顔の半分が隠れている物静かな女性隊員だ。
京子がいつもホールの現場に出ていることもあり、彼方たち横須賀クラスのメンバーは今回の台湾派遣で初めて対面した。
磯前班の班長である豪太と、班員の伏見、鳥海、大山、そして京子を入れた合計5人のチーム編成だ。
第二チームの藤聡明と高千穂絢は撃破チームが迎撃困難な外敵のボス級の主力が出てきた場合の主対応含めて遊軍的に戦局に合わせた動きをすることとした。
さながら主力温存チームといった形だ。
そして第三のチームが丈二郎率いる八雲班の重要行方不明者探索チームだ。
丈二郎の能力をつかって市街地を一気に移動し米中に先んじて深部に侵攻していち早く重要行方不明人を捜索する、という作戦だった。
なにより米中を牽制しつつ政治的に重要な両名と接触した際に、丈二郎の知力による立ち回りが必須と藤聡明が作戦を立案・指名した。
最後に全員にガスマスクを丈二郎が配った。
「念の為にね。一応これは肌身離さずに持っておこう。もし、米軍が交戦中の場に出会したら迷わず距離を取って離れるようにね。今回、テキサスのバラことマッカラーズ少佐が参戦している。彼女も逃げ遅れた民間人のことを考えると無闇に広域攻撃を使わないと思うけど。彼女は恩恵は無慈悲で強力だからね」
木葉は手渡された毒ガス対策のマスクを手にしてその無骨な重みを感じる。
アメリカの古い民謡の「テキサスの黄色いバラ」に例えられる、アメリカの美しくも恐ろしい女性将校を想像した。
彼女は正義感の強い公明正大な軍人で、米軍適応者のリーダーだと言われている。
木葉は自分で人生を選べないまま気がつくと適応者として横須賀クラスに入り、大きな流れに身を任せるように今は台湾にまできている。
この先自分の人生がどうなってしまうか見当もつかないし、人生の選択肢や成りたい未来、夢などはあの日恩恵に目覚めた日に全て過去においてきたつもりだった。
この恩恵の力を使って私たちの人生を滅茶苦茶にした全てを倒す、当時を含めて今も漠然とそんな感情しか持ちえてこなかった。
もしその先に自分の人生として軍を率いる女性像があるなら、それはきっと噂に聞くマッカラーズ少佐のような人のことだろう。
この遠征でぜひ一度話をしてみたい。あとでこっそり八雲先生に相談しよう、木葉は自分でもまだ判然としない憧れのような想いを胸にしまうと指示されたジープに乗り込んで戦場へと向かった。
「出るぞ!」
豪太の大きな声を合図に台湾国軍の銃撃が止んだ。
銃撃がなくなりゆっくりと前進を開始するアンデッドたちに向かって先陣を切って豪太が勢いよく走り出す。
幹線道路の奥にサーチライトに照らされたスケルトンとゾンビたちが蠢いている。
豪太は背中に背負った大ぶりな斧を外すと、たっぷりの助走をつけて大きく跳躍した。
そのままの勢いで先頭のゾンビたちをおおきく振りかぶって薙ぎ飛ばした。
恩恵の防御壁による防戦を特技とする豪太だが持ち前の鍛え上げられた体格による一撃は重く強烈で、ゾンビたちはなすすべもなく真っ二つになり吹き飛んだ。
飛び込んだ豪太に対して周りのゾンビたちが一斉に襲いかかる。
四方から食いつかれたと思いや、豪太が即座に展開した小型の円柱のようなドーム状の見えない壁にゾンビたちが跳ね返る。
即座に防御壁を解いてぐるりと旋回するように斧を再び大振りする。
四方のゾンビたちが無惨に撫で斬られて崩れ去った。
一瞬空いた空白を利用して、豪太は巨大な透明な防護壁を横に広範囲に展開し、巨大な壁でゾンビたちを怪力を持ってして横のビル壁に押し込もうとする。
「ぬぉぉぉおおー!」
四肢の筋肉が大きく盛り上がり、豪太の怪力が唸り声を上げる。
大量のゾンビたちが見えない壁とビル壁に圧殺されてミンチのような肉片になった。
豪太は壁を解くと立ち上がり肩で息をしながら大声を上げる。
「お前ら!一気に駆逐するぞ!慶一郎!全力で打ち込め!!」
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