第20話 コンビネーション
防御、攻撃ともに抜きん出る熊野を先頭に、木葉、彼方の順番に縦に隊列を組んで辺りを警戒しながら「熊野班」の三人は草原を進む。
主力の熊野が先頭に、万が一に攻撃を受けた時に回避能力に抜きん出た彼方を後方に配置することで予期せぬ会敵での被害を抑えるという布陣だ。
現在の横須賀クラスは十五名なので合計5つの班に分かれたが、ゲートを出ると各班は一斉に別方角に進んだ。
外敵の討伐数が今回の訓練では大事な指標なので、それぞれの班の討伐対象の外敵がカニバることで奪い合いをしないため、お互いの恩恵で被害が出ないように距離を取るための2つの観点から藤特等からの指示で各班ごとに別れて離散した。
木葉たちは最後にゲートをくぐり、だれも進んでいない右手奥にみえるすこし小高い丘陵を目指すこととした。
昨日のスタンピートの影響か、ゲートをでてもしばらくは外敵は発見されなかった。
バッタなどの昆虫が足を草原に踏み込むと時折飛び立つ。
頭上を見ると時折、小さな鳥が飛んでいてさえずりが聞こえる。
すでに姿がみえなくなったが他の班も含めて戦闘音は聞こえずのどかに感じるが、木葉は嫌な予感が拭えなかった。
伏見班の大山の恩恵の嫌な能力を思い出す。
先ほどから何度か頭上の空を飛び交う白黒の小鳥が同一の個体か確かめようとしたが目視では分からなかった。
なんにせよ、何かが起こるまではどうしようもない。
今は外敵の索敵と戦闘に集中する他ない。
三人は足並みを揃えって静かにだが素早く前進を続けた。
突然、先頭の熊野が右手を拳にしてスッと掲げた。
進軍ストップの合図だ。
敵影が見えたのだ。
熊野が指差す方を見るとスライムが三体ほど草原にいる。
何をしているのか分からないが、大ぶりなソファークッションのようなゼリー状の生き物たちが地面をふるふると動いている。
三人はお互いの顔を見合うと頷いた。
事前に決めたフォーメーションに移行する。
熊野のすぐ横に彼方が立ち、後方に小葉が下がったトライアングルのような布陣とした。
そのままゆっくり近づいて攻撃可能な範囲までくると突然熊野が音もなく飛びかかった。
跳躍した瞬間から熊野からが音を立てて変化した。
パキパキと体全体が硬い岩石に変化していく。
体も全体的に大きくなり身の丈2.5メートルを超える岩石できた巨大なゴーレムのようになりそのまま自重の落下エネルギーを右手に握った拳に乗せて先頭にいたスライムを殴りつけた。
ーードーン!
巨大な岩石の衝突音とともにあたりに土砂がまう。
熊野が立ち上がると無惨にも散り散りに攻撃を受けたスライムが爆散していた。
一撃で撃退したようだった。
奥のスライム二体が当然、熊野たちに気がつく。
そのスライムたちが動くより先に、事前に取り決めていた通りに彼方が熊野の前に飛び出た。
「こいよ!」彼方が珍しく大きな声で叫んだ。
俗に言う挑発だ。
ヘイトを集めた彼方を目掛けて間髪入れずに素早くスライムが飛びかかってきた。
しかしスライムが飛びかかる前に彼方はシュッと素早く避けた。
彼方の回避能力が発動したのだ。
するとスライムではなくその彼方の「立っていた所」目掛けて、これまた事前の取り決め通りに事前にモーションをかけて飛び上がった熊野の岩石殴りが再び落下した。
岩石殴りは彼方の立っていた地面に炸裂したが、彼方目掛けて飛びかかって空振りしたスライムが避けきれず、まともに攻撃を喰らってまたも爆散した。
彼方が寸前に避けることを織り込んだ外敵へのカウンター攻撃が完璧に決まり、瞬く間にスライム二体を撃破した。
回避して傍に転がった彼方と拳を振り下ろして着地したままのポーズで固まった熊野が目を合わす。
二人ともこんなにうまく決まるとは思わなかったという表情をした。
このカウンターのコンビネーションこそが小葉が考案した1つ目の作戦だった。
後ろに構えていた小葉も我ながら綺麗に決まりすぎて、驚きを隠せなかった。
三人同時に声を上げる。
「やったー!!」
「おおぉぉ!」
「きゃー!すごい!!」
三人とも幸先の良い連携攻撃の成功に感極まってここが戦場であることを一瞬忘却した。
すると瞬間的に三人の意識の外にいた三体目のスライムが奥から彼方目掛けて飛びかかってきた。
マズい、熊野がタイミングが遅れてカウンター攻撃のモーションに入れてない。
このままだとコンビネーションが決まらない。
小葉は瞬時に判断して短く叫んだ。
「コンビネーション2!」
熊野がハッとして再び跳躍した。
小葉は右手を前に掲げて念じた。
ぶっつけ本番だがやってみるしかない。
自身の恩恵について小葉はまだ未知の領域があるとかねてから感じていた。
痛み、苦しみを含めた傷病を分けて配る。
それは恐らくは恩恵の効果の一側面だ。
本質は「分けて配ること」であり、その対象は小葉自身がイメージできる「目に見えない」抽象的な事象や概念だ。
抽象的な事象や概念を整合させようとしてその要因や結果が現実化される、と木葉は理解していた。
そしてそれは「公平」や「均等」に分配しなくてもいい。公平に均等にしたいのは小葉自身の信念や性格の問題だ。
恩恵を発露させるトリガーは「それができる」と自信が理解して解釈することだ。
リアリティを持ってイメージできること、つまり「確信」である。右手を前に掲げたその瞬間、小葉は『できると』と直感的に確信した。
小葉は手のひらか先の空間で行われる行為の「可能性」を配分した。
それも天秤を均一に配分するのではなく、片方の対象に「傾ける」ように。
天秤を傾けることができるのは小葉が最初に恩恵に覚醒した、「あの日」に実証済みだ。
忘れもしない最初の「命の配分」。
むしろそれこそがこの恩恵の能力の本領で魔女たる由縁だと小葉は理解してしまっていた。
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