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第27話 幕僚監部会議

 東富士演習場のドラゴン騒動の7時間後、藤聡明と丈二郎ガルシア八雲は「市ヶ谷」に呼び出されていた。

 防衛省が置かれる東京の市ヶ谷駐屯地、その中にある陸上幕僚監部に出向いていた。


 レッドドラゴンの撃退後、すみやかに箱庭訓練は中止となった。


 約半日ほどで終了となったが、提出映像をもとにみると各班それぞれ撃破を重ねていて一定の成果は上げられたと見えた。

 とくに伏見班は途中でカメラアクシデントがあったとの報告があったが、目覚ましい数の成果をあげていた。

 何よりもイレギュラーの事故といえるドラゴンの強襲があったなかで人的被害者がなかった、というのは奇跡に近い。

 レッドドラゴンに立ち向かった熊野も持ち前の頑丈さから両腕の骨折で済んだのも奇跡と言える。


 そんな騒動の整理をしていた最中、聡明と丈二郎の二人は市ヶ谷の陸上幕僚監部からの緊急招集を受けたのだった。



 防衛省本庁のヘリポートからビルの内部に降りるエレベーターに乗り組むと丈二郎は制服の襟の乱れをエレベーター内の鏡を見ながらなおしている。


「丈二郎もこういう時はちゃんと制服着るんだな」

「そりゃそうだよ。僕は結構合理的だからね。組織で出世するタイプの人間は大体僕みたいな人間が嫌いだからね。今日のお相手には特に変に目だたたない方が良さそうでしょう」


 丈二郎は鏡越しに聡明を見ていたずらそうに笑って続けた。

「大体の組織人はどんなに優秀でもコントロールの効かない天才肌より、愚鈍なパフォーマンスでも予測ができる従順な間抜けの方が好きなものさ。だからせめて組織には従順なフリはしないとね」

「それは実体験?」

「残念ながら、どこの国でもそんなものさ。大差ない」


 丈二郎は鏡に背を向けると話題を変えた。

「結局、『先生』は招集理由を教えてくれなかった?」

「いや、むしろ梶ヶ谷陸佐も呼ばれてはいるが理由をしらなかった。幕僚長からは細かい話は言われてないらしい」

「十中八九、宮山からの釘刺しだね。むしろレッドドラゴンのこともふくめてかも。いずれにせよ彼らは横須賀クラスにまつわる派手な動きを嫌う」

「幕僚長に白兎の行動が伝わったと」

「逆に3日間もよく情報が広がらないように対応できた、とも言えるね。白兎が能力を使った時、隊員がむらがっていたのに統制がとれたのは流石。だから逆に隠さないほうが得策だね。宮山にマウントを取られる」


「いずれにせよ、今はまだ外特機動隊は力を蓄えるタイミングだ。ホールや恩恵にもわからないことが多い。丈二郎の言う通り従順なフリをし続ける必要がある。まだ宮山グループとは戦えない」聡明はメガネのずれを直しながら呟く。


「そうだね。むしろ、今回の訓練でいくつか気になることもでたね。僕的には『聡明のお気に入りの彼方くん』はその筆頭だ。これはレポートには入れない方がいい。恩恵の理解の手がかりになるとおもうね。上層部のおじさんたちには手に余る情報だ」

「わかった。丈二郎は彼方をケアしてくれ」

「いいの?お気に入りが僕の弟子になって取られちゃうかもよ」

「丈二郎なら安心だよ。君はいい先生になる」


 目的のフロアについてエレベーターを降りると「嬉しいこと言うねぇ、ようし、今日もがんばっちゃおうかな」と丈二郎は大きく伸びをした。聡明は少し笑みを浮かべながら目の前の重い扉を開けた。



 部屋の中にはすでに会議の参加者が集まっていた。


 楕円状の会議卓にそれぞれが座っている。

 中央には陸上自衛隊幕僚長である宮山陸将が座る。左右に数人の幹部たちが座っている。

 彼らは宮山グループと呼ばれ、現在の陸上自衛隊の主流派で、陸海空を束ねる統合幕僚長の衣笠陸将も宮山の直属の先輩でグループの後押しを受けて統合幕僚長のポストをおさめた。

 長く陸上自衛隊の宮山グループ陸海空自衛隊全体のパワーバランスでも優位にたっており、その影響力の根幹は横須賀クラスを原点する『外来天敵特別機動中隊』であった。

 つまり藤聡明らの部隊である。


 聡明は会議室の中央に歩み出ると敬礼をした。


「外特機動隊の藤です。遅くなり申し訳ございません」

 宮山幕僚長がにこやかに応じる。


「いや、いい。御殿場から急ぎ駆けつけてくれてご苦労。なんか大変だったみたいだね。例の箱庭訓練の報告、してくれる?」


 やはりかー、想定通りの展開だった。毎度毎度、飽きずによくもこんな茶番をやるもんだ、と聡明は表情に出さないが億劫に感じた。

 しかし、いまはうまくやるタイミングだ。視界の端で、会議卓の末席に座る「先生」の姿を捉えると気を取りなおして「承知しました」と宮山幕僚長に応えた。

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