第46話 二人の英傑②
台湾国軍の黄からは高雄市内の塩埕区で発生したホールの概要と現在までの市民の救助状況、戦線の状況が前方のスクリーンを使ってブリーフィングされた。
アンデッド系の外敵であったため、台湾国軍の通常火力では根本的な駆逐ができていないのが現状だった。
アンデッドは機動力が低いことが知られている。そのため大敗することはないがジリジリと押し出されており、ホールは以前拡大傾向にありホール内の外敵数は増加の一途を辿っていた。
ホール内に取り残された市民は相当数いて救出の目処がたっていなかった。黄は塩埕区の外敵の分布状況とホール中心のエリアをもとに各国の配置の提案があった。
台湾国軍が苦戦している2方面に各国を混成配置して、戦局を打開して2方面から挟撃して救助網を広げる作戦だった。
黄が話し終えるや否や劉将軍が決して大きくはないがよく通る声で異を唱えた。
「せっかくのプランだが、我々は遠慮させていただこう」
スクリーン前に立つ黄の顔に緊張が走る。
「通常部隊ならまだしも、我々のような恩恵適応者に付け焼き刃の連携は愚かだ。お互いの能力を出しきれないばかりか、互いを巻き込んで死傷する可能性もある」
米軍のジョイスも劉将軍が話そうとしている内容がわかったのか、さも同意であるという表情を浮かべた。劉将軍は黄になお言葉を続けた。
「ホールの状況は深く理解できた。感謝する。我々は独自の作戦を展開させていただく。他のどの軍の協力も我々は必要としないがせめて我が中国人民解放軍とは異なるエリアでの軍の展開を推奨する。我々に巻き込まれたくなければな。それにあたって、今のブリーフィングに欠けていたことを質問したい」
劉将軍は少し言葉を区切ると「蔡鳳鳴秘書長はエリアのどこで消息をたった?」と黄をまっすぐ見据えて訪ねた。
黄が目を見開いて明らかな動揺を見せて言葉に詰まった。
劉将軍が追い討ちをかけるように続ける。
「今回のホール発生に巻き込まれていることはこちらでわかっている。我々は蔡秘書長の救助に最適なルートで外敵を駆逐をさせていただく」
聡明と丈二郎の横で借りてきた猫のように静かにしていた浅野が思わず「これはまずいな…」と呟いた。
丈二郎が聡明に浅野の言葉を引き継ぐように聡明に小声で説明する。
「確かにやばいかも。蔡鳳鳴というのは台湾二大政党の和新党の幹事長にあたる大幹部だ。和新党は中国と距離をとってきた政党だからその最高幹部を中国が救助保護するのは政治的な狙いがあるからだ。これを機に和新党への影響力やパイプを狙っていると考えられるね。米国が黙っているわけない」
丈二郎が言い終わらないうちにジョイスの大きな声が響く。
「蔡秘書長について米国にも情報をご共有いただきたい。それと我々は個別で台湾電子集積の楊会長のご長男で同社幹部の楊安可氏の捜索依頼をご家族から頂いている。そちらの情報についてもお願いしたい」
劉将軍が台湾電子集積の楊安可の名前を聞いて頬ぴくりと動かした。中国側は未確認の情報だったようだ。
ジョイスの主張に黄が改めて驚いた表情を見せたが、観念したのかスクリーンに投影した被害エリアのマップを指した。
「大変デリケートで国家情勢に関わる情報なので伏せておりましたが、当時確かにお二人ともエリア内部にいました。発生したホールに極めて近いこの文化商業施設におりました。港湾エリアにある古いレンガ造りの倉庫群を改修した施設です。当時ここで台湾電子集積の楊役員と蔡秘書長をふくめた複数の要人が出席している非公式私的な会合が行われていました。護衛がいて、ホール発生後一時避難してお二人とも近隣のビルに籠城しているとの連絡があって以降安否がわかっていません。よってホールから近い距離で身を隠している可能性があります」
「結局、中心をめざせってことね。私たちはこちら側からいくわ」
