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第36話 八雲班

 御殿場の箱庭訓練の2週間後、彼方と小葉、そして熊野の箱庭訓練が同じ班だった3人は福岡県北九州市は小倉にいた。


 御殿場から帰って来た翌週、横須賀クラスはより訓練の練度を上げていくために外特機動隊のメンバー1名をメンターとして帯同させて、実際の外特機動隊の比較的容易な実務に取り組む実地訓練をすることが中山から告げられた。

 実地訓練では箱庭訓練の班に1名の外特機動隊員がついて新たな班を形成することとなった。

 そして彼方たち三人にとって最初の訓練がこの北九州の地となった。


「みんなー!待ったー?」

 小倉駅前で待つ三人に緊張感の抜けた声が後方からかかる。

彼方たちを指導するのは外特機動隊の副隊長の八雲ガルシア丈二郎だった。今日も相変わらずトレードマークの作務衣にゴム草履というラフな格好だ。

 藤特等自身がこの実地訓練のメンターには加わらず、隊長任務に専任する事となっていた。彼方たちはメンターとして参加する外特機動隊員の中で実質NO.1の実力を誇る丈二郎が自分たちの担当であると聞いて緊張していたが、丈二郎が福岡市内の有名洋菓子店の袋を下げて駅からぶらぶら歩いて来たのを見て拍子抜けをした。丈二郎は両手一杯に下げた紙袋を見せて悪びれず言う。


「知っている?これ美味しいんだよ。お店がすごい並んでて待ち合わせに遅れてごめんね。申し訳ないけどみんなの分はないから欲しかったら帰りに買いに行ってね」

 木葉が怒りを滲ませながら「結構です。八雲副隊長、早く行きましょう」と冷たく言った。


 熊野班改め八雲班となった4人は、迎えにきていた自衛隊の車両に乗って北九州市小倉北区の小文字山の麓に広がる小倉特忌区域に向かった。

 特忌区域は山麓の一部斜面と住宅街を侵食するように円形に形成されていた。

 先日の富士山麓特忌区域のサイズや広大な市街地が含まれる事で有名な千歳特忌区域などと比べると「小規模ホール」と呼ばれる比較的に小型サイズの特忌区域だ。

 区域の外周一体は住民が避難しており無人の空き家がしばらく続く、その後突貫工事の道路のように急にひらけた帯状の空き地が出現した。区域の外周の家屋を防衛上把握できるように更地にしてあり、その空き地にバリケードが作られている。

 まさにここが外敵との攻防を行う小倉の最前線となる。

 これより八雲班は区域の内部に侵攻して外敵への攻勢駆除を行う予定だった。

 外特機動隊は全国の特忌区域をまわって定期的にこの攻勢駆除を行い、外敵を間引いてスタンピートを発生させないようにすることを活動の大きな柱としていた。

 八雲班は到着後すぐに駐屯部隊の本部テントでエリアを受け持つ部隊長から最近の小倉特忌区域の外敵のブリーフィングを受けることとなった。



「主な外敵は大体2種になっていてアルミラージとオークです。アルミラージはウサギのような外観ですが額に長い角がある外敵で、オークの方は豚の頭に人型の体型をしています。オークは個体によっては猪のような大ぶりの牙が生えています。アルミラージは力は強くはないですが非常に素早いです。一方でオークは素早さこそないですが個々なかなりの怪力です」


 部隊長が一角兎と豚頭の怪物の写真を投影して動きの特徴を彼方たちにインプットする。

 昨日今日と区域の動静は静かだが、前回の攻勢駆除から3ヶ月ほど開いてしまい外敵の活動が活発化になるのを恐れていたので今回の八雲班の到着を心待ちにしていたと部隊長は彼方たちに感謝を伝えた。その後すこし申し訳なさそうな顔をして続けた。


「それと、近隣の住人で7歳の女児が行方不明になっている事案が昨夜から発生しています。先ほど連絡がありまして、防犯カメラの映像から特忌区域近辺に迷い込んでいる可能性があり警察や我々で捜索をしていますが見つかっていません。もしかすると区域内に入り込んでしまっている可能性があります」

