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第39話 発見

 八雲班の4人は小倉特忌区域の深部に向かって進行をした。


 丈二郎は熊野と小葉にも戦い方の簡単なレクチャーをしながら、班の歩みを深部へと進めた。

 小葉にはスリングショットと恩恵の掛け合わせ方のイメージや戦い方のヒントを、熊野は現状の徒手空手による肉弾戦の手法が最適なので新たな武器はなかったがいくつかの恩恵を活用した戦闘方法のアドバイスをしていった。


 住民の避難によって遺棄された住宅街の進む。

 左右の民家は軒の先に雑草が生い茂っている。

 ひび割れたコンクリート壁の隙間に小さな野草が根を張り白い花をつけている。

 小さな羽虫が飛び交い、久しく人の往来がなかった道を進む八雲たちの姿に驚いたように野鳥が時折飛び去る。

 ここは随分前に人類のテリトリーではなくなり、自分たちが招かざる侵入者として侵犯をしているのだと、小葉は肌で感じた。


「おかしいな」丈二郎が首を捻りながら小さくつぶやいた。


 アルミラージにも、オークにも、その他の外敵にも遭遇しない。

 外敵が出現しないことは駆逐対象であることを考えると本来は歓迎すべきことだが、小規模のホールであるためすでにかなり深部に近いづいているが1体とも外敵に遭遇をしていない。

 珍しい事態を通り越して、何かしらの異常事態と考えた方がい良いだろう。

 丈二郎は3人により一層の周囲への警戒を促した。


 聡明にかつて聞いた神岡特忌区域で彼方を見つけた時の話を丈二郎は思い出す。

 あの時の聡明も外敵に全く出くわさずに、突然謎の外敵との遭遇をし、その後彼方を発見している。

 聡明もやはり不穏な空気を感じている中で、唐突に未知の外敵と遭遇したという。

 今回も同様の何かしらのイレギュラーケースである可能性がある。

 もっとも聡明が遭遇した謎のフクロウの外敵は攻撃の素振りは皆無だったらしいが、今回同じ性質である保証はない。

 出会った瞬間に全滅があり得るような火力のバケモノが現れる可能性だってあるだろう。


「ーー何か聞こえる」彼方が小さくつぶいた。

 4人が立ち止まる。他の3人も耳を凝らすが特に何も聞こえない。

 彼方は眉間に皺を寄せて何かを懸命に聞き取ろうとしている。


「彼方、何が聞こえたっていうのー」痺れを切らして小葉が訪ねる。

「ーシッ!」彼方は小葉を遮るように言うと「女の子の声だ!」とハッとして丈二郎を見た。


 丈二郎は、彼方の驚異的な聴覚と少女の生存の可能性に驚きながらも、3人からの目線を受け止めると頷いて指示を出した。


「救出に向かう。彼方は先導。その後ろに僕がつく。その後ろに小葉、最後は仁之助。仁之助は後ろ任せたよ。彼方、女の子の距離と方角は?」

「多分、400~500メートルくらい離れていて、斜め右、2時の方向だと思います」

 その距離感で認知できるのかーーと丈二郎は驚きながらも班のフォーメーションを即座に組み、行動を開始した。通りを素早く走り抜け、彼方の感覚を頼りに右折、左折、右折と細かい住宅地の小路を抜けていく。

 いつ脇から外敵が飛び出してきても大丈夫なように丈二郎は警戒を怠らずに走る。


 この小規模ホールのアルミラージやオークなら突然出てきても、丈二郎の実力を持ってすれば瞬殺に近く制圧ができる為危険はないはずだ。

 この場合は出会い頭で外敵と会敵することリスクより、スピードが優先される。

 彼方の聞いた音の主が例の行方不明女児だった場合にはかなりまずい状況だ。

 7歳の子供が外敵と相対して10秒持つことができれば御の字だ。

 上手く隠れたり逃げてできてなければ瞬時にやられてしまうはずだ。

 自体は文字通り一刻を争う。


 警戒していたものの、右に左にと彼方の先導ですすむ小路に外敵は現れず最後の角を曲がると遊具がいくつかある中規模の大きさの児童公園にたどり着いた。


「ーーいた!」

 彼方が叫ぶ。

 4人が公園に乗り込むと、そこにはジャングルジムを背に半円状に数十体の外敵に囲まれる女の子の姿があった。

 ジャングルジムの前に立つ女の子は恐怖で震えている。

 先ほど彼方が聞いたという声はこの女の子で間違いなさそうだ。

 恐らく外敵に見つかり思わず大声を上げてしまったに違いない、と小葉は思った。

 ただ、事前の情報と異なり女の子の横に同じく怯える表情を見せる中年の男性がいた。

 白いワイシャツに黒縁メガネでどう見ても自衛隊関係ではなく一般人のようだ。

 駐屯の自衛隊部隊から先だって端末に届いた情報を思い出す。行方不明女児は一人で居処がわからなくなっている。

 その子の両親が今回通報しており両親ともに健在。兄弟親戚知人などの顔見知り一緒にいる可能性といった情報は無かった。

 一方で、女の子の方は事前情報の写真に写っていた姿に似ていて、何より聞いていた通りの赤いワンピースだった。


 思わず小葉が叫ぶ。

「ーサカモトアイちゃん!?」

 女の子が弾かれたように小葉たちを凝視して、恐怖で瞳を見開いて壊れたおもちゃのように激しく頷いた。

 そして子供の声と思えないくらい大きな声で叫んだ。


「助けてーー!」

 その瞬間一斉に、取り囲んでいた外敵が小葉たちにぐるっと向いた。

 総勢20体ほどのアルミラージとオークが群れになり八雲班と睨み合う。

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