第21話 コンビネーション②
御殿場へ向かうヘリの中で木葉は彼方と熊野に2つ目のコンビネーションについてそのアイデアを説明した。
「もう一つのコンビネーションでは、熊野さんはできる限りの広範囲の攻撃をしてください。なるべく広い範囲で」
「なるべく広範囲で?」
「はい。全身を使った攻撃でも、岩石の無差別投てきでも。とにかく外敵に当たるか当たらないかは別として、むしろ的中の精度を落として威力や手数を優先した方が望ましいです。そして、外敵と彼方、両方が『当たる可能性』のある範囲の攻撃をしてください。要するに『当てずっぽう』で『ランダム』でいいので強力なやつです」
「それは出来ると思うが、戸隠は回避能力で避けられるだろうけど、素早い外敵も無作為な攻撃は避けやすいんじゃないか?」
「大丈夫です。私が熊野さんの攻撃に必中性を付与します」
木葉は彼方と熊野の顔を見て、説明するの大丈夫、という表情をした。
そして「まずちょっと前提を整理しますね」と続けた。
「私の恩恵は分けて配ることです。この能力の発動条件には重要な原則条件があります。それは効果対象が単体では発動ができない、ということです。分け与えたり、渡したり、交換する相手、つまり効果対象が複数いないと発動ができません。外敵単体のみに作用をしないんです。つまり、複数の外敵がいるか、外敵と自身や仲間も含めた形で恩恵を発動をさせる必要があります」
「つまり、彼方と外敵の両方に効果を発動させる、ということか」熊野が話の要点が掴めたという表情をした。
「はい。もともと彼方は常時発動型のフルオートの回避能力があるので熊野さんの全体攻撃でも回避して当たらない可能性が非常に高いです。なのでこの作戦が成立します。回避は防御ではないので『当たる』可能性を忌避します。どんな優秀な回避能力も物理上の限界がある以上、それは可能性が0であることを意味しません。彼方に光の速さで避ける必要がある攻撃をすれば当然あたります。避けようとして物理的に避けられないので。そこで私の恩恵能力で『攻撃が当たる可能性』そのものを一方に押し付けます。私の恩恵はおそらくこういった抽象的な概念を取り扱うことができます」
彼方と熊野は木葉の説明の続きを待った。
二人とも驚きながらも木葉の特殊な恩恵能力を持ってすれば可能なのか、と妙な納得感を感じた。
「もちろんこの場合、押し付けるのは外敵に対してです。ランダムの攻撃は、物理的に不可能でない限り彼方はほぼ確実に回避をするはずですし、その上『被弾可能性』を彼方から外敵に押し付けるので、二重で回避の確実性が高まります。操作対象が可能性である以上、物理的に直撃が確定している攻撃には作用しないはずなので、回避能力がなければどこまでいっても「当たってしまう」確率が出てしまいます。なので彼方でないとできない作戦だと言えます」
ヘリの中、話を聞いた熊野はしばらく木葉のコンビネーション作戦について思案していたが、必中性を付与する作戦について思わず木葉に問いた。
「ーーそんなことが本当に可能なのか?」
「わかりません。こればっかりは実践してみないと検証できないので。」その後に木葉は最近、自らの恩恵について感じている言葉を続けた。
ーーただ、私の恩恵の本質としては可能性がある気がしているんです。
木葉の指示ではじかれたように跳躍した熊野は、跳躍の頂点に達すると手当たり次第に大量の岩石を投てきした。
熊野は自身を岩石に変えるだけでなく、小ぶりな大きさの石礫を掌から生み出すことができる。
岩石を散弾銃のように両手を振るってとにかく狙いを定めずに、跳躍するや否や彼方と最後のスライムに目掛けて投げ続けた。
そしてそのまま両手を広げてボディープレスよろしく巨大な岩の塊となって彼方とスライム目掛けて落下をした。
不思議な現象が起きた。
降り頻る石礫の雨の中で、ぽっかりと台風の目のように石礫が彼方だけさけるように、極小のポケットのような空間が生まれたのだ。
大量の石礫の雨が降る中で、彼方にはほぼ石礫は当たらず、まれに数個が向かってきたが難なく彼方は回避をした。
一方でスライムには明らかに偏ったように大量の石礫が降り注いでいる。
しかも、何故かふるふるとしながらスライムが小刻みに動きながら自ら石礫にあたっているようにも見える。
それのみならず、最後のボディープレスにいたっては何かに滑ったかのうように地面でスリップして自らプレスに挟まり、あえなく最後のスライムも爆散したのだった。
今度こそ三人は顔を見合わせて雄叫びを存分にあげた。
木葉は自身の恩恵がここまで綺麗に効果がはまったことに、予感はしていたが大きな驚きと喜びを感じた。
「恩恵は理解と解釈で進化するーー」という熊野の言葉が思い起こされた。
魔女といわれた得体の知れない怪しげな力ではなく、仲間を助けて、外敵を駆逐するための力になれる。
木葉は自身の能力に「正しさ」を手に入れた気がして、恩恵の能力を初めて誇らしく感じたことに気がついた。
木葉はなんだか気恥ずかしくなって、高揚する気持ちを悟られないように「この調子で他の外敵も倒していきましょう」と彼方と熊野に声をかけ、草原のさらに奥を目指して歩みを進めた。
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