 こちらの警備の不手際で申し訳ない、と部隊長が頭を下げる。


「それは大変だ。中にいるならすぐに助けないとだね。木葉、行方不明の子の情報を端末にもらっておいてくれるかな?すぐに出るよ」



 彼方たちがバリケートを開けて特忌区域の中に入った。端末を見ながら小葉が送られてきた情報を読み上げる。


「小倉北区在住の7歳の女の子です。名前はサカモトアイちゃん。身長120センチほど。昨日の夕方から行方不明になっているようです。その時の服装は赤いワンピースです。近隣の公園からの帰り一人で自宅とは違う方角にあるているところが防犯カメラで確認されています。これ、あのバリケードを7歳の子が突破できますか?」

「うーん、なんともいえないなぁ。ただこの小倉ホールは裏山があるからね。事実上閉山状態だけど林の中までは囲ってなさそうだから入ろう思えば入れるかもね。山頂からの景色はかなりいい感じでかつては有名だったそうだよ。でもまぁ区域に入り込むのは基本的には難しいだろうね。それにあまり言いたくないが昨日の夜から特忌区域に入っているのだとしたら生存は望めないね」

 丈二郎がペタペタとゴム草履で先頭を歩く。海水浴に来たバカンス先の観光客のようにのんびりとした雰囲気を纏っている。

 丈二郎は立ち止まると3人を振り返った。

「まぁ女の子のことは忘れずに意識をしていこう。ただ、その前に外敵だ。こっちを油断していると文字通り命取りだ」


 丈二郎は、外敵もそろそろ出て来るかもしれないのでその前にちょっと話そうか、と言ってその場で3人を集めて輪になった。


「まず、とても大事なことだ。これから僕は君たちに外敵との戦い方や戦闘のこと、恩恵の能力のことを教えていく。だから僕のことは『師匠』と呼ぶように。『師範代』とか『先生』でもいいよ。スターウォーズのマスターヨーダとか、ドラゴンボールの亀仙人とか、ベストキッドとか、ああいう感じがいいんです。呼ばないと教えません。」


「む」と熊野が怪訝そうにした。

「は?」と小葉が明らかに不快そうにした。

「・・・!!」と言葉にならない喜びで彼方が表情を明るくする。


「彼方はいい反応だね〜。二人は不服そうだね」丈二郎は明らかに面白がっている。

「副隊長が強いのはわかっている。ただ、俺とはタイプが違うというか。俺はすでに空手の師範がいる」と熊野が申し訳なさそうに言う。

「大丈夫だよ。僕のことを恩恵の特徴から斥候型というか隠密なタイプだと思っていると思うけど、そっち系も得意だけど元々はバリバリの武闘派だよ。僕はメキシコ系だからね小さい頃はおじいちゃん、アブエにボクシングでしごかれたんだよ」


 ちょっとやってみる、と言って丈二郎は両手でファイティングポーズをとって細かく前後に刻むように動いた。

 大柄な熊野が仕方なく拳を構えて「後で文句言わないでくださいね」と言って拳を構えた。


 軽くジャブを当てて、熊野はドンと踏み込むと丈二郎のボディに突きを入れ、間髪あけずに上段の蹴りを入れた。

 丈二郎は突きを体であえて受けた後にステップバックと体勢をずらして熊野の蹴りをかわした。

「あっ」彼方と小葉が同時に小さく叫んだ。

 ステップバックと同意に流れるように丈二郎の体が動いて上段蹴りを外してノーガードの熊野の顔面スレスレで拳を寸止めした。


「ふふ、これでも一応大学生の時には全米学生アマチャンピオンまでなっているからね」

「驚いた。俺も空手では結構やれると思ってたんだが。八雲副隊長、強いな」熊野が降参した表情を見せる。

「副隊長、適応者なのに大学生チャンピオンになったの?それっていいの?」小葉がそういえばと言う表情で疑問を口にする。

「あー、違う違う。僕が14歳の時だね。適応者になる前。僕、天才だから13歳からMITで物理やっているから」

「な・・・飛級でマサチューセッツ工科大学でボクシング王者・・・スペックお化けだ」

 小葉が驚愕する。

「あれ?僕が天才って噂を聞いたことなかった?有名だと思ったんだけど」

「・・・あります」

 小葉が渋々と言った感じで答える。

「改めまして、天才で最強でおまけにイケメンの君たちのお師匠の丈二郎ガルシア八雲です」

「・・・先生、もうちょっと日本だと謙虚さが美徳とされます。能ある鷹は爪を隠す的な」

 小葉が少し呆れ顔で言うと丈二郎は笑顔で返した。


「その諺は凡人が考えたやつだよ。能がありすぎるのに隠すと、ただの嫌味になるだけだから、覚えておくといい」

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