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第44話 台湾派遣

 6月最後の週末、台湾南部の高雄市では温暖な気候で知られる同市でも稀に見る過去数年に一度の猛暑に見舞われていた。高雄市は台湾第三の都市圏の中心都市で、古くからの天然の良港で知られる台湾最大の港を有する港湾都市だ。

 その台湾の重要物流拠点の都市で、太陽の熱線が降り注ぐ日曜の正午にホールが発生した。

 台湾はそれまで過去にホールが発生したことがなかった。台湾政府は速やかに自軍を展開して、ホールの発生した高雄市内の塩埕区を封鎖、市民の救助にあたった。

 ホールが発生した地区は高雄港に隣接する港湾エリアで古い倉庫をリノベーションしたアート展示などがで再開発された人気の新興観光エリアでもあったため、観光客を含めて甚大な被害が発生しつつあった。



 ホールからはアンンデッドと呼ばれる外敵たちがあらわれ、次々と人々を襲っていった。ミイラやゾンビ、動く骸骨であるスケルトンなどが大量に発生した。

 アンデッドは動き自体は俊敏ではなかったが、ホールの発生したことがない台湾には適応者が自国内に存在せず、台湾の自軍のみでは銃弾で打たれようが動きを止めないアンデッドたちに対応ができず、ジリジリと防衛戦を下げながら救助を行う対応が限界だった。

 台湾総統は即時に諸外国に救援要請を行い、同日15時には沖縄の嘉手納空軍基地から米軍が要請に応じて適応者を複数含めた特殊中隊が出動した。

 日本も自衛隊を国際緊急援助隊法に基づき派遣した。外特機動隊を中心とした特別部隊を編成され、横須賀から台湾に向けて米軍から遅れること1時間後の16時に飛び立った。

 自衛隊の出立と時をほぼ同じくして、中国自民解放軍も災害派遣として適応者を含む救助派遣を実行した。

 台湾では総統選を年明けに控えている中で対中融和派の進国党と中国と距離を取る和新党による政治的な綱引きが行われており、それぞれの陣営の背後には太平洋の覇権で睨み合う米中がいた。

 外敵駆逐を名目に米中の主力軍事力である適応者の先鋭が高雄ホールで台湾治安維持をかけて成果を競い合う様相になりつつあった。



「まもなく、中華民国国軍、岡山基地に着陸態勢にはいります」

 輸送機のパイロットからの伝達が藤聡明がつけたヘッドセットに入る。

「着いたらすぐに作戦開始となる。夜間の作戦だ。みんな、今一度確認と準備を」

 聡明は部隊のメンバーに号令を出す。

 総勢42名の部隊となっている。そのうち聡明や丈二郎、絢、豪太を含む外特機動隊隊員が5名、一般自衛官が31名、そして横須賀クラスの八雲班の3名と磯前豪太が率いる磯前班の3名が参加していた。



 聡明は目の前に座る男をみる。男は聡明を睨みつけてさも苦々しく口を開いた。

「藤。わかっているな。勝手なことをするなよ」

「浅野さん。外特機動隊を中心とした作戦です。特忌区域の中の現場の判断は私がします。別に変なことをしようってわけじゃない。そう睨まないでください」

「ふん。お前の独善先行は有名だ。俺が来たからには勝手はさせない。特等だがなんだか知らないが、ここは2佐の俺が最終的なボスだ」

 聡明はご自由に、という表情をして浅野から視線を外した。今回の作戦は鹿島田総理が判断し、早川陸将補の指示により派遣されている。かねてから外敵駆逐の国際協力において日本の国際貢献を高めることで諸外国への影響力を強化したい総理の政治判断により近年外特機動隊の海外派遣の頻度が高まっている背景があった。

 鹿島田総理のお気に入りとして早川陸将補が陸自においてその推進をしている、というのは自衛隊内部では知られた話だった。

 目の前に座る浅野はその早川が現場時代から配下にしている小飼の部下だった。差し詰め、前回の御殿場での木葉の恩恵能力の使用騒動を反省にした早川が外特機動隊に対してのお目付け役を送り込んだ、といったところだ。

 今回の特別部隊において、早川は浅野を含めて自身の配下の選りすぐりの自衛官30名の部隊を参加させている。



 聡明は機内の奥を見た。彼方たち横須賀クラスのメンバーが緊張した面持ちで装備を確認している。横須賀クラスのメンバー6名を派遣させたのも早川の指示だった。政敵である宮山幕僚長に対して、自身が断行した御殿場での横須賀クラスの訓練成果を誇示したい焦りが透けて見えた。

 聡明は早川の横須賀クラス帯同の指示に対してあえて木葉を含めた八雲班を帯同させた。早川は木葉を作戦に参加させることに強く反対したが聡明は横須賀クラス帯同承諾の条件として押し切った。丈二郎が報告した『魔人』の件もあり、聡明や丈二郎が手に届かないところに『魔人』に遭遇した3人を日本に残すのが危険に感じたのと、逆にこの台湾で何かまた予期せぬ事態を誘発して更なる進展が期待できるかもしれないと予感したからだ。

 今はまだとにかく奴らの情報がたりないー、聡明はそう感じていた。

 木葉に関しても能力の伸び代が未知数であり、聡明としてもより現場を積むべきだと考えていた。

 聡明は今回は豪太の班である磯前班も帯同させることにした。豪太自身の能力が有能で作戦に必須なことと、磯前班には伏見がいたからだった。

 御殿場でチームを組んでいた伏見、鳥海、大山は磯前豪太が班を率いていた。なにかと彼方とトラブルを起こしている伏見だったが、伏見の恩恵の実力を考えるといち早く現場で力をつけさせたいと思っていた。

 伏見の恩恵は「火」を生み出すことができる恩恵だ。世界では氷、雷、水などの自然現象を発生させることができる恩恵がいくつか確認されているがそのどれもが非常に恩恵能力として強力で、各国の主力戦力と目されていた。

 伏見はこの後の日本の適応者として、主力級になる期待がかかっていた。聡明としては、伏見が現場を経験することでやや難のある伏見の性格的な成長をうながせたら、という親御心もあった。



 ーあの時の渋谷で助けた少年と一緒に作戦に出る日が来るとはな。

 聡明はかつて丈二郎とともに戦った渋谷合同作戦を思い出し感傷的になった。

 自分たち最初の世代が切り拓いた道に次の世代が続いてしまっている。一刻も早くこの戦いを終わらせて後輩たちには戦場のない日々を与えてやりたい、改めてそんな気持ちを強く抱く。

 目の前で忌々しそうに自分を見る職業軍人は、組織や国家にとらわれていて分かり合える気がしないばかりか、どこか自分が進める外敵との戦いにおいては水を差すような部外者に感じた。

 外敵との戦いにおける当事者は結局のところ適応者でしかない。自分の心の奥底にモヤモヤとした薄暗い何かが立ち込めるのを感じて気持ちをリセットしようとする。

 違う、外敵は人類の敵だ。外敵の前では等しく皆人類は仲間で味方だ。自分たちと目の間のこの男も同じ人間だ。同じ人間のはずだ。それだけは忘れてはいけない、と聡明は思った。


 聡明の心の葛藤をよそに、機体に衝撃が走る。台湾南部に位置する岡山基地に輸送機が着地した衝撃だった。

 日本、米国、中国の3カ国という政治の世界を巻き込んだ未知の戦いがこの地で行われようとしていた。

お読みいただきありがとうございます。

第二章が始まります。日々更新していきますので、ぜひまたお読みください。

コメント、評価ぜひおがいいたします。

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