ジョイスが劉将軍を見ながらマップの片側をさして「分かっているわよね?」という表情で言った。
「承知した。我々はこちら側にしよう。どこからであろうと大差ない。勢い余ってテキサスのバラを枯らしてしまったら国際問題になる。離れているのが賢明だろう」
「ふふふ、確かに将軍様の毒死なんて事件を起こしたら私の出世に影響しそうね、気をつけるわ」
ジョイスと劉将軍の会話の応酬により、会議がはじまってものの数分で米中が相反する戦場の構図が成立していった。
哀れな台湾国軍の黄が会議室の前方で頭を抱えている。黄としては最も避けたかった展開だったはずだ。
「さながら争奪戦だな。どうする?」聡明が丈二郎に聞く。
「難しいけど、米軍に正面切って対峙することは立場上ありえないから、中国側と帯同はない。けど、将軍と対峙したくもないね」
聡明は少し思案するような表情をしてから決断した。
「我々も第三軸として参戦するか。理想はターゲットの両名を我々が確保する。それが一番米中の安定を産むし、今後将軍も我々を無視できなくなるだろう」
「いいね、助けた奴が勝ちってね。勝利条件シンプルな方がいいからね」
「お、おい、お前ら何を勝手に言っているんだ。日米協調が我々の大原則だぞ」
浅野が慌てて止めに入る。
「浅野2佐は嘉手納の米軍通常部隊との協調作戦をご展開ください。市民の人命救助こそが大原則です。日米の高度な連携指示は浅野さんにしかできない」
聡明が浅野を見下ろして、ことさら丁寧に告げる。
「お前、俺をこの件から外すつもりか!」
「言ったでしょう。ホールのことは我々の専任事項だ。ここはあなたを守りながら戦えるような戦場では無いですよ」聡明は冷たく言い放った。
浅野は「貴様、守るだと!?」と聡明の言葉に感情的になりかけた。軍人として侮辱を受けたと感じたが丈二郎が「あの化け物2人と同じ戦場にいて生き残る自信あります?」と将軍とジョイスを指すと怒りを飲み込んだ。
「貴様、もし米軍と拗れるようなことがあれば責任をとらせるからな」と捨て台詞を吐いて、会議室を出て行った。
丈二郎が浅野の後ろ姿をみながら「こんな世の中なのに、責任ってなんだろうね」と乾いた笑いをこぼした。
劉将軍は話は終わったとばかりに自軍を引き連れて会議室を出ようとして、聡明たちの前に思いついたように立ち止まった。
「お前たちが東京でホールに侵入することに成功した2人だったか。日本の英雄、藤聡明と『裏切りの呂布』の丈二郎ガルシア八雲。何を考えているか知らないがホールに潜ったのがお前たちだけだとは思わない方がいい」
「あらら、そのパターンは初めてだな。だいたいコウモリとかなのに中国だと裏切り者って三国志ネタなの」丈二郎がニヤニヤとしながら返す。
「別に自分たちが特別だと言っているわけじゃない」聡明が静かに返す。
「…お前たちはこの戦いどうする?」劉将軍が聡明に問いた。
「せっかくなので我々も参戦させていただくよ。オタクら米中とは別のルートで二人を探させてもらう」
劉将軍は聡明の返答が気に入ったと表情をすると「戦場で会おう」といって部下を連れて会議室をでていった。
「ガルシア、終わったらお茶しましょ。勝手に帰らないでね」
劉将軍と入れ替わるようにジョイスも丈二郎に声をかけて会議室を颯爽と出ていった。
ジャック・クランシー少尉はまだ怒りがさめないのか、丈二郎に何か言いかけてジョイスに咎められ渋々とジョイスの後を追った。
丈二郎と聡明はお互いをみると頷きあった。正体不明の魔人Xと対抗するためには、劉将軍をいずれ仲間にして協働でホールへ潜入して魔人に立ち向かう必要がある。この台湾でのホールはそのための1歩にできるはずだ。
「それじゃ、みんなのところ戻りますか」丈二郎がわざとまったりとした口調で言った。




