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第3話 適応者②

 世界で最初に「ホール」が現れたのはアメリカ・ミネソタ州郊外の住宅街だった。


 2024年10月12日、土曜の昼過ぎの時間だった。忽然と巨大な陥没穴が発生し、数軒の家と走行中の車が1台、土砂やコンクリートとともに飲み込まれた。直径で20メートルを超える巨大な陥没で、救助のために駆けつけた消防員が中を覗き込んだが、底が見えず、日中にもかかわらず巨大縦穴の奥は暗い闇に覆われていた。縦穴内部の救助のため合計五人のレスキュー隊が下降したがいずれも途中でロープや通信が途絶え帰還者はいなかった。


 その後、すぐに米軍の管理下に置かれたが、ホール発生の5時間後、突如穴の内部から異形のものたちが発生した。それは巨大な蟻のような形をしていた。サイズにして1m弱、大型の犬のようなサイズの蟻が大量に湧き出たのだ。米軍は即座に応戦するも、自動小銃をものともせず数の力であっという間に米軍を制圧するとそのままの勢いで四方八方に広がった。あたりの民家や施設を巨大蟻たちは襲撃し、およそ半径5キロ一帯の人間を殺戮し尽くした。奇妙なことにその異形の蟻は犬や猫、鳥、リスなど、野生やペットを問わず人間以外の動物にはまるで見向きもせずに攻撃をしなかった。また、さらに奇妙なことに全ての個体がおよそ半径5キロ付近で侵攻をやめ、その後はあたかも広げた領土をまもるように5キロ以内に入ってきた人間のみを攻撃した。


 アメリカでの「ホール」の出現の後、数日後に中国の広東省でも同様の事例が発生し、ホールからはムカデ状の巨大生物が発生し、付近に壊滅的な被害を出した。その後堰を切った様に世界中でホールが出現し、日本国内でも10月22日火曜に北海道は千歳市にて国内最初のホールが発生した。千歳は空港を含めた市街地に甚大な被害を引き起こした。その後2024年の内に、世界中で27の国と地域で複数のホールが発生した。


 人類は前代未聞の事態に混乱を極めた。

 異形の者たちは地上の生物たちのどれとも異なり獰猛で攻撃的、強固で頑丈な存在で人類を一方的に虐殺した。銃などの既存の小規模な火器では殆ど役に立たず、各国は軍などによる爆撃攻撃を行ったがそれでも駆逐することができなかった。ついにはロシアが小型の戦術核兵器の使用に踏み切ったが、異形のものたちを一部滅するのみでホールから新たに出現される異形のものたちを前に有効打にならなかった。やがて人類はホールを中心とした人間が入り込めなくなったエリアを放棄しその周囲を囲うように軍などで武装して警戒をするほかなくなった。


 人間のみを攻撃対象とし、太刀打ちできない強さの異形の生物たちをやがて「natural enemies」と人類は呼ぶ様になった。日本では「外来天敵」という言葉で呼ばれ、一般には「外敵」と呼ばれる。また、遺棄された防衛ラインの先の土地のことを「特別警戒忌避区域」、通称「特忌区域」と政府は定めた。


 未曾有の危機に陥った世界だが、翌年、不思議な現象が世界各地で確認される。


 世界中で、件の特忌区域の出身及び周辺地域の土地で育った未成年の中に、ある特別な傾向を持つ子供が、極一部、出現し始めたのだ。身体能力が通常の人類のそれを超えて急激に伸び、怪我などからの身体的な回復も常識を逸する速度で回復し、また身体そのものの強度も超人と言って差し支えないレベルの頑丈さを持つ子供が出現したのだ。しかもそれまでは全くの普通の少年少女だった子供が15歳を迎えてしばらくすると、外見的な特徴が変化しないのにも関わらず突然その様な能力を発露するという今までの常識では考えられない現象だった。本人たちに特に共通する理由や出自もなく、唯一特忌区域の周辺の出身だっただけ、しかもごく一部の子だけにあたかもランダムに発生した。当の子供達本人にも理由がわからないが、15歳を迎えると能力の覚醒を迎える子供達が現れたのだった。


 混乱する未曾有の世界に、外敵という捕食者との新たな力関係に「適応」した人類という意味で、その子供達には名前が付けられた。


「適応者」

 彼らは今、そう呼ばれている。


 栞が今日から担当する「横須賀クラス」に集められた高校生たちのことだ。

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